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現代の「赤べこ」よ、福祉のイメージを変える「魔除け」となれ

株式会社ヘラルボニー、代表の松田崇弥です。

「相模原・津久井やまゆり園」で重度障害のある入所者19人が殺害されたあの日から、昨日で丸4年が経った。私たち双子の4歳上の兄には、重度の自閉症がある。知的障害もある。

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中央が自閉症の兄・松田翔太 〔写真〕奥山淳志

罪を犯した植松被告は「意思疎通のできない障害者を殺そう」と考え、事件を起こしたと主張している。兄もその場に対峙したとき、意思疎通ができただろうか・・そう考えると未だに大きな恐怖を感じる。

重度の自閉症があり、福祉施設で空き缶を潰し続ける兄は、社会で生きている資格はないのだろうか。生産性はないのだろうか。植松被告が言うように「心失者(しんしつしゃ)」なのだろうか。

そんな訳が、ありません。

「障害者は不幸をつくる」って、率直に「アホかよ」と思う。自分たち家族は双子は、兄を頼り、兄のおかげでさまざまな世界を知り、いま、こうして生きている。他人が勝手に奪っていい命など、1つもない。

「この子は"いないこと"になっているんです」

「津久井やまゆり園」事件が4年前。そしてこれから、僅か20年前(自分が9歳の頃)の事実を伝えたいと思う。福祉施設を複数経営している人生の先輩に伺った話だ。

「お葬式は、霊安室でしかあげられなかったんです、心から悲しくてね」

福祉施設を経営していたとき、卒業と同時に、早々に福祉施設に預けられた子供がいた。重度の知的障害のある彼は、そのまま福祉施設に一生預けられ、生涯を終えたのだそうだ。

亡くなった報告をすると彼の父が「この子は"いないこと"になっている」と述べたそうだ。だから、霊安室でお葬式をする以外の選択肢がなかったのです、と。無念の表情を浮かべているその表情が今も心に残っている。でも最後に彼は言った。

「障害福祉を取り巻く世界は、ずっとずっと、良くなっているよ」

そんなお話を聞いた数週間後のことだった。私が経営する「株式会社ヘラルボニー」の問い合わせに、台風のようなメールが届いたのだ。

突然届いた台風のような問い合わせ

<お問い合わせ内容抜粋>
私の実現したいことは、障害があるけど心がめちゃくちゃ優しいとか、めちゃくちゃアートの才能があるとか、そういう人にバカ儲けしてもらうことです。ヘラルボニーさんには、六本木ヒルズの100階から300階くらいまでを障害のある人専用のアトリエにしてほしいと思っています。

六本木ヒルズの100階から300階!?バカ儲け!?文章のなかに凄まじい勢いがある。そして、文末には「岸田奈美」と記してあった。

うぉぉおおおお、岸田奈美!!!?!!?

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もちろん、知っている。彼女が「note」を通じて発信する奇想天外な出来事の数々は、作り話?と思えるほどにリアリティがあり、「引き寄せの法則」の伝道師のような印象を受けていた。

何より彼女の弟は生まれつきダウン症があり、知的障害がある。前述した通り、私の4歳上の兄も自閉症であり、知的障害がある。しかも私たち同士は学年も一緒の29歳なのである。

僭越ながら、勝手にシンパシーを感じている存在だった。軽やかにボーダーをひょいひょいジャンプする姿に、尊敬もしていた。そんな方からの突然の問い合わせに、心が踊らないはずがない。

本物の「天才」は、どこか「バカ」のようにも見える。

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この人は天才だなあ。そう思うことが自分はほとんどないのだけど、たくさん打ち合わせをして、たくさんメッセンジャーで会話をするなかで、岸田奈美さんのことを沸沸と「天才だ」と確信してくる自分がいた。

それは、彼女の人生そのものがボーダーを取っ払う力があるからだ。ではなく、人生そのものをボーダーを取っ払う力がある文章に落とし込めるからだ。

ダウン症の弟のこと、亡くなった父のこと、車椅子の母のこと、なかば踏み込みづらいとされる繊細な話を、時に楽しく、時に真剣に、ここまで赤裸々に綴れる人はいない。

障害福祉の世界、特に知的障害の世界は「運動」が導いてきた世界でもある。権利を主張し、政治家や法律という大きな力を動かし、掴み取る。声高らかに叫び続ける必要がある。それはある種、賛同者を生み、思想を作り、大きなウネリとなる瞬間が間違いなくある。

しかし同時に、「デモ」の側面を持つこともある。

力強く自分たちの権利を主張するのも素晴らしいのだけど、敵対構造をつくることがより「分断」を色濃くさせる要因も秘めている。

岸田奈美さんの文章は、たくさんの失敗談、たくさんの経験談、読み進めていくと、とにかく楽しい。たくさんの共感の種が散りばめられている。しかし実は、「共感」のなかにも心にストンと落ちる「啓発」が秘められていると私は思っている。

人を導く人、高揚させる人・・・本物の「天才」は、どこか「バカ」のようにも見えるものだと、私は岸田奈美さんと出会って学んだのだ。

「赤べこ」よ、福祉のイメージを変える「魔除け」となれ

彼女と初対面の打ち合わせをした、対話して、意気投合した。そこから、トントン拍子にコラボレーションの話が進んでいった。

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」、彼女自身の代表作からインスパイアされ、パリの美術館にも作品が展示された、足を絵筆にする作家・森陽香さん(はじまりの美術館 / unico)の作品が採用された。

ティシャツ、トートバック、ハンカチ、3つの美しいアートプロダクトとなり、いよいよ昨日より「予約販売」がスタートしたのだ。

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「赤べこ」は子供の魔除けとして用いられる玩具である。由来は諸説あり、平安時代に蔓延した疫病を払った赤い牛の逸話や、会津地方に天然痘がはやったときに赤べこの人形を持っていた子どもは病気にかからなかったという伝承など、さまざまな伝説がある。

過去の「赤べこ」が、これだけ活躍している。
現代の「赤べこ」は、福祉のイメージを変える魔除けとなると良いと願う。

障害のある人たちに、どんどん「依存する」未来が、やってくる。

今回のコラボレーションをご覧いただいても分かるように、ヘラルボニーの事業の担い手は、アートの作り手である知的障害のあるアーティストだ。岸田奈美さんも、障害のある弟がいることで、さまざまな世界を知り、多くの思考法を身につけたのではないかと、勝手ながらに思っている。

ここで重要なのは、障害のある兄弟に「依存されている」訳ではないということ。むしろ私たちが積極的に「依存している」のかもしれない。

障害のある人は隠さないといけない、殺さないといけない。4年前、20年前の紛れもない事実が、いま大きく変わろうとしている。このプロジェクトは、「依存される側から依存する側へ」立場が逆転する、未来の社会構造だ。

現代の「赤べこ」の新たな伝説を、みんなで作りたい。

伝説づくりに向けて、ぜひこちらからご予約お待ちしています。
※数量限定の受注販売はこちらから。7月31日までの予約販売です

本プロジェクトの詳細、作家さんの紹介など、岸田奈美さんが丁寧にすこぶる楽しく「note」に纏めてくれているので、ぜひご覧くださいませ。






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