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屋根裏の古文書

 ある親戚から、屋根裏から他の古道具と共に見つかつたといふ、明治頃のものと思しき小册子を手に入れた。紙縒で簡素に綴じられてをり、長い間放置されたために劣化が著しく、蟲損も多い。表紙には、辛うじて『當代風俗辨』と墨書してあるのが讀み取れる。中身も判讀可能な箇所を繙くと同じ手で書かれてをり、誰かが他の閲讀に供するため、當時の文化について見聞したことを書き留めたものらしい。
 記事の一例を示せば下掲の如し。資料の狀態が惡く通讀できてゐないが、興が湧けば他の記事も紹介しようと思ふ。

 「例の堂摺連の一黨、女義に執心の餘り、賄ひて高座上から我名を呼ばしむる事を覺えたり。傍から見れば笑止なれど、當の本人は得意顏。然れば他の連中も負けじと貢げば、女義殿思はぬ大儲け。つひに或若大盡、金幣惜しまず擲ちて、有らう事か娘の唄ふ淨瑠璃中の人物とは成れり。
〽︎申し誰某樣、親と親との許嫁、在りし樣子を聞くよりも、嫁入する日を待兼て、お前の姿を繪に畫かし、見れば見るほど美しい、
 此には流石の堂摺連も如何ともする能はず、興醒めて立去れりと云ふ」

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