見出し画像

こどもにどうやって来て、見てもらうか-文化財施設で学芸員として仕事をするということ

書いてる人重岡伸泰(しげおか のぶひろ)
植彌加藤造園株式会社 指定管理部 無鄰菴、岩倉具視幽棲旧宅 主任学芸員。
 私の所属する指定管理部は、京都市所有の国指定名勝・無鄰菴および国指定史跡・岩倉具視幽棲旧宅の二施設を指定管理者として管理運営する部署に当たります。私自身は、両施設で主任学芸員として、展示、解説などの仕事やボランティアガイドの育成などを主に仕事として担当しております。
無鄰菴
岩倉具視幽棲旧宅

 今回は地域の学校との連携ついてのお話をご紹介したいと思います。
 筆者は、無鄰菴岩倉具視幽棲旧宅の二か所の施設で学芸員としての仕事をしていますが、それぞれの施設の特徴として、無鄰菴は名勝庭園を見学する施設岩倉具視幽棲旧宅は明治維新に関わった人物の史跡として当時の建物などを楽しむ施設といった点が挙げられます。
 特に岩倉具視幽棲旧宅は、近隣にも他の観光施設がないことやまた交通手段が不便であることもあり、なかなか足を運んでもらえないというのが実情です。前回の「来て、観ていただいてナンボ-文化財施設で学芸員として仕事をするということ」の回で、もともとの来場者数が非常に少なかったために、出来る限り施設に来場してもらいたいことから、さまざまな工夫を凝らしてイベントなどを行っているということをご紹介しました。

茅葺屋根が印象的な岩倉具視幽棲旧宅。
この建物に坂本龍馬らが岩倉具視を訪ね、明治維新に向けての相談などを行った。

 来場者を増やすためにどのようなことをしたかというと、まず来場者の特徴を分析し、お年を召した方の来場が多いということが判りましたので、それら年齢層の方の利用の多い、図書館、公民館や京都SKYセンターなどの施設にちらしを配架してもらうことで、施設の認知度を上げ、ご来場を促す、という方法をとしました。
 また、岩倉具視は教科書にも名前が載る歴史的な人物ですので、そのような人物が地元に居たということは、どこででもあるということではありません。この特性を生かして、地域学習や歴史教育の場として活用していただくことを提案するために、近隣の小学校に説明と営業に回りました。小学4年生の3学期には社会科で「昔の生活」という単元があるので、そこで4年生を対象として旧宅を活用した昔の暮らしの学習と京都に関わる人物としての岩倉具視について知ってもらう、また小学6年生は社会科で日本の歴史を学ぶため、明治維新の学習の際に主要な登場人物の一人が地域に関わる人物だということを学んでもらいたいということで、各学校の教頭先生や4年生、6年生を担当される先生に説明をして回りました。当施設から小学校側が営業を受けるということ自体が初めての試みでしたので、すぐには実現しませんでしたが、格好の教育施設だということで徐々に活用されていくようになり、現在では近隣小学校から毎年同じ時期にご来場いただけるというところまで定着するようになりました。
 それに伴い、来場してくれる小学生の皆さんは、京都市内小、中学生は入場料が無料ということで感動され、後日再度勉強のために来場されたり、あるいは週末に家族に自分が説明してあげる、と家族を連れて再来場される方も居られます。

琵琶湖疏水の躍動感あふれる流れが魅力の無鄰菴の庭園。

 無鄰菴については、庭園内に琵琶湖疏水の流れが通っているため、こちらも小学4年生の地域学習での機会に利用してもらおうということで、近隣の小学校に営業に回りました。こちらは立地が岡崎地域ということもあり、関連する施設として琵琶湖疏水記念館や南禅寺の水路閣などが近隣にあるため、地域学習の場としてご活用いただいています。もともと来場者数の多い無鄰菴ですが、こちらもご来場いただいている年齢層は高いため、このように若年層へのアプローチを行うことで、大きくなってからも再び思い出して来場してくれることや、あるいは子育て世代になった時に琵琶湖疏水の学習といえば無鄰菴だろうと更に下の世代へと伝えてくれる、ということも見据えて、これから先に来場してくれる世代への種まきも兼ねて、学校との連携事業を行っています。

 無鄰菴、岩倉具視幽棲旧宅ともに京都市内の小、中学生の入場は無料となっています。施設としての収益には直接結び付きませんが、いわば「損をして、得を取れ」というような姿勢で、このように未来の来場者を見据えて、文化財施設を知り、親しんでもらって、後世へ引き継ぐことも視野に入れた活動を行っています。
 ちなみに、岩倉具視幽棲旧宅では、毎年、夏休みの宿題対策をいうことで、「昔の夏の過ごし方を体験しよう」というイベントを行っています。大きな氷を室内に設置し、果たして涼が取れるのか?また、昔の人たちはどのようにして夏の暑さをしのいでいたのかについての解説を行います。ご興味のある方は、ぜひ上記のリンクからお申し込みください。

お庭を眺めながら、岩倉具視幽棲旧宅で昔の夏の過ごし方を学べます。

 次回担当の回(10月)は、ガイドスタッフ、ボランティアの育成などについてのお話をご紹介出来ればと思っております。

 次回は、指定管理部 平野から「明治のままの無鄰菴では、酷暑と極寒をこう耐えています。こう価値にしています。」といった内容について掲載する予定です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?