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いわゆる様式美
THERMOSのタンブラーを買った。
家で飲むハイボールのためだ。
いまはIKEAで買ったガラス製のコップを使っている。ガラスは欠けるし、結露も酷い。
何よりゲームをしながら使うとなればグラスを持ち上げるたびに手が濡れ、太ももあたりで拭いてからコントローラーを持たねばならない。ここ最近はそんなストレスを悶々と抱えていた。
以前から便利とは聞いてはいたものの、何となく購入する機会のなかったTHERMOSのタンブラーをAmazonでポチってみた。
なるほど、ステンレス製で空洞部分が真空になっていて結露もせず冷たいままときたもんだ!
こりゃあいい!こりゃあいいぞ!といつも通り玄関への置き配を指定した。
待つこと2日、それは音もなく玄関に佇み春を満喫していた。気がつくとクリスマスプレゼントをでたらめに開けるこどものように私は梱包を解いていた。
サラッとしながら適度なグリップ感!何より2つで1400円という破格の値段!コスパ!
これはいい買い物をしたと自分を褒めながらサッと洗って使ってみる。
ロックアイスを二握りほど底へ放り込み、1:3の割合でウイスキーと炭酸水を融け合わせる。
ポッカレモンをサッと一振りし、底から天まで1回掻き混ぜる。
しばし時を置き、一口。
味は変わらない。
そりゃそうか。
ゲームをやりながら飲んでみようと思いPS4を起動する。
合間合間に口へ運ぶ。全く手が濡れない。
素晴らしい!
ということを繰り返しているうちに、何だか気持ち良くないなと思った。
ステンレス特有のぬめっとした冷たさからキンキンに冷えたハイボールが身体へ流れ込むというギャップだ。
この違和感が何とも心地の良くない気分を味わわせる。
そして、ああ、私は汗をかくグラスを持った『濡れていて冷たい』という触覚からも味わっていたのだということに気づいた。
そこで合点がいく。ピースがハマる。
わざわざライターで火を灯すタバコ
映画本編の前の予告編
両想いと知りつつ探り合う空気
理にかなわない様式美ってものは何だか心地よくて良いものだと。
利口な彼らが無駄や無意味と切り捨てていく不便さというのは『デザインされた空白』なのかもしれない。
そう思った季節。
2020年5月3日
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