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72.ソーシャルワーカー

2001年に公開された映画『ペイ・フォワード 可能の王国(Pay It Forward)』という作品があります。

作中で…、

“自分の周りの世界が好きになれなかったとしたら?…もし、世界が大きな失望でしかなかったら?”

…と、社会化クラスのシモネット先生(ケビン・スペイシーさん)は、小学校の生徒達に問い掛けます。
 
その上で…、

“それなら嫌いな部分をクルリと変えてしまえ。君たちならできる。不可能を可能に……君たち次第だ。”

…と鼓舞します。
 
そして、シモネット先生は課題を出しました。

“世界を変える方法を考え、それを実行してみよう”

…というものでした。
 
“世の中はクソだ”と考えている11歳の少年のトレバー君(ハーレイ・ジョエル・オスメントさん)は、その課題に対して…、

“自分が受けた善意をその相手ではなく別の3人に渡す。そして、その渡された3人はそれぞれが別の3人に渡していく…それを繰り返す。”

…という“Pay It Foward”を思いつきました。
 
“ペイ・フォワード”は恩返しではなく恩送りです。

これを観て“恩着せがましい”のではないかと思う人もいるかもしれません。
 
“恩着せがましい”の意味は、恩を押し付けて相手に感謝を強いる様子のことを言います。

“手伝ってあげたのだから、感謝しろよ”といった具合です。
 
似たような言葉に“押しつけがましい”という言葉もありますが、こちらは相手に自分の考えや意見を押し付けることです。
 
“恩着せがましい”と“押しつけがましい”との違いは、相手に感謝の気持ちを強いるかどうかです。

そこで“ペイ・フォワード”を考えると全く恩着せがましくありません。

場合によっては、恩つけがましくなってしまうかもしれません。
 
現在、社会で生きている人はみんながたくさんの人にお世話になりながら生きています。
 
育ててくれた家族、学校の先生、地域の人、そして社会の中で働いている人達など…にお世話になってきました。
 
水道を捻れば水が出てきますし、スイッチを押せば電気がつきます。
 
友だちに書いた手紙がその相手に速やかに届き、数日後にポストを見れば手紙が返ってきています。
 
今の時代、メールなんて一瞬で相手に届くし、インターネットによって、リアルタイムで世の中の出来事を把握することもできます。
 
このように、自分たちの生活をたくさんの人の仕事が支えてくれています。
 
それは当たり前ではなく、感謝するべきことだと思います。
 
でも、ほとんどの場合は、その支えてくれている人達みんなにそれぞれ同じ事をして恩返しをすることはできません。
 
自分にできることは、これまでのたくさんの御恩に対して、これから出会う人たちや既に出会っている人たちのお困り事を解消するという形で、恩送りをしていくことなのかなと思います。
 
これが私にとっての“ソーシャルワーク”です。
 
Wikipediaでは…、

“ソーシャルワーカー(Social worker)」は、社会の中で生活する上で実際に困っている人々や生活に不安を抱えている人々、社会的に疎外されている人々と関係を構築して様々な課題に共に取り組む援助を提供するソーシャルワークを専門性に持つ対人援助専門職の総称である。
その為、相談者本人だけではなく様々な課題の背景や周囲にある、家族、友人、その他の関連機関や環境にも働きかける。”

…と書かれています。
 
ソーシャルワークは“制度を使う仕事”と“制度を変える又は創る仕事”の2つによって構築されています。
 
例えば、高齢者介護であれば、介護保険を始めとする様々な制度に基づいて行われています。

それらの制度に沿って、ケアマネージャーや介護職員などが仕事をします。
 
これが“制度を使う仕事”です。
 
“制度を変える又は創る仕事”は、各種の社会福祉制度を生み出していく仕事です。
 
どんなに素晴らしい制度があっても、それを使う人の知識や技術、意欲なしには制度は本来の目的に達することができません。
 
逆に、素晴らしい人材があっても、制度が整っていなければ職員は本来の力を発揮できません。
 
“目の前の困っている人の困り事を解決したい”と思った場合に、どの制度が使えるか…どんなサービスを利用できるかをまずは考えます。
 
つまり、“制度を使う仕事”は“個を見る仕事”と言えます。
 
対する“制度を変える・創る仕事”は、社会全体の困り事を解決する方法を考える仕事だといえます。
 
今あるものを使うことだけにとどまらず、今あるものをより良いものに変える…又は、必要であれば、創るといった広い視野が必要です。
 
社会の変化によって生まれた“歪み”に目を向けて支援の仕組を整えます。
 
1946年の生活保護法から始まり1947年の児童福祉法…と続き、時代の流れとともに、福祉六法と呼ばれる日本の福祉制度の根幹を成す法律は、どんどん支援の対象を広げてきました。
 
それは社会の変化に伴って、当初は想定していなかった生きづらさが表面化していった歴史でもあります。
 
これからも社会の変化に伴う“歪み“や問題点に注目しながら、時代に応じた解決策を提案していかなければなりません。
 
“創造”の為に必要になってくるのが、相手の状況や気持ちを“想像”することです。

困っている人のお困り事を解消したいという福祉の心が、ソーシャルワーカーの原点になります。
 
社会が変化することによって、これまでの支援の仕組が充分に機能できなくなる場合があります。
 
記憶に新しいのが、ワーキングプアという日本独特の貧困問題が発生し始めた頃のことです。
 
ワーキングプアは、働いているにも関わらず、生活を維持することが困難な水準の収入しか得られないことです。
 
背景には、派遣社員などの非正規雇用を拡大した社会の変化があります。
 
正社員や終身雇用が当たり前だった時代には想像もできなかった時代の変化に伴う新しい生きづらさの代表例です。
 
この問題は未だに解決はしていません。
 
ソーシャルワーカーはこの課題にいち早く目を向けて、現場での支援を始めました。
 
更に支援の輪を広げていき、生活困窮者自立支援法という法律の制定に結びつきました。
 
2013年12月に交付されて2015年4月に施行されました。
 
生活困窮者自立支援法は、生活保護に至る前…又は保護脱却の段階での自立支援の強化を図る為の法律です。
 
生活困窮者支援制度は第2のセーフティネットと呼ばれていて、雇用の安定を図る雇用保険と、最低限度の生活を保障する生活保護の間を補完する制度です。
 
時代の変化が生み出す制度や仕組の狭間に目を向けてそこで苦しむ人を支援するという、ソーシャルワーカーの役割が存分に発揮された出来事です。
 
社会の中で困っている人を支援するのがソーシャルワークです。
 
そこで考えるのは、困っている人たちを見て、その人たちのことを支援するだけの対象として見てはいけないということです。

なぜ、人は困るのか…それは社会に問題があるからです。
 
人間関係で困った時も、背景を見ていくと、結局行き着くところは環境…社会です。
 
犯罪をしてしまった人や非行少年は、その人達が置かれた環境…社会と対峙した結果、行動を起こしてしまったと考えられます。
 
困っている当事者の人たちは、社会構造上の問題点にぶち当たり、それを抱え込んで困っています。
 
そのお困り事を解消するということは、そのことによって、ちょっとは社会が良くなるということです。
 
問題を解決するには、個人への働きかけだけではなく、社会、制度…様々な背景、環境にも働きかけが必要になります。
 
要するに、支援の対象になっている人は“社会をより良くする為の方法”を教えてくれている人と考えて良いと思います。
 
個人の問題をしっかり社会化していくことが、真のソーシャルワークだと思います。
 
どんな職種でも、人のニーズや困り事からサービスや商品を設計していくのが仕事の基本になると思います。
 
福祉の場合は、困っている人が自分の気持ちや考えていることをなかなか伝えられないことも多いです。
 
ニーズや困り事が見えづらいなら、関わりの中で何気ない表情や動作などから想像を働かせる必要もあります。
 
ソーシャルワークは1人でできるものではありません。
 
人脈が広がれば、それだけ多様性のある解決に結びつきます。
 
人はそれぞれ違います。

その個性こそが、何より大事なものです。
 
これまで様々な社会問題を見てきましたが、これが全てではなく、まだまだ他にもたくさんの問題があるという…恐ろしい時代です。
 
負の遺産が積もりに積もって、これから30年後に人口減少が物凄い勢いで加速した時に、今も既にそうかもしれませんが取り返しがつかなくなります。
 
しかし、問題があるから社会をガラッと変えようなんて考えても不可能な話です。
 
社会の中で困っている人を支援するのがソーシャルワークであり、ひとりひとりの問題を解消する積み重ねで社会をより良くするのがソーシャルワーカーの使命だと認識しました。
 
こんな社会ですが、創造力と想像力と実行力にちょっとしたユーモアを交えて生きていければなと思うこの頃です。


写真はニセコ町から羊蹄山を撮影したものです。

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