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ばね作用の検証 【ばね座金の功罪 part3/6】
3-1.ばね作用 とは
ばね座金のゆるみ止め作用には2種類あると一般に言われている。「ばね作用」と「食い込み作用」だ。
「ばね作用」には2種類のメカニズム、機能があるとされる。
①ばねの反力で軸力を補償する(おぎなう)機構
②ばね座金が伸びることで座面のスキマを埋める機構
これらの機構がゆるみ防止に対して有効であるか検討していく。
![](https://assets.st-note.com/img/1656915694203-g6mmxKNV0C.png?width=800)
3-2.ばね作用が発生させる力はどの程度か
ばね反力は軸力と比較したときどの程度の大きさか、まず見ていこう。
ばね座金の反力は各種規格において規定されておらず、製品の実績値を公開しているメーカーもない。よって、文献中の実験値を引用する。
軸力は東日ハンドブックをもとに机上計算したものを使用する。標準T系列は通常の機械用途、つまり鋼材部品等を締め付ける場合の設定、0.5T系列は銅材、樹脂等比較的柔らかい被締結材を締め付ける際の設定の参考値である。
![](https://assets.st-note.com/img/1656920235168-GCUQtCQzBg.png?width=800)
ばね座金の反力は
標準T系列で 軸力の2~5%
0.5T系列で 軸力の5~10% であると試算できる。
※各製品のねじ材質、潤滑状態、トルク等締め付け条件および、ばね座金の個体差によって変化するためあくまで参考値。
つまり、ばね座金のばね作用が機能するのは、軸力がおおよそ10%以下になった場合。つまり既にネジがゆるんだ状態になって初めてばね作用が機能すると言って良い。したがって脱落防止作用についても効果は限定的だと言える。
![](https://assets.st-note.com/img/1671845361351-CNkId9HMOg.png?width=800)
3-3.ばね反力のへたり
経験がある読者も多いと思うが、使用済みのばね座金は新品に比べて、ばねが弱くなり、未締付け状態の高さも低くなる。つまり「ばね座金はへたる」。では「どういった原因で」「どの程度」 へたるのか。
へたる原因
これらのパラメータが大きく/多くなるほどばね反力は小さくなる。
締付けトルク
使用時間
再使用回数
これらの影響は
"Experimental Investigation on Performance of Helical Spring Lock Washer Under Different Operating Conditions" [2]において報告されている。
市販のM8とM10ワッシャを使った実験によってこのような実験結果が得られている。
1.締付けトルク
⇒ ばね反力 約20%減(M8に対し 15~25N・m付加時 [2] Fig.10)
2.使用時間
⇒ばね反力 5~15%減 (M10, 200hr使用時, [2] Fig.8)
3.再使用回数
⇒ばね反力 30~40%減 (5回 再使用 [2] Fig.6)
これらを複合させた実験は行われていないためデータが無い。
例として、締付けトルクとばね反力のグラフを紹介しておく。ばね座金をバネとして考えると、締め付け工程は線間密着した状態でさらに力を加えていることに他ならない。ばね座金のへたりは言われてみれば当たり前の現象である。
![](https://assets.st-note.com/img/1656935809148-f0xSpR2yBs.png?width=800)
引用:"Experimental Investigation on Performance of Helical Spring Lock Washer Under Different Operating Conditions" [2]
また、上記3条件に「使用温度」を加えてもよい。目安として200~300℃以上の条件下においては、高温によるへたりが顕著に促進される。
コラム①の・高温化におけるばね座金の使用 を参照すること。
高温環境下で使用されたばね座金は本当にぺったんこになる。確かめたければ、適当な乗り物の高温部、排気マニホールドやヒートガードにばね座金を噛ませてみると良い。なお、マフラーは温度が低くなるよう設計されているのでへたりが顕著に表れない。
3-4.ばね作用による脱落防止
脱落防止作用があることはゆるみ試験結果から確認できる。下図のように軸力低下がナット単体に対してゆるやかになっている。しかし効果量は他のゆるみ防止アイテムより小さいし、最終的にボルト軸力がほぼゼロになっていることからわかるように、脱落を阻止できない。つまりワイヤーロックやコッタピンのような確実な脱落防止効果は見込めない。
![](https://assets.st-note.com/img/1656670855946-tsdxvLBiqp.png?width=800)
なお念のため書いておくが、この図はあくまである試験条件における脱落防止効果(軸力低下トレンド)を示すものであって、「ゆるみづらさ」は評価できない。「ゆるみづらさ」は下図のようなグラフをもって、強制変位量の大小をもって判断すべきだ。(軸直角方向試験の場合)
下図のような場合、ゆるみが発生する強制変位量は、ばね座金は約0.35mm、皿ばね座金は約0.75mm、接着剤は約0.85mmだ。なお、数字が大きいほどゆるみづらい。
![](https://assets.st-note.com/img/1656672492493-eHaRQqrJkn.png)
引用: 軸直角振動によるねじのゆるみに関する研究 [5]
3-5.ばね作用のまとめ
◆一般に言われる機構について
①ばねの反力で軸力を補償する(おぎなう)機構
⇒反力は軸力のおよそ10%以下であるため効果は限定的。
②ばね座金が伸びることで座面のスキマを埋める機構
⇒スキマが生じたとき、ばね座金が補償できる軸力は10%程度。
⇒効果を発揮する領域が狭いため他の方法と比較したとき脱落防止効果は小さい。
![](https://assets.st-note.com/img/1656915694203-g6mmxKNV0C.png?width=800)
■ばね作用のまとめ
◆初期軸力のおよそ10%以下においてばね作用は機能する。
・よって軸力を補償し、ゆるみを防止できるのはごく限られた場合のみである。
・また脱落防止としても効果は限定的である。
・ばね座金は①締付けトルク②使用時間③再使用回数 によってへたり、ばね反力は必ず経時劣化する。
・そのため、補償できる軸力も減少していく。
・また高温環境では急速にへたり、ばね性が失われる。
次の記事では、食い込み作用について検討する。
⇚前:Part 2/6 ゆるみ試験の収集分析
次⇒:Part 4/6 食い込み作用の検証
Part 3/6 参考文献
ばね座金を用いたボルト締結部の設計指針の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmedsd/2018.28/0/2018.28_1405/_article/-char/jaExperimental Investigation on Performance of Helical Spring Lock Washer Under Different Operating Conditions
https://link.springer.com/article/10.1007/s11668-019-00685-z東日トルクハンドブック vol.8
https://www.tohnichi.co.jp/products/download/service_file/12ハードロックナット技術資料
https://www.hardlock.co.jp/wp-content/uploads/pdf/HLN_Technical-data.pdf軸直角振動によるねじのゆるみに関する研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1933/42/497/42_497_507/_pdf
ばね座金の功罪 目次
=Part 1/6 この記事の目的=
=Part 2/6 ゆるみ試験結果の収集分析=
=Part 3/6 ばね作用の検証=
=Part 4/6 食い込み作用の検証=
=Part 5/6 付随的な作用の検討=
=Part 6/6 ばね座金の使用指針=
コラム① ゆるみ現象の分類
コラム② 世界のばね座金(準備中)
FAQのコーナー
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