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【醸造再開しました!】アニスビール麦汁仕込みの紹介・解説

こんにちは。株式会社CRAFT BEER BASE醸造ディレクターの阿部淳哉です。
ハーブティーブレンダー見習いでもあります。

久しぶりの投稿です。
前回までは過去に醸造したハーブ&スパイスビールの紹介をしてきました。

なぜ「過去作」紹介だったのかというと、醸造所の移設とそれに伴う製造許可の取り直しでビール造りが出来ていなかったからなのですが、、、

ついに製造許可が下りました!

しかももう既に5回の麦汁(ビールの元)仕込みが完了しております。
(いずれもビールの完成・販売はまだです)
4回目で自分の得意スタイルであるハーブ&スパイスビールを仕込みました。

仕込んだのはCRAFT BEER BASEの冬季限定ビール『Winter Anise White』。
アニスシードを主体としたハーブの甘く爽やかな香りが魅力的なビールです。

去年と一昨年に造ってリリースしたものについては数回前の投稿でご紹介しました。よろしければそちらもご覧ください。

今回の投稿では『Winter Anise White 2021』の麦汁仕込みを、解説を交えながらご紹介します。
こだわりの仕込みですので、少しだけマニアックな話も出てきますが、背景知識のない方にもわかるように書いたつもりです。読んでみてください。

小麦麦芽で甘く柔らかなお粥を造る

今回使用した麦芽は大麦麦芽と小麦麦芽の2種類です。現代のビール造りでは主に大麦麦芽が使用されますが、伝統的なビアスタイルのヴァイツェン(ドイツ)やホワイトエール(ベルギー)では小麦麦芽や非麦芽化小麦も使用されます。

大麦小麦

左:大麦麦芽 右:小麦麦芽

ビールの風味の観点から挙げられる小麦と大麦の違いは次の通りです。

まず、小麦には大麦にある穀皮がありません。そのため穀皮由来のタンニンが抑えられ、渋味の少ないビールが出来上がります。
また、小麦は大麦よりもタンパク質を豊富に含みます。タンパク質がビールに柔らかな口当たりと良好な泡持ちをもたらします。さらに、タンパク質の一部は分解されて小麦ビール麦汁に特有のアミノ酸組成を形成するでしょう。このことは酵母がフルーティな香り成分を生成するためにも重要だと考えられます。

『Winter Anise White』はベルギーのホワイトエールをベースにしています。小麦麦芽を全体の40%使用することで、雪のようなソフトな口当たりと、リンゴやバナナのようなフルーティな香りを醸し出します。

さて、この二種の麦芽を粉砕したら、あらかじめ用意しておいたお湯に一気に投入。一時間ほど一定の温度(今回は67℃)に保つことで、麦芽のデンプン質を麦芽自身が持つ酵素によって糖に変換します。

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糖化中のマッシュ(麦芽のお粥)

糖は酵母がアルコールを生成する源なので、糖化の工程はどんなビール造りにも含まれます。家庭レベルのビール造り(ホームブリュー)では麦芽糖の缶詰も使用されます。


濾過工程~醸造家の悪夢~

糖化の終わった麦芽のお粥(マッシュといいます)をロイタータンという濾過槽に移します。ここでマッシュを麦汁と麦芽カスに分離します。もちろん欲しいのは麦汁の方です。

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空のロイタータンを上から見た様子

ロイタータンには底の方に網目の板が設置されています。この網目板はザルのような働きをしますが、実際に濾過フィルターの役割を果たすのは主に大麦麦芽自身が持っていた穀皮です。

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濾過中の麦汁

ここで鋭い方ならお気づきになるでしょう。小麦麦芽には穀皮がなかったことに。
そうなんです。小麦麦芽を使用すると濾過の難易度は一気に上がります。
大麦麦芽だけなら濾過工程は長くとも2時間くらいで終了しますが、この日はなんと4時間もかかってしまいました。これはつらかった。

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麦芽カス

お米のもみ殻を混ぜるなどの対策もありますが、なぜかいつも「今日はイケるかも」と思ってしまい、もみ殻を準備せずに濾過工程に臨み、返り討ちにあいます。

完全に余談ですが、ライ麦もビールに使われることがあるものの、小麦と同じく穀皮がありません。静岡県のベアードビールさんの商品にライ麦を使った『ブルワーの悪夢』というビールがありますが、この悪夢とは長時間の濾過工程のことを指しているそうです。

麦汁煮沸とハーブ&スパイスの準備

濾過した麦汁を一定時間(今回は90分)煮沸します。
煮沸の目的は、糖度調整、殺菌、ホップの苦味成分獲得、不用物質の熱凝固、不快臭揮散、など多岐にわたります。
麦汁は常にグラグラと煮立たせますが、それをずっと見張っているわけではないので、大体この時間にハーブ&スパイスの準備をします。

写真が今回使用したハーブ&スパイスです。

冬アニスパイス

『Winter Anise White 2021』に使用したハーブ&スパイス

ホップは通常、ペレットに加工されたものを購入して使用します。ホップペレットはホップを細かく擦り潰して押し固めたものです。麦汁にそのまま投入しても配管に詰まったり引っかかったりするリスクはあまりありません。今回はホップだけ他のハーブ&スパイスとは別に麦汁煮沸時に投入しました。

他のハーブ&スパイスはホールのまま購入します。これを適度に砕いて使用します。
いつもなら電動のスパイスミルを使用しますが、今回まさかのパッキンが切れていて使用できませんでした。そこで肉弾戦。

コリアンダーシードはジップロックに入れてグラスの裏でゴリゴリと。
ジンジャーはダイス状にカット。
アニスシードは鬼のように包丁で切り刻みました。
オレンジピールは、、、もうそのままでいいやと。

スパイスとの格闘

ハーブ&スパイスとの格闘

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砕いてブレンドしたハーブ&スパイス

特にアニスシードはハーブティーを淹れるときでも、できるだけ細かく擦り潰した方がイガイガした感触がなくなります。逆にパウダー状のように細かくしすぎても、液中に分散して外観や口当たりに影響します。
(ビールの場合は熟成中に沈殿するかもしれませんが)

ハーブやスパイスをどこまで細かく砕くかについては、自分の中でまだ明確な基準が設けられていません。この話はまたの機会に。

さて、頑張って準備したハーブ&スパイスですが、麦汁煮沸時には投入しません。
その理由やこだわりの投入方法は次でご紹介します。

ハーブ&スパイス投入。こだわりの手法。

煮沸の終わった麦汁はワールプールという釜に移して、熱凝固した不要物質や、煮沸中に投入したホップのカスを遠心力によって分離します。
ホップだけを使用する場合は、この後麦汁を急冷して発酵タンクに移し、酵母を投入すれば仕込み完了です。

ハーブ投入

ワールプール以降の流れ

ホップ以外のハーブ&スパイスを使う場合はワールプールの後にもう一段階工程を挟みます。
その工程は麦汁をもう一度ロイタータンに移すことからはじまります。
ロイタータン、覚えていますか?そうです。濾過工程の時に出てきたやつです。
このロイタータンの網目板を使って、今度はハーブ&スパイスを取り除きます。

ハーブ&スパイスをネットに入れて麦汁に漬けこむ方法もありますが、成分抽出効率が格段に下がるため、ロイタータンを使った方法を採用しています。

ここで、こだわりのポイントが二つあります。

まず、ロイタータンに少し細工をします。かなりマニアックな話になりますがあえて書かせてください。

それはロイタータンの麦汁吹き出し口をパイプで延長することです。

こうすることで麦汁が空気との接触面の下から穏やかに流れ込みます。これをしなければ麦汁が空気との接触面の上にバシャバシャと音を立てて落ちることになります。

これの何がいけないのか。

ホップを加えた後の麦汁は、高温下で酸素と接触することでビールになったときの不快臭の源を生成するといわれます。麦汁がバシャバシャと落ちてしまうと、飛沫が空気中の酸素を抱え込んでしまいます。これを最小限に防ぐためパイプ延長を施すのです。

実際のところ、麦汁酸化がどこまで影響あるのか、というのは醸造家の中でも意見が分かれるところです。とはいえ、少しの手間でリスクを回避できるのであれば徹底しよう、というのが僕のモノ造りのスタイルですし、それ以前に麦汁やビールをできるだけ丁寧に扱いたいというのは造り手として当然の感情です。

さて、麦汁をロイタータンに移し終わったらいよいよハーブ&スパイスの投入!
、、、かと思いきや、まだです。

もう一つのこだわりポイント。それは麦汁をロイタータン内で循環させて、麦汁温度を適度に落としてからハーブ&スパイスを投入することです。

煮沸終了後の麦汁温度はもちろん100℃付近。ワールプールを出てロイタータンに移したばかりの麦汁でも90℃付近です。
経験上、ハーブやスパイスを90℃以上の麦汁で成分抽出すると、ビールにとって不快な渋味が出てしまいます。
ハーブティーの場合であれば、渋味も飲み応えを生む重要な味わい要素であり、渋味成分はメディカルな観点からも有用です。よってハーブティーを100℃で淹れることは全く珍しくありません。

一方でビールは多くの場合、渋味ではなく苦味が重要な味わい要素とされます。『Winter Anise White』は苦味を抑えたビールではあるものの、その代わりに小麦のソフトさやアルコールの温かさを特徴的な味わい要素としています。いずれにしても、これらの味わいは渋味によって損なわれると考えています。

よって僕のビール造りでは、ハーブ&スパイスの投入は麦汁温度を80~85℃に下げてから行います。あまり下げ過ぎると成分抽出効率が落ちるのと、最悪のばあい雑菌汚染のリスクも考えられるので、温度計でモニタリングを行います。

ハーブ投入2

左:ハーブ&スパイス投入前の温度モニタリング 右:投入!

そして今度こそハーブ&スパイスを投入!
醸造所に素晴らしい香りがたちこめます。この香りを体感できるのは造り手の特権です。

ハーブ&スパイス投入後も麦汁循環を続けます。こうすることで風味が麦汁全体にいきわたります。

麦汁冷却と酵母投入→仕込み完了!

ハーブ類を10分程度麦汁に漬け込んで風味を移したら、熱交換機で麦汁を20℃付近に急冷して発酵タンクに移します。途中で酵母も冷却麦汁に混ぜ合わせ、麦汁仕込みの完了です。

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発酵タンクに送られる麦汁

この後、約2週間ずつの発酵と熟成を経て、ビールの完成。
発酵管理についても書きたいことはあるのですが、それはまた別の機会にします。

最後に宣伝

この文章を書いている現在、『Winter Anise White 2021』はとても元気な発酵を経た後、穏やかに発酵終了に向かっている状態です。きっと美味しいビールに仕上がると思います!

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『Winter Anise White 2021』の完成イメージ

では最後に宣伝させてください。

『Winter Anise White 2021』は11月末~12月頭のリリースを予定しています。
リリース情報はCRAFT BEER BASEのホームページ醸造部のFacebookページでご覧になれます。

提供・販売店舗は次の通りです。入手あるいは飲める確率の高い順番に書いています。

〇CRAFT BEER BASE MOTHER TREE
醸造所併設の複合施設です。新梅田のスカイビル近くです。
店内でお食事とともに樽生ビールを飲めるほか、ボトルビールの購入もできます。

〇CRAFT BEER BASE Branch
国産クラフトビール専門のビアスタンドです。阪神百貨店B2Fバル横丁。
店内で樽生ビールと軽いおつまみが楽しめます。

〇CRAFT BEER BASE seed
クラフトビール専門のボトルショップです。阪神百貨店お酒売り場。

〇Online Shop
自社ビールやクリスマスビールのセット販売など予定しています。

〇CRAFT BEER BASE BUD
国内外のクラフトビール専門のビアパブです。お食事も充実しています。
大阪駅前第一ビルB2F。自社ビールの取り扱い数は少なめですが、他社さんのビールも最高に美味しいので是非。

いずれの店舗でも見かけたら是非飲んでみてください。

また、このころには『Winter Anise White 2021』の他にも、僕の造った他のビールも提供しているかと思います。ビアスタイルはクラフトビールでお馴染みのペールエールとIPAです。そちらも併せてよろしくお願いします。

では、ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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