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来て、観ていただいてナンボ-文化財施設で学芸員として仕事をするということ

書いてる人
重岡伸泰(しげおか のぶひろ)
植彌加藤造園株式会社 指定管理部 無鄰菴、岩倉具視幽棲旧宅 主任学芸員。
 私の所属する指定管理部は、京都市所有の国指定名勝・無鄰菴および国指定史跡・岩倉具視幽棲旧宅の二施設を指定管理者として管理運営する部署に当たります。私自身は、両施設で主任学芸員として、展示、解説などの仕事やボランティアガイドの育成などを主に仕事として担当しております。
無鄰菴
岩倉具視幽棲旧宅

 今回は企画の立案やお客様の反応を含めた具体的なお話をご紹介したいと思います。
 筆者の所属する植彌加藤造園株式会社は、無鄰菴岩倉具視幽棲旧宅指定管理者として運営しています。この二施設は、それぞれの特徴として、無鄰菴は名勝庭園を見学する施設岩倉具視幽棲旧宅は明治維新に関わった人物の史跡として当時の建物などを楽しむ施設といった特徴があります。これらを活かしつつ各施設のイベント企画を考える訳ですが、無鄰菴は日本庭園として知る人ぞ知るといった施設で、インターネットで検索しても「京都の隠れた名所」といった扱いで検索結果に表れます。出来れば「隠れた」名所でなく、誰しもに知っていただける名所であって欲しいのですが…。また岩倉具視幽棲旧宅は岩倉具視が幕末に約3年間過ごした建物ですが、そもそも岩倉具視というとあまり良いイメージで語られることの無い人物であることと、京都市の北の端に所在するので、なかなか足を運んでもらえないという立地の悪さもある施設です。

 こういう特性のある二施設ですので、どうやって来場者の人数を増やす企画を考えるか、運営当初はかなり労力を要しました。例えば、無鄰菴では、お庭の見学を目的としたお客様が多い訳ですから、弊社の特性を生かした職人によるお庭の案内を行うことや、社内資格保有者によるお庭の案内「庭園コンシェルジュ」といったサービスを企画立案して実施しています。また、無鄰菴の中で近代史上にも登場する「無鄰菴会議」の舞台となった洋館も見どころの一つとなっています。この洋館の二階応接室が、山縣有朋、伊藤博文、桂太郎、小村寿太郎が会談した歴史的舞台となった場所に当たるのですが、応接室の壁面は近世初期作成の狩野派の流れをくむ絵師の金碧障壁画(きんぺきしょうへきが)、天井は折上格天井(おりあげごうてんじょう)となっており、見どころとなっています。普段はお庭にかすんで洋館はあまり注目されないため、この歴史的舞台を是非ご覧いただきたいと企画したのが「無鄰菴会議の日」です。無鄰菴会議は先の四名が明治36年(1903)4月21日に行われたのですが、それを記念して毎年4月21日に普段は障壁画の保護のために閉じられている洋館二階応接室の鉄の雨戸を開けて、自然光の中でこの応接室をご覧いただく、ということを行っています。こちらのイベントは、普段とは違った姿の洋館をご覧いただける滅多にない機会ですので、まだ見たことが無いという方は是非ご覧いただければと思います。

無鄰菴2階_Murin-an Second Floor
無鄰菴会議の舞台となった洋館二階の応接室

 また、岩倉具視幽棲旧宅では、弊社が指定管理者を引き受けた際には、年間来場者が5000人以下で、宣伝するにもちらしもポスターもないといった状態でした。この施設の特性として幕末・維新期に活躍した人物ですので、時代としてはコアなファンがいることは判っていますが、何せ岩倉具視に人気が無い。そこでこの時代の超人気ものの坂本龍馬の力を借りようと考えました。岩倉具視は日記を残しており、何年何月何日にこの施設に誰が訪ねて来たのかが把握出来ます。そこで坂本龍馬の訪ねてきた日を調べてみましたら旧暦の慶応3年(1867)6月25日に旧宅へ訪ねて来ています。これを新暦に直すと7月26日になります。岩倉具視の命日が明治16年(1883)7月20日ですので、岩倉の命日と坂本龍馬の来訪日をかけて7月20日前後にイベントをしようと考えました。当施設には重要文化財に指定された「岩倉具視関係文書」がありますが、これは施設で温湿度管理が出来ないために他で管理しているため、ほぼ箱ものしか来場者にお見せ出来るものが無い。そこで考えたのが、普段は使用していない正門から特別に入場してもらうということです。この正門は岩倉が暮らしていた頃からこの位置にあり、改修工事はしているものの、この位置から様々な志士たちが岩倉を訪ねて来た門でです。ここから入場して坂本龍馬ら志士たちの気分を味わっていただこう、という趣旨で「坂本龍馬も通った正門から入ろう」というイベントがこうしてできました。

20170602_坂本竜馬も通った正門から入ろう
岩倉具視幽棲旧宅の普段は閉じられている正門。ここから様々な志士たちが来訪した。

 「無鄰菴会議の日」、「坂本龍馬の通った正門から入ろう」の二つのイベントは、好評を博しまして毎年開催するイベントとして定着しております。このようにそれぞれの文化財施設の特性を踏まえた上で、企画の立案を行っています。
 次回担当の回(7月)は、地域の学校との連携などについてのお話をご紹介出来ればと思っております。

 次回は、指定管理部 平野から「無鄰菴の自然の魅力をどのようにして伝えているか」といった内容について掲載する予定です。

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