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ペイント大全ショウケース:ゴブリンのまじない師 パート1(組み立て、ベースデコレート、アンダーコート、配色決め、フードとローブ&肌のベースコート)

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よくぞ来た。今回のペイント大全からは新たな『ショウケース』…つまり、俺がどうミニチュアを塗り込んで仕上げていくかを順序立てて紹介していく。今回は、現在イギリスで初回生産真っ最中の自社ミニチュアレンジから、「ゴブリンのまじない師」をプレビューをかねて製作していこう。

ゴブリンのまじない師。ワンドの先から出ているのはエフェクトじゃなくてエアピンだぜ。

原型を作ったミニチュアデザイナーはケビン・アダムズ。ご存じゴブリンマスターその人だ。ゴム型を作成し、量産を行うモールドメイカーにしてキャスターはザ・スミス。80年代シタデルミニチュアを支え、現在後進育成をしつつ自身も腕を振るう伝説の親方で、外部には本名を名乗らない。

このミニチュアのコンセプトを手がけたのは、俺自身だ。数十枚のスケッチと、ハルクウーべンのゴブリンに関する山積みの英文資料を提供し、ミニチュアデザインの方向性をケビンと練りに練りまくった結果の一つが、この『ゴブリンのまじない師』というわけさ。

自社ミニチュアレンジの開発とメタルミニチュアの生産プロセス、発売時期などの詳細は、ハーミット・カウンシル収載の以下記事を読んでほしい。

本稿執筆時点でこのミニチュアを持っているのは、世界に三人だけいる。俺、ケビン、そしてザ・スミスの三人だ。俺が今回製作するのは、原型から直接型取りされた「マスターキャスト」の一つ。製品はイギリスで現在量産中だから、君が実際にこのミニチュアを買えるようになるのはもう少し先になる。

けれどペイント大全ショウケースは、題材がたとえ同一のミニチュアでなくても応用できる内容にしており、それは今回も同じだ。ゴブリンの肌だとか、ローブとフードとか、カゴや革、木材とかね。今回のショウケースでも、初登場となるペイント法や使用カラーの組み合わせが山盛り登場してくる。もちろん、君がこのミニチュアを実際製作する時にも役立つはずだ。

それじゃあ、行ってみようか!


組み立て(クリーニング、磨き込み、補修)

このミニチュアは一発抜きで分割がないので、組み立て自体はとてもシンプル。付属のベースに本体を固定するだけだ。ベースに固定する前に、エアピン、バリ、パーティングラインを取り去るクリーニングを徹底的にやる。

クリーニングのやり方は、「ベーシック:ミニチュア組み立て伝説」で解説した通りだ。エアピンを取り、パーティングラインやバリ、表面の荒れをナイフやヤスリでならし、全体を真鍮ブラシ(商店で販売中で優しく磨いて離型材のパウダーと酸化膜を取ってやる。

ミニチュア全体が輝いてきたら磨きはOK。早く強く輝かせようとしてキツくブラシを当てるのはNGだぜ。歯磨きの時みたいに優しく小刻みにやるんだ。

ここでじっくりミニチュアを眺め、パーティングラインの取り残しがないか確認しよう。ここで俺がちょっと気になった部分が、杖の三日月飾りの横面だ。

これは原型由来のものだけど、横がちゃんと平面になっていないんだ。この辺り、いかにも手で作った原型の味わいだね。ペイント後はほとんど目立たないので気にしない人も多いけど、俺個人は気になる。そこでグリーンスタッフ(商店で販売中を詰めて、平滑にならすことにしたよ。

グリーンスタッフのソーセージをあてがってスパチュラで押し込み、それぞれの面を平滑にならしてエッジを出し、完全硬化前にキュキュッと締めればOKだ。ここで必要なグリーンスタッフの使い方とテクニックは、下の二つの記事で紹介した通りだよ。

俺は今回、三日月部分の横面に充填したのと、ガラス瓶のところにあった表面の荒れをグリーンスタッフで修正したよ。なお、グリーンスタッフでの補修はあくまでもオプションだ。自社レンジということで格別思い入れが強いので俺はやったけど、やらなくても全然いいと思う(正直、俺も普段なら「いやこれも造形の一部でしょ!」とスルーしているレベルだ)。

ともあれ、ケビンが作って、叔父貴が抜いたミニチュアのタグにハーミットインの刻印があるなんて夢みたいだ。こいつが隠れてしまうのは残念だけど、このままじゃいつまでも完成しないから、ミニチュアをベースに瞬間接着剤で固定しよう。タグが厚めなので、アッシュは使わず瞬間接着剤を流し込むだけで十分だったよ。

今回のポイントは、ミニチュアを1.5mmほど浮かせた状態でベースに接着したこと。理由は、サンドでベースデコレートした時に、ミニチュアの足元が過剰に埋まってしまうのを避けるためだ。足が少し地面に沈んでいるのは、ミニチュアの実在感や重量感を出す上で有効な演出だけど、めり込んでると変だからね。ゴブリンのような体重の軽いモンスターならなおさらだ!

ベースデコレート

今回は、シンプルに攻めることにした。「ベーシック:テクスチャーサンド伝説」で紹介した、サンドとストーンを用いたベースデコレートにしたよ。サンドは「テクスチャーサンド:ノーマル」、ストーンは「ロック&ストーン」からだ。

このままの状態で一晩放置して、ボンドを完全に乾かそう。ちなみに上写真だと岩がいくつも置いてあるけど、なんか配置がいかにも人工的な気がしたので、いくつか取り去ってサンドをまき直した。写真を撮り忘れちゃったので、どうなったかはこの後改めて確認してくれ。


アンダーコート、持ち手づけ、フィルアップ

アンダーコートスプレーをすると、すぐに気が付くはずだ。ケビン・アダムズ原型のミニチュアは、スプレーが絶対に奥まで入っていかない。これは、ケビン造形の特徴とも言える凄まじいディティールの深さと、逆テーパーを多用する重層的な造形スタイルから来るものだ。

アンダーコートスプレーのやり方や注意点は「ベーシック:アンダーコート伝説」で紹介した通り。ただし今回は、白のスプレーはやらないでOK。

フィルアップの前に、ミニチュアを色々な角度から見られるよう、先に持ち手をつけよう。「ベーシック:ミニチュア持ち手伝説」で解説したようにね。

アンダーコート伝説で紹介したように、コートデアームズ102【ブラック】に154【インク:ブラック】を少し加え、吹き残し部分を丁寧にフィルアップ

フィルアップが終わったところ。全体的に黒くなればOKだ! 背中のカゴに注目。デスグロのエネミーデータ(クエストモジュール『嘆きの森』収載)で解説された「ゴブリンのまじない師」が持つ不思議アイテム『干しキノコ』がたっぷり入っている。“しゃぶれば天国、夢気分”になる珍味だけど、キノコが切れると大変なんだ!


ウェットブラシ・アンダーコート&造形を味わう

「ベーシック:アンダーコート伝説」で紹介したダブル・アンダーコートは、ミニチュアの造形を引き立て、カラーの発色を助ける効果的な方法だけど、ケビンのミニチュアは何せ凹凸が激しい造形なので、スプレーだとちゃんと回り込んでくれない。鎧を着込んでいるなら黒アンダーコートの上に142【ガンメタル】でドライブラシをするガンメタル・ブラシもいいけど、今回はローブを着ているので、ウェットブラシ・アンダーコートで進める。

今回使うのは514【ペールグリーン】。明るいけれどかなりくすんでいるので隠蔽力が強く、ゴブリンのような小さいミニチュアの存在感を高めるのに好適なアンダーコート・カラーになるよ。カラーは薄めずにボロ筆によくなじませ、キッチンタオルでよく拭き取ったら、全体をウェットブラシしてやる。

ウェットブラシはドライブラシとよく似たテクだけど、一つだけ違いがある。ドライブラシはカラーをほとんど拭き取ってしまうけど、ウェットブラシは、ドライブラシよりもカラーの拭き取りを弱めにするんだ。

カラーの拭き取りすぎに注意ね。ここでドライブラシにすると単に時間がかかるし、明暗がはっきりつかなくてあまり意味がない。

ペールグリーンでのウェットブラシ・アンダーコートを終えたところ。一気に引き立った全身の造形を改めてじっくり楽しもう。

腰には無数のビンと短剣、肩から下げたカゴには大量の干しキノコ、右手にはワンド(短杖)を、左手には二つの月を象る飾りのついた杖。杖の先には魔法の触媒が入った小袋も下げられている。杖は刺々しいけれど、武器としてのスパイクではなく、物を引っ掛けたり結びつけたりするための固定具としての役目が大きそうだ。左耳にはドクロを模した耳飾りを下げ、杖頭にもドクロがついているね。

別アングルから。優れたモールドメイカーとキャスターの存在なくして、一発抜きにしてこの分厚さは実現できない! 左腰には分厚い本、右腰には巻き物も持っている。不敵にニタニタ笑う口元には数本の歯しか残っておらず、顔もシワが多い。かなりベテランまじない師という風情だ。

こうした造形を味わう時間は大切だ。ミニチュアを眺めながらペイント順序や配色を考えたり、作品にどんな物型を託すかの想像を巡らせたり…。決まった配色でガンガン塗り進めていくのも楽しいけど、コーヒーでもすすりながら、ミニチュアの造形をじっくり眺め、配色をアレコレ考えるのも俺は大好きだ。風流ってやつさ。

ペイントの手順

ミニチュアをどう塗り進めるかは「ベーシック:ペイントの手順伝説」で解説した通り。

ただ、俺が普段やる“一つの部分を仕上げて次に進める”方法だけだと、今回はむずかしそうだ。このミニチュアは様々な要素が入り組んでいるので、それぞれの部分ごとに仕上げていくとリタッチが大変そうなんだよね。

そこで今回は、複数の部分にベースコートをしながら、行きつ戻りつペイントを進めていくよ。EXTRAで大河原氏が紹介してくれた、彼のペイントアプローチと似ている部分もあるね! ただしベースコート後は、普段のスタイルに戻ると思う。このあたりは個人の好みによるよね! それでいいんだ。ペイントスタイルに正しいも間違いもない。趣味人の数だけスタイルがあっていい。その方が楽しいと思うしね!

地面のベースコート(フラットペイント)

さて、最初に手をつけるのは、ミニチュアの立つ地面からだ。ゴブリンのまじない師は、地面スレスレまでの長いスソを持つローブを着込んでいる。地面を後回しにすると、ローブにはみ出さずにローブの下にある地面をペイントすることが求められるわけだ。いや俺そんなんできねーよ。

なお、ローブのペイント中、確実に地面へカラーがハミ出るけど、ローブのハミ出しを地面の色でリタッチするのは、それほど大変じゃない。そこまで奥まったところにはハミ出ないのと、ローブほど厳密なグラデーションをかける場所でもないからね。

今回地面に使う最初のカラーは218【ウッドブラウン】。明るすぎず暗すぎずの茶色で、赤みと黄色みのバランスがちょうどいい。パレットにとって少しだけ水を加えてこねたら、地面全体をフラットペイントする。1回塗りだと少し透けるので、2回塗り重ねた。今後たくさんのカラーを重ねるので、多少のムラがあっても全然気にしないでOK。黒く見えなきゃいいの。


配色決め:迷った時の色ならべ

ゴブリンの肌は明るい緑、頭巾は赤紫というのは決めた。迷ったのはローブの色だ。ローブの面積は意外と広い(特に背中側)から、ローブの色味は作品の印象を決める色となる。だから、ローブの色選びは悩むし、悩む価値がある。布だから、それこそ色々な色味が可能だからね。緑と赤紫と喧嘩せず、引き立ててくれる色を探してみよう。この辺りは「マスターズ:色の仕組みと配色」でも詳しく解説してるから、参考にしてくれよな!

さらに追加として、俺が普段配色に迷った時によくやることをシェアしよう。大体の色合いを表すカラー(ベースコートの色でなく、仕上がりの時の色合いをイメージした色ね)を探して底を上にし、並べてみることだ。こうすることで配色アイデアを具体的な視覚情報にできる。検討もしやすくなるぜ。名前をつけたことがないから…そうだね、『色ならべ』かな。

まずはローブの候補になる色味を並べてみる。左にある赤茶色と渋い黄土色は、革と木材の色味になる色。必ず入る色味だから、隣に置いているんだ。

左は「わずかに緑みのある黄色」、右は「くすんだ茶系のカーキ色」。どちらもいい配色だね。左は赤紫を引き立ててくれるけど、ちょっと鮮やかすぎて緑と干渉しているから、うるさくなりそう。右もいいけど、革や木材と似ている色味なので、離れて見た時、ローブと小物類のメリハリが弱くなりそうだ。

続いては、「青みのある灰色」と「灰みの強いカーキ色」。どちらも赤紫と緑を引き立ててくれている。革や木材に使う茶系の色ともぶつからない印象だ。

熟慮の結果、今回俺は「青みのある灰色」をメインに据えつつ、シェイドやグレイジングで茶色みを加えてカーキに寄せ、薄汚れた感じでローブを仕上げることにした、つまり、下段に並べた両者のいいとこ取りを狙うつもりさ!

頭巾フードのベースコート(フラットペイント)

まずはフードのベースコートからだ。フードは赤紫に仕上げる予定だけど、赤紫は隠蔽力が弱い。そこでまず、色味の下地を茶色でしっかり作るといい。つまり、2段階でフラットペイントをするんだ。結果、イジイジ紫を重ねるよりい手早く、なおかつよりキレイに深い赤紫を発色させられる

実際にやってみよう。

529【ベージュブラウン】と509【ブリックレッド】を1:1の割合で混ぜてくれ。次に3割パレットが透けるまで水でカラーを薄め、フードをフラットペイント。

フードと顔の境目や、ローブとの境目部分に塗り残しがないように気をつけて。左右の耳がフードから出ているので、そこは塗らずにおこう。他の場所にハミ出ても全然気にしないでいい。今はフードをしっかりムラなくフラットペイントすることに集中だ! これが赤紫の下地を作る色。

続いて157【ウォーロックパープル】と509【ブリックレッド】を3:1の割合で混ぜてくれ。リッチで暗い赤紫ができあがる。次に3割パレットが透けるまで水でカラーを薄め、フードをフラットペイント。するとどうだ。右写真のように、鮮やかで暗く、シックな赤紫がキレイに発色するぜ。

これでひとまずフードのベースコートはおしまい! この後顔をペイントしていく中で確実にはみ出しまくるけど、ベースコートさえしてあれば、リタッチも楽チンさ。

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