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旅館にて
薄暗い廊下に、人影がせはしげに搖曳してゐる。さざめきが高まり、後退ると、從者を先拂に土埃色の略裝姿が足取り輕く歩み出た。嗄聲で冗談を言ひながらも、間近に見る面貌は強張つてゐる。圍繞する衆人はその身に纏ふ血と埃とに敬意を拂ひ、暫しひそまつてゐた。
小柄でどこか戲けたその樣は、何かを演じるままに演技の區別を失ひ、觀客を求めて流浪を續ける旅藝人のやうでもあり、いつ散文的な終幕が訪れるか知れぬ身の上を思ふと、色めき立つ中にありながら、田舎芝居を送り出すやうな淋しさを感じてゐた。
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