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使用指針 【ばね座金の功罪 part6/6】
これまで ゆるみ試験結果をPart.2 で検討し、ゆるみ止め効果があるとされる ばね作用 を Part.3 で 食い込み作用を Part.4 で 検討した。 検討結果をまとめ、使用指針を考える。
6-1.ゆるみ止め効果はあるか?
◆ゆるみ止め効果が発揮される条件は限定的である
ゆるみ止め効果は食い込み作用によって発生する。ばね作用によっては発生しない。ばね反力は軸力の10%以下であるからだ。
ゆるみ止め効果はどんなときにでも発生するものではない。いくつかの条件を満たした場合にのみ、ばね座金はゆるみ止めとして機能する。
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食い込み作用がゆるみ止め効果を発揮するためには、少なくとも以下の条件を満たす必要がある。正確な条件は明らかになっていない。詳しくはPart.4参照
1.ばね座金単体で使用していること。平座金など他の座金と併用していないこと。
※ばね座金が踏ん張っても平座金と被締結物の間ですべれば意味がない
2.ばね座金の硬度は被締結材およびネジより硬く、かつ適切な硬度差があり、さらに食い込ませるに十分な軸力が負荷されること
※まずは食い込ませる必要がある
3.外力に対して被締結材とネジのせん断抵抗が大きく、繰り返しの負荷に耐えること
※柔らかすぎれば抵抗にならずゆるみ止めにならない
4.オイルなどによって潤滑されておらず、また摩擦係数が低い材料が使用されていないこと。
※食い込んでも滑れば役に立たない
5.ばね座金の切れ目の方向が振動、外力の方向と交差していること
※一致している場合は効果が著しく減少する
これらの条件は理論的に解析されておらず、ゆるみ止め効果の程度は実験的に確かめるほかない。硬度や潤滑状態など管理可能なパラメータもあるが、切れ目の向きなど管理が難しいパラメータも存在する。さらに、食い込み作用において特に重要な座金切れ目の切っ先形状は一般に生産管理されておらず、製造バラつきや製造者による差異が大きい。
なお、ゆるみ止め効果が発揮されたとしてもその効果量は他のゆるみ止めアイテムに対して特別に優位であるとのデータはない。
◆ばね座金は潤滑状態においてゆるみを誘発する場合がある
ゆるみ試験結果および、シミュレーション結果により潤滑状態では六角ナット/ボルト単体よりゆるみやすい。 詳しくはPart.4参照
ゆるみメカニズムは実験的に確かめられていないが、シミュレーションによれば切れ目の角を起点とした回転運動が発生するとされている。[1]
実験結果も潤滑状態では六角ナット/ボルト単体よりゆるみやすいデータが複数存在する。 Part.2 参照
6-2.メリット・デメリット
改めてばね座金のメリット・デメリットをまとめる。
◆メリット
限定的な条件でゆるみ止め効果がある
薄物締結時にスペーサとして有効である。
ゆるみ目視点検が簡単になる。
仮止めによる位置調整作業が容易になる。
安く、流通性が良い
※2~4は Part.5 参照
◆デメリット
ゆるみ止め効果は不安定である
・締結完了時の切れ目の向きなど管理できない因子がある。
・理論的な解析がなく実績ベースの検討しかできない。容易にへたるため、ばね反力を信頼できない
・ばね反力は生産管理されておらず、初期ばね反力は不安定である。
・そのうえ容易にへたるため使用中のばね反力ははさらに不安定となる。
・新品と再利用時ではばね反力が異なる。座面が荒れる
・食い込み作用の背反として座面が荒れる。
・再利用時の軸力バラつきが増加し、ゆるみに繋がる。
・再利用時に座面を整える処理が必要になり面倒である。
6-3.どのような場合に使用すべきか
すでに使用されている場合
多少なりともゆるみ止めとして機能している場合があるので安易に外さないこと。外す場合は注意深く経過観察すること。特定の用途がある場合(ゆるみ止めを除く)
例:仮止め、ゆるみ点検、締め付け特性 など薄物を締結する場合
不完全ねじ部回避など。使わないとシバいてくる人間が社内外に居る場合
ワッシャごときでシバかれるのはメンタルによくないぞ!
6-4.使用を中止すべき場合
ゆるみが発生している場合
ばね座金では力不足だろうと推察される。別のゆるみ止めアイテムを検討すること。座面の荒れがひどい場合
再利用が困難になるほど座面が荒れる場合は使用を中止すべし。締付け時に潤滑剤を使用する、あるいは油汚れが十分に除去できない環境で使用される機械の場合
潤滑状態では六角ナット/ボルトよりゆるみやすい。
6-5.ばね座金の功罪
ばね座金は戦前から使われており[2] 様々な業界・機械で活躍してきた。おそらく素朴なアイデアから生まれたであろうばね座金という部品は100年以上にわたって世界中で使い続けられてきた。
現代の視点で見てもゆるみ止め効果がまったく無いとは言えない。だが、効果が発揮できる条件は限定されており効果量も特別優れているとは言えない。また、座面を荒らすことで再使用時の締結状態を悪くする特性がある。これは繰り返し使用が可能であるというねじ締結の利点を損なう。
とはいえ、これだけ長期間の間に数多くの場所で使われてきた部品である。大きなデメリットも無いと言ってよいのではないだろうか。座面の荒れも、ゆるみについても、デメリットは実用上多くの場合で問題が無い程度と言ってよいように見える。
安価で流通性のよい部品として便利に使われてきたことはばね座金の功績と言って良いだろう。一方でゆるみ止めとしては使い方が難しい部品であるということもまた事実である。機械に罪は無いが、ときに人間は間違える。この記事がばね座金の正しい使い方を考える助けになれば幸いである。全ての機械・部品に対して正しい設計、正しい製造、正しい使い方、正しい保守整備、そして最後には正しい廃棄とリサイクルがなされ、無事に機械がその寿命を全うすることを、機械屋の片隅から祈るばかりである。
Part 6/6 参考文献
三次元有限要素法によるばね座金のゆるみ挙動解析
https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/~izumi/papers/Spring_washer070326.pdfバネ座金に就て
https://www.jstage.jst.go.jp/article/trbane1952/1952/1/1952_1_163/_article/-char/ja
ばね座金の功罪 目次
=Part 1/6 この記事の目的=
=Part 2/6 ゆるみ試験結果の収集分析=
=Part 3/6 ばね作用の検証=
=Part 4/6 食い込み作用の検証=
=Part 5/6 付随的な作用の検討=
=Part 6/6 ばね座金の使用指針=
コラム① ゆるみ現象の分類
コラム② 世界のばね座金(準備中)
FAQのコーナー
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