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Project monoNoFuT -#006 ver1.0 叶香-

概要

プロジェクトモノノフサムライパンクスに登場するオリジナルサイボーグ「叶香」の紹介です。

目次

第一章
第二章 ★
第三章
第四章

NFT

〜叶香〜
〜琴葉〜

紹介文

FloatingBits社製汎用義体。一般社員が身につけます。
取扱いが容易な一方突出した設定は出来ません。
「任務…承知いたしました。」
過去の記憶はブロックチェーン上でロックさている為只ひたすらに戦闘マシーンとして稼働します。

背景

←前章(第一章)

 ゆっくりと目を開けた。
 人肌と同じ温度に保たれている水?溶液?の中に入れられてる。
 目が痙攣しているのかバグったゲーム画面のようにチラつきが収まらない。
 容器越しでぼやけていて女なのか男なのかわからないが、白衣を着た人が誰かに支持を出しているようだった。
 再びプツリと電源が落ちたように意識が無くなったーー

 再び目が覚めると病院の個室部屋のような所でベッドに寝かされていた。
 朦朧としていて四肢は重く感覚がない。
 ベットの横に設置された医療機器から軽いブザー音がした。
 暫くすると赤いメガネをかけ白いローブを纏った女性が部屋に入ってきた。
「気づいたわね。早速初期設定するわよ」
 そう言ってベッド脇の椅子に座ると持っていたタブレットを操作し始めた。
「でっかいプラグを首根っこに刺すと思った?そんな前時代的なものあるわけないでしょ」
 鼻で笑うとタブレットの操作に目線を移す。
 暫くすると手足に感覚が宿った。
 ぼやけていた意識もはっきりとしてきた。
「ようこそ。
 あなたはFloatingBits社の戦闘用サイボーグ。
 名前はとりあえず『叶香(かのか)』としておいたわ。
 悪いけどNFT経由で購入した身体だから生身の方は全部売却済み。購入時資金の返済にあてさせてもらったから。
 一応生前の面影は若干残してるけど、流石にそのままってのは無理だから許してね。」
 その女性によると、反社組織絡みだったり事業失敗だったり、何かしらの黒い理由でダークウェブ上のNFTマーケットで人が売買されることがあるらしい。
 最大手暗号資産取引所であるFloatingBits社はそれらを発見すると慈善事業の一環として彼らを救い出し、その後のケアもしているとの事。
 叶香はその慈善事業の一環として「救われた」人間の一人ということだった。
 ただし、このケースで救助されてFloatingBits社で働く場合、救助の際かかった費用は脳以外の生身を全て強制的に売却されることで補填される。
 また、精神を安定させる為、今までの記憶は自社開発のコンソーシアムブロックチェーン上に記録されロックされる。
 一応バリデーターへの提案及び投票が承認されれば引き出し可能になるが、退職する時以外はまず許可は降りないらしい。
 退職する場合サイボーグの義体は会社に備品として返却しないといけない。
 正規社員であれば生身は冷凍保存されている為本人に返却される。
 対して、叶香のような人身売買NFT経由で社員になった者は生身は返済で売却されてしまっているため返却する生身がない。
 つまり事実上退職不可能…
「…」
 他人事の様に怒りはなかった。
 むしろ人身売買NFTの身であった境遇から救い出してくれた事は事実。
 そんなロクでもないNFTマーケットプレイスで反社組織等に買い取られていればもはや命はなかっただろう。
「一つだけ、生身の時に持っていた品物…あなたに返しておくわ。」
 白衣の女性はそう言って立ち上がると同時に、薄汚れた髪飾りを放ってよこした。
 それは大小2つの桜の花、小型の扇子、そしていくつかもげてしまってはいるが長細いシャラシャラが付いている和柄の髪飾りだった。
「会社の為に尽くしなさい」
 そう笑って彼女は部屋を出ていった。
 その目は笑ってはいなかった。

 白衣の女性によって数日間義体の調整とリハビリを行った後、戦闘訓練を受ける事になる。
 日本には世界三大暗号資産取引所FloatingBits、CryptoCurrent、MoonBitの本社があり、企業間抗争が世界でも最も激しい。
 FloatingBitsはシェア世界一位を誇り、社員も全世界に何万人と存在している。
 その中でもトップクラスのサイボーグが日本に集結しており、武器も訓練も出し惜しみなく社員に提供している。
 叶香は基礎訓練を3ヶ月行ったあと、剣術の才が認められたため更に3ヶ月特化訓練を行い実践投入された。

 任務がある時はそれに集中し、他の事は考えなくていいのだが、何もない非番の日や1人で部屋にいる時、急に不安に駆られる時があった。
 自分が何者なのかまるでわからない。
 自ら調査すればよかったのかもしれないが、それすら恐ろしく感じて実行できなかった。
 現実から逃れるように叶香は訓練や戦闘に打ち込んだ。
 実践投入されてから半年後現在、彼女は1年目の社員としてはそこそこの実力を持つ存在になっていた。
 ただし、余りにも機械的で感情が乏しいため、通常の社員からは気味悪がられていた。

 とあるMoonBit社との小競り合いに駆り出された時。
 当初、人数、装備、統率力どれをとってもFloatingBitsの方が優勢だった。
 しかし、たった1人の参戦で戦況は逆転してしまう。
 まるで紫色のイカズチ。
 突如としてヘリから投下されたそのサイボーグは今まで見たことのないスピードでFloatingBitsのサイボーグを薙ぎ倒していった。
 一撃一撃がまるで戦車から放たれた砲弾。
 こちらの攻撃は相手があまりにも速いためまるで当たらない。
 運良く彼女の方に飛んでいったとしても全て弾かれていた。
 叶香は物陰に隠れていて無傷。
 ものの数分で味方のサイボーグは叶香以外行動不可能になっていた。
「神代!再スキャン!」
 紫色のサイボーグが言う。
 わかったわようるさいな〜と怠そうに言い放つツインテールのホログラムが彼女の隣に現れた。
 紫色までの距離は10メートルほど。サイボーグの力を持ってすれば一瞬で接近できる距離。
 紫色とホログラムが叶香の方から視線を逸らした瞬間、叶香は物陰から姿を出した。
 刹那ーー
 激しい衝撃と共に後ろに吹き飛ばされた。紫色の持っていた避雷針の様な武器が胸を貫通していて、後ろの壁に串刺しになっている。
 顔を上げると紫色の足が戦車から放たれた弾丸のように迫っていた。
 あの速度で頭を蹴られたら、例えタングステンで保護されている頭蓋骨でも脳の損傷は免れられないだろう…
 死を覚悟してぎゅっと目をつむったのだが。
 いつまで経っても攻撃は当たらなかった。
 恐る恐る目を開いてみると、紫色が震える手で彼女の髪飾りを触ろうとしていた。
「あ…あぁ…」
 その目からは大粒の涙が流れている。
「琴葉…?」
 その名前を聞いた瞬間、脳内に電撃のような衝撃が走った。
 ここ約一年の記憶しかない叶香の口から信じられない言葉がついて出る。
「お姉ちゃん」
 そして叶香は活動限界で意識を失った。

 再び目が覚めると見知らぬサイボーグ治療室のベッドの上だった。
「琴葉!」
 一番最初に目に入ってきたのは叶香を行動停止に追い込んだMoonbit社の紫色のサイボーグ。
 心配そうに叶香を覗き込んでいる。
 その隣にはツインテールの女サイボーグ。ホログラムだった少女だ。今は実体がある。
 難しい顔をして腕組みしている。
「やっぱり物理的に脳内のデバイスを外そうとするとバッキバキに脳細胞痛めるわね」
「あなた達は…?」
「Moonbitの神代。こっちは…舞蝶。あなた…一応聞くけど名前は?」
「叶香と申します。ご存じの通りFloatingBits社員です」
「叶香…ねぇ…脳細胞のDNA判定では、琴葉って人物になってるんだけど」
「…否定できません。私はここ1年の記憶しか無く、それ以前の記憶は当社ブロックチェーン上にロックされていると聞いています」
「叶香…
 琴葉でしょ?
 私の事わからないの??
 だって、さっき…!」
 舞蝶がベッドにてを付いて叶香に迫る。
「申し訳ありません。存じ上げません」
「舞蝶、さっきのはおそらくただのグリッチよ。あまり期待しない方がいいわ」
 神代の言葉に力が抜けたようにドサリと椅子に座り込む舞蝶。
「叶香…って言ったわね」
 神代は舞蝶の方を心配そうにみながらそう切りだした。
 叶香はDNA鑑定の結果99%の確率で舞蝶の妹『琴葉』である事、父親の事業失敗のツケで人身NFTとして売買された事、自宅からFloatingBits社のサイボーグが琴葉を攫ったこと、約1年前琴葉の心臓が見つかった事…それでも舞蝶はずっと探し続けていた事、なとなど、淡々と語った。
 その間舞蝶は両手で顔を覆い、椅子に座ったまま微かに肩を震わせていた。
「当社は人を攫って売り飛ばすような非道はしません。規定にも…」
「表向きは、ね」
 神代が遮った。
「慈善事業として、NFTマーケットの巡回をして何人か救い出したケースはあるわ。
 でもその後のインタビューや記者会見は精神的に不安定であるという理由から全て拒否。
 …今回あなたを見つけて理由がわかったわ。」
 呆れた、と両手を開いた。
 琴葉が襲われた時、FloatingBits社のサイボーグの痕跡しか見つかっていない。
 つまり、Floatingbits社の自作自演の可能性を示唆していた。
「…」
「とりあえず叶香の事に集中しましょ。
 FloatingBitsの自作自演暴露は警察の仕事よ」
 神代の提案に舞蝶がようやく顔を上げた。
「脳のデバイスは細胞と一体化してるから破壊はあまり得策じゃないわ。
 やっぱFloatingBitsのチェーンに攻撃するしかないわね。」
「…本気…?」
「うちはFloatingBitsと違って社員が少ないからね。
 業界トップクラスのあなたの戦意が喪失する方が痛いわ」
 神代が舞蝶の頭をぽんぽんする。
「51%攻撃を通す。
 攻撃が通ってしまえばおそらくだけど、たかが1社員のデータ、リオーグや修正の提案はされないと思う。」
「…神代、なんだか楽しんでない?」
「そりゃぁね!
 こんな機会滅多にないしw」
 思わず舞蝶は神代を抱きしめた。
 豊満な胸の谷間に埋もれながら神代は続ける。
「舞蝶はCB(Cybernetic Battle、サイバー戦)じゃ役に立たないわよ。あんた物理専用でしょ」
 ピシリと舞蝶が固まる。
 よいしょっと言いながら神代は胸から逃れた。
「舞蝶には護衛を頼むわ。
 CBに集中する間体の方が無防備になるから、万が一トレースされた場合物理的に制圧してくる可能性があるし。」
「そうね。わかったわ。」
「雪華!」
「はい、どうしたの?神代ちゃん。」
 神代の側に雪華と呼ばれる白髪少女が映し出された。
「3日後、FloatingBits社コンソーシアムチェーンに攻撃を仕掛ける。
 CBよ!手伝って。」
「えぇ!?FBチェーンに攻撃??
 正気なの?」
 神代と舞蝶が今までの経緯を説明する。
 雪華は難しい顔をしながら、時には目じりを拭きながら二人の話を聞いていた。
「事情はわかりました!
 舞蝶ちゃんの大切な人の為なんですね!
 これはもう私も全力でお手伝いさせていただきます!」
 雪華は両手の拳をぎゅっと握りしめた。
「頑張りましょうねっ!舞蝶ちゃん!」
「ありがとう雪華!ごめん、私、CBあまり役に立てなくて。。」
「いい?
 今回の攻撃は私達3人の独断。
 流石に社員でもないひとりの為に膨大な会社のリソースは突っ込めないわ。
 FBチェーンはPOW。
 51%攻撃は私と雪華でありったけのハッシュパワーを集める。
 問題はデータ引き出し用コントラクトに使用する秘密鍵ね。
 3人の役員が分散して持ってる。
 同時にハッキングをかける。秘密キーは多分問題ないけど、チェーンへの攻撃は確実にバレる。」
「…見逃せません。直ちに通報を…」
 押し黙っていた叶香が流石に声を上げた。
 会社に攻撃を仕掛けると言う話を聞いてだまっていられなかったのだろう。
「あんたね、あんたの為にやってんのよ!
 舞蝶のことお姉ちゃんって呼んだじゃない!
 それってあなたが琴葉って証拠でしょ??
 無意識下で舞蝶に助けてって思ってるんじゃないの??」
 思わず目を逸らした先、ベッド脇にある小さなテーブルの上に先の戦闘でボロボロになった髪飾りが目に入った。
 舞蝶はそれと同じものを付けていた。
 彼女が動くたびにシャラシャラと静かな音がした。
 ほんの一瞬、自分の記憶にないはずの、赤い夕日と田舎の夏祭りの風景が脳裏に浮かんだ。
 DNA鑑定ではこの舞蝶と言うサイボーグの妹だと言う…
 嘘をついてる?
 いや、嘘をつくメリットがない。
 じゃあやはり真実…
 分からない。
 彼女達が攻撃したとしてもそんなにうまい事行くだろうか?
「…わかりました。
 一回だけ目を瞑ります。
 好きにやってください。」
「はっ!
 一回で十分よ!」
「頑張りましょうね!舞蝶ちゃん!」
「みんなありがとう…!」

 三日後。黄昏時。
 MoonBits社の今は使われていない、小さなサイボーグメンテ施設の一つに叶香を移動し、そこに舞蝶、神代、雪華の三人は集まった。
「ここなら防壁も揃ってるし、いいですね!」
「でしょ?
 資源は有効活用しないとねっ!
 物理は頼んだわよ、舞蝶!
 死ぬ気で守んなさい!」
「わかってるわ!」
「叶香経由で役員3人の電脳に同時アクセス!
 いくわよ!」

 歯科医院にある治療台に似たベッドに横になると、神代と雪華はハッキングを開始したーー

次章(第三章)→


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