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たことゲームの話

能天気サンタクロースへの恨み

長男たこ・長女ぴこ・次女ちぃは、現在不登校・不安定登校の日々を送っている。

長男たこは、小学1年生の時のクリスマスに、サンタさんから『swich』をもらった。子どもがみんな喉から手が出るほど欲しがる、あのゲーム機だ。

当時から母は、サンタを恨んでいた。
「小1でスイッチだと?もっと外で遊んでほしいのに!!勉強だって軌道に乗ってないのに!!勝手なことをしてくれやがって!!」

しかし夫は、「友だちとのコミュニケーションにスイッチは必要だ。ゲームって楽しいもん。楽しい時間が増えるのは良いことだ。」と言った。

楽観的な夫と、過集中なたこ。どうなることやら。と思っていた。

結果はすぐに表れた。そして、『ゲーム』と『ルール』の攻防は、長期に渡り繰り返されることになる。
たこはゲームに熱中し、家族との会話も疎かになり、ドライブに行っても景色を見なくなった。外食中もスイッチを離せない。案の定だ。

夫は、こまごまと約束をとりつける。
「外に出るときは、スイッチ置いていく。」たこは、外に出なくなった。
「ごはんの時は、スイッチ止める。」たこは、食事量を減らして、早々に食時を終了し、スイッチに戻って行った。

ゲームの制限時間も、もちろん設けていた。
「見守り機能があるから大丈夫☆」当時夫は、現代のゲーム機は親の思いまで汲んでいる。なーんも問題ない。と、そんなことを言っていた。

ゲーム時間延長交渉

しかし、たこは、制限時間内のゲームでは全く満足できなかった。
「どうしたら、ゲーム時間を延長してくれるのか?」
1年生から6年生の今の今まで、たこと両親の会話といったら、それに尽きる。

両親は、たこに勉強をして欲しかった。
そして、進研ゼミや、自主学習用のドリルを出してきては、1ページやったら、10分!と、勉強の成果とゲームの時間延長をリンクさせて対応していた。

たこの学年が上がるにつれて、自主学習の難易度も上がった。たこは、「ページ数に対して、与えられるゲーム時間が学年が上がっても同じというのはおかしい!難易度が上がった分、1ページに対するゲーム時間も増やしてくれ!」と主張した。

たこが、ストを起こし、全く手を付けない進研ゼミが溜まっていった。
「これやったら、何分くれる?」という交渉に、両親は「30分」と1枚につき30分のゲーム時間を付与するようになる。
たこは、簡単なページを選んで4枚くらいこなし、2時間ゲーム時間を確保した。

たこは、1から順番に単元をこなしていくという、母の中の常識を覆した。長文読解や、複雑な計算のページはどんどん飛ばして、穴埋めや、コラムのクイズ、のようなもので時間を稼いでいた。その穴埋めも、よく見たら「わかんないから書けないよ。けど、やったよ。」と空欄、もしくはハチャメチャな当て字がはめ込まれていた。
母はもちろん「異議あり!!」とたこに主張したが、たこがそれ以上学習に取り組むことは無かった。

たこは、『学習のしんどさ』と『ゲームの娯楽』を天秤にかけ、学習の難易度が増せばすぐにゲームを放棄した。そして、惰性的にテレビを見て過ごした。

更には、日に日に無気力になっていくたこに、両親は煽られていたのだと思う。たこの目が死んでる。意欲も輝きもない。このままで良いのか?どうしたら、また元気になる?

そんなたこを受けて、両親のゲームに対する戒律が緩まった。『学習時間に対する対価としてゲーム時間を付与する!』という鉄のルールが崩れた。

なし崩し的に、だらだらと「今日は友だち来てるから、ゲームやって良いよ。」とか、「今日は家族旅行に付き合ってもらうから、車でならゲームして良いよ。」と。両親のガードもガバガバになっていった。

たこの戦略と両親の意地

また、『学習時間に対する対価としてゲーム時間を付与する!』という制度は、たこの理屈によって、ひっくり返されてしまう。

たこは宿題を放棄して、自主学習の“進研ゼミのみ”をやるようになった。
「約束通り自主学習したから、ゲーム時間の延長をしてくれ!」
宿題をやっていないのに、くれてやれるか!宿題は前提として終わらせてから自主学習だ!両親はそう、主張した。
たこは、渾身の恨みを込めて両親を睨みつけ、「うそつき。」と言った。

そしてたこは、宿題と自主学習をこなす為に、授業に出なくなった。不登校児童や、教室苦手児童が集まる『別室』でたこも過ごすようになり、授業に出ず、その日の宿題で出されるであろうドリルと、自主学習をそこでやっていたのだ。

「帰宅したら、すぐにゲームがやりたい。だから、帰ってから勉強する時間はもったいナイ。宿題と自主学習でゲームができるなら、授業は出ない。」
という理屈だった。なんてクレイジーなんだ。そんなことが許されるわけがないだろう。

両親はたこに詰め寄った。
「授業が1番!宿題が2番!自主学習が3番!!それが全部できてゲームを許可します!!」
たこは目を向いて両親を見つめた。両親に投げつけるようなため息をついた。たこは憤慨していた。また条件を追加しやがって。言われた通りやってやってるのに、文句ばっかり言ってくる。こんな親、最低だ!許せねぇ!!

たこは寡黙な少年なので、こんなヤンキー的な言葉は決して使わないが、心の声は顔に出るタイプの子だった。憤慨しているのは明らかだった。

しかし、親としてもそこは譲れない。1授業、2宿題、3自主学習だろう。当たり前にそうだろう?何言ってんだたこは。ふざけるんじゃないよ。そう思っていた。

たこの無力感

たこは、学校を欠席することが増えた。
「何もかも無駄だ。何をやったとて報われない。自分のやりたいことは、一生できない。」
たこのうつろな目がそう物語っている。

両親は困り果てていた。これが不登校児の原因『無気力』ってやつだ。どうしてこうなった?今までちゃんと頑張ってやって来たのに。両親ともに困惑し、たこを理解できていなかった。
「学校休むなら、ゲーム禁止だ。一日寝てろ。」
そんな言葉を放って、仕事に行っていた。

その対応でたこが元気になる訳がなかった。
学校に相談しても、「家でゲームさせちゃうとね、ますます学校来ないですよね。お家が楽しいですから。そのうち家に飽きて、学校きますよ。」
なんて言われていた。

しかし、休ませても休ませても、たこの目はうつろだ。食べるご飯の量も、口数も、元気も、なにもかも低下の一途だ。さらには、たこは「オイ!!」と声を荒げて、妹たちが自分に触れようものなら容赦なく怒号を飛ばしていた。家庭内の雰囲気がとても悪い。たこの機嫌がめちゃくちゃ悪い。

たことオンラインゲーム『原神』

たこは、オンラインゲームの『原神』をやりたがっていた。母は断固反対していた。これ以上、悩みの種を増やすんじゃないよ、全くと取り合わなかった。

たこは、「原神インストールしてくれたら、学校行く!お手伝いもする!」と条件を出して交渉していた。夫もはじめは、ゲームの制限時間が尽きた時のたこの不機嫌さ、益々学校より家の環境が娯楽化してしまうことを恐れ、たこの話をさらり、ゆるりとかわして逃げていた。

何カ月過ぎても、たこの『原神』への情熱は衰えることがなかった。たこは、「やっぱり、おれのいう事は無視される。誰も分かってくれない。何を話しても、無駄なんだ。」と、覇気のない少年に戻って行った。

夫は、グラついていた。「たこの張り合いになるのなら、『原神』をインストールしようか。」と。
母は、ゲームには全く興味が無く、ゲーム時間は『浪費』とか、『消費』に過ぎないという固定観念に囚われていた。

結局夫は、たことのいくつかの約束を取り付け、『原神』をインストールした。たこはとても喜び、表情に精気が戻ってきた。
たこは、「約束だから。」と学校にも行くようになった。友達も家に読んで、ゲームに興じた。土日はたこに、3時間のゲーム時間が付与されていた。

たこは、自分の持つ機器すべてを3時間内で同時にフルで稼働した。テレビをつけアマプラで見たいアニメを見ながら、スイッチではYouTubeでゲーム実況動画を見ながら、パソコンでは『原神』のRPGを進めていた。家庭はたこの城と化し、友だちも4~5人我が家のリビングに居た。

「たこの大事な時期を、ゲームに喰われていて大丈夫なのだろうか?」百歩譲って友だちと遊ぶツールとしてのゲームは母も納得できた。しかし、友だちとの交流はほんの一部で、同じ空間に居るものの、実際は一人で黙々とゲームだった。

「ちょっと外いこう!」「午後は別の事しよう!」そんな友だちの誘いも一切断り、自分の制限時間が終了すると、友だちのゲーム機の制限時間を使い、ずーっとゲームをしていた。

更には、沢山友だちが来た日には、「友だちの制限時間内で日中ゲームをしたので、自分の制限時間はまだ使っていない」と言い出し、友だち帰宅後から、パソコンを開く。夕飯もゲームが食い込んでビシッと家族が食卓にそろわない。「今はおれのゲーム時間だ!邪魔するな!」と態度で訴え、風呂も遅れ、寝るのも遅れれいた。

おまえ、ふざけるなよ。
母は、憤っていたし、夫は頭を抱えていた。

たこのゲーム時間をめぐる両親のバトル

そんなときに両親を揺らがす事件が起きた。
たこの友人イルカくんが午前中、我が家に遊びに来て、「今日午後からうち来て!あのプロジェクトの続きやろう!」とたこを誘ってくれた。「やだ。」とたこは答えた。

理由も弁解もせず、ぶっきら棒に、大切な友だちに薄情な言葉を投げつけるたこを目撃した両親は、たこに心底がっかりした。
イルカくんへのフォローをしなければならない、と「今日はパソコンの暗証番号解かない。友だちと遊べ!!失礼なやつだ!!」と怒って妹たちと外出した。パソコンが解かれないなら、スイッチの制限時間が終われば、イルカくんの家に行くだろうと思った。

我が家には、イルカくんと、友人たちと、たこが残された。

15時ごろ、両親が帰宅した。
すると、たこは、イルカくんの家に行かずに家にいた。イルカくんは帰宅していた。そして朝からいた友人たちに「家から出よう、イルカんち行こう。待ってるんだぞ!」と説得を受けていた。

「行っといで。お誘い受けてるんでしょ。」と声を掛けた母を、たこはギラギラ殺気の宿った目で睨んで、友だちの手を振りほどいた。
「やだ」そう言って、ホットカーペットに寝転びテレビをつけた。

両親も友だちも唖然とした。
「ごめんね。ありがとう。もういいよ。」
夫が友人たちに声を掛け、友人たちは「わかりました。おじゃましました。」とイルカくんの家に向かった。

友人たちが玄関の扉を閉めると同時に、母は、
「友だちより大切なものなんて、この世にあるか!!友だち大事にできねぇなら、こんなもん捨てちまえ!!!!!!」
とテレビの電源を切ってスイッチをとりあげた。スイッチ投げつけてやろうか!パソコンたたき割ってやろうか!!それほど怒りに震えていた。

たこも怒っていた。母の怒号を受けて押し入れに入り込んだ。布団を殴って、壁を蹴っていた。荒い呼吸と、堪えている悔し泣きが漏れていた。

しばらく母は、怒りを収めながら考えていた。
こんなこと、一体何年やってんだ、と。制限をかけて、コントロールして、生活が正しくなるどころか、友だちと積極的に遊ぶどころか、むしろ時間も精神も監視から自由になれず、たこ自身をむしばんでいるように感じる。

夫は、「ルールを見直そう」と落ち着いたたこに提案した。
「紙にしっかり決めたことを書いて、ペナルティも決めて、生活正していこう。人間関係を大切にできると思える時間配分でゲームしよう。友達も、家族も、大切だよ。勉強だって、運動だって、いろんなことを体験して学んでほしい。だから、もう一度、ゲーム時間締め直そう。」

たこは、下を向き黙っていた。

母の考えは違っていた。ルールを厳しくすることに不毛さを感じていた。「もう、好きなようにやりたいことやさせよう。ゲームは、概ね無制限が良いと思う。制限掛けるのは20時から朝8時まで。それ以外は、パソコンも、アマプラも、YouTubeも、ゲームも。みんな自由にしよう。何が学びになるかなんて、分からない。たこのゲームの知識量は、大人でもびっくりするものがあるよ?昼夜逆転は、いろんなチャンスを失ってしまうし、健康を害するから許可できない。だから、この制限時間で行きたい。」

夫は目を閉じて首を横に振った。
「へーさんは、メディアの怖さが分かってない。依存症で苦しめられてる人や家族が世の中に沢山いるんだよ。それほど中毒性が強いの。子どもの脳が機能しなくなるよ。この子は自分で制限出来ないよ。ゲームが大好きなんだから。」

母は言った。
「大好きだからだよ。好きなことがある!やりたいことがある!それだけで素晴らしいと考えよう。もう12歳だもん。自分で考えられるよ。信じよう。」

夫はうなだれている。どうしても納得ができないようだった。

しかし、夫は過去に何度も、たこの精気の宿らない目を見る度に、自分を責めていた。
「俺が、たこの自信を奪ってしまってきたのかな。俺が、たこに期待しすぎて潰しちゃったのかな。」と。
落ち込む夫に、
「今までベストだと思う選択をしてきたよ、大丈夫。二人で育ててるんだから。」と母はいつも声をかけていた。

夫は、父親として、この家族の主導権の責任を果たしたいとずっと考えていた。母も、夫の思いを汲んで、「パパに聞いてごらん」と子どもには言ってきたが、実質的な主導権は、剛腕で感情的な母にあった。

今、夫を立てるべきか。自分の直感を押し通すべきか。
夫の目と、たこの目を交互に見ながら、場の流れを測っていた時。
たこが言った。
「信じて欲しい。」

夫はハッとし、たこの目を見た。たこは、照れているような、自信のの無いような肩をすくめた感じでほほ笑んだ。

夫から深い深いため息が漏れ、「・・・・分かった。」とたこに伝えられた。

追記

たこは、解放されたメディアを存分に楽しんだ。朝8時から夜20時まで、ぶっ通した。
しかし、たこが20時に電源を切って言った。
「お風呂に入って、勉強する。それが終わったら読みたい本があるんだ。」
たこがテキストを触ったのは5カ月ぶりのことだった。

自分への教訓

  • 子どもを信じるって難しい。何が信じるって事なのか、立ち止まって考えてみる。

  • お互いに正直にぶつかってみる。




学校で生きずらさを抱える子どもたちのために何ができるのか。 たこ・ぴこ・ちぃだけではなく、不登校児の安心できる居場所づくりの資金にしたいと考えています。