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30.過疎と地域おこし

人は歴史や経済の流れに沿って様々な場所に移り住んできました。

特に、発展している都市部には自然と人が集まり更なる成長を遂げてきました。

しかし、都市部に多くの人が移ることによって課題も発生します。

日本が抱える大きな課題の1つ“過疎化”です。
 
日本は1950年代以降に高度経済成長期に突入して、これをきっかけに農山漁村を中心とした地方に暮らす人々が続々と都市部へ移住しました。

主に、雇用の機会を求めている若者やその家族が都市部へと流れていきました。
 
しかし、多くの人々が都市部へ住まいを移したので地方の人口は減少しました。

これが“過疎化”です。
 
過疎化が起きた地域は、税収が減って行政サービスの低下が起こります。

これにより、教育や医療など基礎的な生活条件の確保が困難になる地域が出てきました。
 
過疎化が起こっている地域は“過疎地域”や“過疎市町村”と呼ばれています。

過疎に関する法としては、1970年に過疎地域緊急対策措置法として誕生し、4次に渡って“過疎法”として制定されてきました。

2021年4月には、5次になる過疎地域持続的発展の支援に関する特別措置法が施行されています。
 
過疎市町村の大部分である農山漁村地域は、自然環境の保持や国土の保全など国民がより良い生活を送る為に重要な役割を果たす地域が大半です。

その為、農山漁村地域が衰退すると国民の暮らしにも影響が出てきます。
 
“過疎市町村”と“過疎地域とみなされる市町村”、また“市町村合併などによって過疎地域とみなされる区域として公示された区域”の3種類を合わせて“過疎関係市町村”といいます。
 
過疎関係市町村は2003~2005年頃にピークを迎えた平成の市町村大合併によって、全国の市町村の数は合併以前に3232あったのが、2006年には1820にまで減少しました。
 
その結果、合併直後には過疎関係市町村も数の上では一度減少しましたが、2006年以降は再び増加傾向にあります。

2021年4月の時点で、日本に存在する過疎関係市町村の数は820ヵ所です。
これは、現在ある1718市町村のうち47%を占めていることになります。
 
また、過疎関係市町村の中には“限界集落”と呼ばれる地域もあります。

限界集落は65歳以上の高齢者が地域の住人の半数を超え、地域共同体が機能しなくなっている状態です。
 
過疎地域全体としても高齢化は進んでいて、総務省によると、このまま地方の過疎化が進んだ場合、2050年までに現在人が居住している地域のおよそ2割が無居住化すると予測されています。
 
過疎の集落や市町村では働き口が減少している他、耕作放棄地の増大や住宅の老朽化、空き家の増加だけでなく、獣害や病虫害等といった問題が発生しています。
 
また、商店やスーパーの閉鎖や公共交通の利便性の低下が進み、地域住民の生活水準の維持ができなくなっている地域も少なくありません。
 
過疎化の進行は、その地域に住む人が利用できるインフラや医療体制が維持できなくなるだけではなく、都市部の生活にも広く影響を及ぼします。
 
過疎地域はそのほとんどが農林水産業の担い手であり、食料供給といった面で都市部の生活を支えています。
 
また、広い面積を占める農地や森林の保全を通じて、都市部も含めた環境維持や温暖化対策にとって大きな役割を果たしているので、その機能を維持することは重要課題となっています。
 
人口が都市部に流れることで起こる過疎化は、地方のみが被害を受けているかのように見えますが都市部にも影響は出ています。
 
地方の多くは、農業や林業といった第一次産業を主として生計を立てています。

その為、過疎化により地域が衰退してしまうと産業の維持も難しくなり、都市部への供給も止まってしまいます。
 
過疎化による人口減少は、高度経済成長期から問題視されてきました。
 
当時のように激しい減り方ではありませんが、現在も若者が都市部へ流れたり、過疎地域の死亡者が出生者を上回ったりすることによって人口減少は進んでいます。
 
そして地方では高齢者以外の年齢層が都市部へ流れたことにより、相対的に高齢化率が上がる結果となっています。

過疎地域では、農林水産業(第一次産業)を主産業にしていることが多いですが、若者が都市部へ流出したことにより後継者がいないことや、昔から農林水産業の職に就いていた人の高齢化などが原因で急速に衰退しています。
 
その結果、地域経済も縮小化されて新しい事業所を建てることも難しい状態になっています。

今まで以上に働く場所がなくなると、若者は更に都市部へと流れていきます。
 
このように、悪循環に陥っています。
 
過疎化によって、社会資本(インフラ)整備の面でも都市部と地方の間に大きな格差が生じています。

地方の過疎化が進んだことにより税収も減り、交通や保健福祉など行政のサービスなどに投入できるお金も限られてきます。
 
このまま過疎化が進むと、基本的な生活環境の維持も難しくなります。

しかし、2020年以降のコロナウイルス感染拡大によって少し状況が変わりました。
 
コロナ禍の影響でテレワークの普及などから“どこにいても仕事ができる”、“自然豊かな場所で暮らしたい”などの理由で、都市部から地方へ移住する若者が少しずつ増えています。
 
そこで、過疎地域の人々も人口減少や高齢化の改善策として、地域外に暮らす若い人たちに注目し始めました。
 
“人を呼びたい過疎地域の住民”と“地方で暮らしたい都市部の人”両方の希望を叶えた制度が“地域おこし協力隊”です。
 
隊員たちは現地に移住し、地域のPRや名産品の開発などを通して地域活性化に貢献します。
 
総務省が発表した“地域おこし協力隊推進要綱”によると、 2021年度の隊員数は5464人であり、1065自治体が隊員を受け入れています。

総務省では都市部から地方への移住者を増やす為に、下記のような取組を行っています。
 
・交流移住に関するポータルサイトの立ち上げ

・都市部に暮らす人々が、気になる地域の担当者に直接話を聞けるイベントを開催

・IターンやUターン者向けの住宅・団地を造る為に必要な費用を国庫補助する

・各地域でモニターツアーを行う

・都市から地方への移住、交流の促進に関する調査を行う

・空き家バンクの運営
 
このように自分たちが暮らす地域の衰退を防ぎ、豊かな状態で次世代に残す為に各市町村でも対策や取組が行われています。
 
そして、全員が協力して進めていくことで過疎化を防ぐだけではなく、SDGsの目標達成にも繋がります。
 
過疎化の改善とSDGsには深い関わりがあります。

関係性を確認する前に、まずはSDGsについて改めてお勉強です。
 
SDGsとはSustainable Development Goalsの略称であり、日本語にすると“持続可能な開発目標”になります。

2015年に開催された国連総会で193の加盟国のすべてが賛同した国際目標です。
 
SDGsは2030年までに、環境、社会、経済に関する課題解決を目指し、17の目標と169のターゲットが設定されました。
 
私たちは“誰一人取り残さない世界”を目指し、地球上に暮らす全員が協力して目標を達成する必要があります。
 
そして、過疎化が進む地域を減らすことによって、SDGsの目標3の“すべての人に健康と福祉を“と目標11の“住み続けられるまちづくりを”の達成にも繋がります。
 
目標3“すべての人に健康と福祉を” は、あらゆる年齢の人々の健康的な生活を確実にすると同時に福祉の推進も行う内容となっています。
 
過疎化が進行している地域では、医療機関や介護事業所の廃業、撤退が問題となっています。

特に介護事業所は、収益の低さが原因で経営不振に陥る事業者も少なくありません。

また過疎地域であるがゆえに高齢者の人口密度が低く、サービス提供の効率が悪い点も原因の1つになっています。
 
医療機関の問題も地方自治体が改善しようと対策を行い、医療機関のない地区も2009年までは減少傾向にありましたが、2014年には増加に転じています。

これらの医療と介護の問題は、根本的な問題である“過疎化”を解決しなければいけません。

そして、過疎化の改善に成功すると、同時にSDGs目標3の達成にも貢献するということです。
 
目標11“住み続けられるまちづくりを” は、都市や人の居住地を安全かつ強靭で持続可能にする内容が盛り込まれています。
 
特に日本では地方創生の面で目標11が注目されていて、ターゲット“11.a”でも、 “各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好な繋がりを支援する。”と、都市部や都市周辺地域、農山漁村地域の繋がり強化を目指す内容が組み込まれています。
 
先述しましたが、ここ数年はコロナ禍の影響もあり、テレワークの需要が増えて都市部から地方へ移り住む人が増えました。
 
高い家賃を払ってまで都市部で暮らす理由がなくなり、普段は地方で暮らし、必要な時は都市部へ出かけるという生活が当たり前になってきています。
 
他にも都市部の自治体と地方都市が連携し、取組を共同で行うことで地方創生に繋がると考えられます。
 
都市部以外の地域に人が流れてくると過疎化の改善、SDGs目標11の達成に繋がります。
 
地方を中心に、日本各地で起きている過疎化の問題です。
 
現在も政府や市町村、住民らが過疎化の進行を食い止める為に力を合わせて取り組んでいます。

過疎化は、ただ人口が減るだけではありません。
 
第一次産業の衰退や地域産業経済の停滞などの過疎地域への影響だけではなく、地方産の木材や農産物を都市部へ供給することが難しくなるなどの問題も起こります。
 
過疎化は“地方の問題”ではなく、“日本全体の問題”として考える必要があります。

写真はいつの日か…札幌市手稲区の手稲神社の鳥居前で空を撮影したものです。

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