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ペダル付き原付で自転車道も走れる?モビチェンで法律と実用性が変わる!

この記事は

原付と自転車を切り替えられるペダル付き原付について、これをエンジンと自転車をくっつけて自作はできるのか、どういう経緯で警視庁から通達が発出されたのかなどを解説します。自転車にエンジンを載せたいので調べました。

ペダル付き原付とは

 そもそも原付は原動機付自転車の略で、はじめは自転車に原動機を取り付けて人間が漕ぐのを補助するものでした。1868年に蒸気機関を載せた木製自転車から始まり、1958年から本田技研工業から自転車に後付けするエンジンキット「カブF型」が発売されました。
 現在の原動機付自転車はほとんどの製品がバイクの一種で、排気量によって区分されているがこの区分がややこしいので後に解説する。例外として「バイクにペダルが付いた珍しい製品がある」という様に初期とは関係が逆になっている。

カブF型を取り付けた自転車


出典:バイクブロス ホンダ(HONDA) カブF型 | Cub Fの型式・諸元表・詳しいスペック

警察庁からお達しが

2005年3月、ペダル付き原動機付自転車について警察庁から通達がありました。以下「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについての内容です。

「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについて
最近、ペダルを備え、ペダルのみによっても走行させることができる原動機付自転車が開発されているところですが、このような原動機付自転車の道路交通法上の取扱いについては下記のとおりですので、十分に注意してください。
1 「ペダル付きの原動機付自転車」
「ペダル付きの原動機付自転車」とは、道路交通法施行規則第1条の2に規定する大きさ以下の総排気量又は定格出力を有する原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車(自転車、身体障害者用の車いす及び歩行補助車等を除く。)であって、当該車に備えられたペダルを用い、人の力によっても走行させることができるものをいいます。なお、人の力を補うため原動機を用いるものであって、道路交通法施行規則第1条の3で定める基準に該当する自転車(いわゆる「電動アシスト自転車」)は、道路交通法上自転車として扱われるものであり、ここでいう「ペダル付きの原動機付
自転車」ではありませんので、ご注意ください。
2 道路交通法上の取扱い
(1)「ペダル付きの原動機付自転車 は」 原動機を作動させず、ペダルを用い、  かつ人の力のみにより走行させることができるものであったとしても、道路交通法第2条第1項第10号に規定する原動機付自転車に当たります(車両の種類は当該車両の属性をあらわすものであり、例えば、原動機を作動させて「自動車」  を発進させその後原動機を停止させて惰性走行した場合であっても、「自動車」を通行させていることとなるのと同様です。)したがって、「ペダル付きの原動機付自転車」は、車道の通行等原動機付自転車の通行方法に従うことが必要です。
(2)「ペダル付きの原動機付自転車」は、原動機により走行することができるだけでなく、ペダルを用いて人の力のみによって走行させることもできる構造ですが、いずれの方法で走行させる場合もペダル付きの原動機付自転車の本来の用い方に当たることから、「ペダル付きの原動機付自転車」をペダルを用いて人の力のみによって走行させる場合も、原動機付自転車の「運転」に該当します。したがって、原動機を作動させず、ペダルを用い、かつ、人の力のみによって走行させる場合であっても、原動機付自転車を運転することができる運転免許を受けていることが必要であり、乗車用ヘルメットの着用等原動機付自転車の運転方法に従うことが必要です。

引用:警察庁交通局 「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについて

要約すると、

ペダルが付いた原付はキーをオフにしていても自転車として走っちゃだめ。エンジン切って足で漕いでいても原付のルールをまもってね。

ということです。
 自転車にエンジンを載せてモペッドにすると完全に原付になってしまう。自転車としての人生は終わってしまいまうわけです。このルールの根拠は、自動車が走りながら急にエンジンを切って惰性で進んでいる間も自動車として扱うことにあるそうです。
 じゃあエンジン切るときには止まれってルールのほうが分かりやすくて便利じゃないか!と思っていると新しく通達がありました。

再び警察庁からお達しが

2021年6月28日、再びペダル付き原動機付自転車について警察庁から通達がありました。以下「車両区分を変化させることができるモビリティ」についての内容の一部です。

「車両区分を変化させることができるモビリティ」について(通達)
道路交通法(昭和35年法律第105号)第2条第1項に規定する車両区分については、従前から、車の属性をもって判断すると解されてきたところである。例えば、一般的なペダル付原動機付自転車については、「「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについて」(平成17年3月24日付け警察庁丁交企発第94号等)で示しているとおり、原動機を作動させず、ペダルを用いて人の力のみによって走行させることも可能であるが、そのように走行させる場合であっても、車体の構造が原動機付自転車から自転車に切り替わるわ
けではなく、原動機付自転車という属性は変化していないことから、引き続き原動機付自転車に当たると解される。
ところが、今般、ペダル付原動機付自転車であって、原動機(電動機)の力及びペダルを用いた人の力を用いて運転する構造(以下「EVモード」という。)から、原動機の力を用いることなくペダルのみを用いて人の力により運転する構造(以下「人力モード」という。)に切り替えることができるものが開発されている。このようなもののうち、以下で示す2つの要件を満たすものについては、構造の切替えに応じて、その車の属性、すなわち道路交通法上の車両区分を評価することとしたので、周知を徹底し、遺憾のないようにされたい。
1 要件
・ 乗車している者が、車が停止していない状態で、EVモードから人力モードに切り替えることができず、かつ、人力モードからEVモードに切り替えることができないこと。
・ 人力モードは、地方税法(昭和25年法律第226号)及び市町村(特別区を含む。)の条例に基づいて交付された原動機付自転車の標識を表示することができず原動機付自転車として適法に走行させることができない構造であり、かつ、それが明らかな外観となっていること。なお、EVモードのときには、道路交通法第71条第6号の規定による都道府県公安委員会規則の規定により、原動機付自転車の標識を表示していなければならないこととなる。
2 「車両区分を変化させることができるモビリティ」の例
「車両区分を変化させることができるモビリティ」として現時点で警察庁が把握している製品の例は、別紙のとおりである。
これ以外に「車両区分を変化させることができるモビリティ」に該当すると考えられる製品を認知した場合には、警察庁において要件を満たすか否かについて判断することから、交通局交通企画課まで報告されたい。

引用:警察庁交通局 「車両区分を変化させることができるモビリティ」について

要約すると、

ペダル付き原動機付自転車が自転車と原付を切り替えて走れることにしてあげる。条件付きで。

ということです。
 条件は以下の4つで法律違反に対する安全装置機能が義務化されています
・乗りながら車両区分変更できないこと
・軽車両(自転車)のときはナンバーを表示できないように隠してモーターも回らないようにすること
・軽車両のときはナンバーが表示されること
・新しいモビチェン製品は判断するために報告してほしい

 つまり「エンジン切るときは止まれってルールのほうが分かりやすくて便利じゃないか!」という声が通った訳ですが、誰が通したのかというと電動モビリティを開発、販売しているglafit株式会社とこの会社の所在地である和歌山県です。

 現在わが国には新技術等実証制度というものがあり、規制のサンドボックス制度と呼ばれています。これは現行の規制が新技術の実用化やビジネスモデルの社会実装の足枷となる場合に、認定を受け、実証実験を行い、規制の見直しに繋げていく制度です。
 glafit株式会社と和歌山県は共同でこの制度に応募し、実証実験の後に先の通達が発出され、ナンバーを隠すことで車両区分の変更を可能にしたモビチェン®(Mobility Category Changer)2022年12月15日より予約販売が開始されました。
 このあたりの情報について詳しくは以下のサイトを御覧ください。

原付の区分について

 警察庁から通達された文章の中で出てきた「原動機付自転車」という言葉ですが、実は法律によって区分が異なります。
 まず国交省の管轄である道路運送車両法では50cc(0.6kW)以下を原付一種、50cc超え125cc(1kW)以下を原付二種と定義しています。
 1000Wの電動バイクやカブF型の2型(58cc)等は原付き2種にあたります。
 しかし、通達を出した警察庁の管轄は道路交通法では50cc(0.6kW)以下を原付と定めているため、上の車両法で原付き2種と区分される車両は小型限定普通二輪という扱いになってしまいます。

どの排気量まで「モビチェン」できるのか

 前項で説明した原付き2種は原付と扱われないことの何が問題かというと、通達で原動機付自転車のことしか明言していないため原付き2種で「モビチェン」を行うと法律違反になる可能性があることです。
 2023年2月現在、モビチェンはglafit株式会社発売GFR-2(0.25kW)の後付オプションの名称であるためこのような問題はありませんが、本来の原動機付自転車として販売されていた製品や市販されている自転車モペッド化キットの中には80cc、100cc等小型普通二輪に区分されるものがあります。
 これらはそもそも2005年の「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについてでも規制されず、2021年の「車両区分を変化させることができるモビリティ」についてでも触れられていません。そのためグレーゾーンなわけです。

小型限定普通二輪で「モビチェン」したい

 正確に言うと「自転車に50cc(0.6kW)超えのエンジン(モーター)を積みたい」です。先程も言った通り原付にしか触れていないのでグレーゾーンですが、白よりのグレーか黒寄りのグレーかを考えてみましょう。
 まず通達にあった条件から考えて、ナンバープレートを隠す仕組みと法律違反を防止するための安全装置が必要ですがこれは仮に製造が可能だということにします。条件のもう1つが交通局交通企画課への報告ですが、これは文章的に”報告されたい”なので強制力はありません。実際にはリスク回避も含め報告したいところですが、車両を作ってから報告したらだめだったというパターンは考えたくないので今回は無視します。
 まず黒のパターンですが、2005年6月以降、2021年6月28日以前のペダル付き原動機付自転車と同様エンジンを切っても自転車としての運転は認められない場合です。
 この場合、歩道を走ったり自転車専用道路を走ったりすることができないですが、ナンバープレートを隠す装置を使用してエンジンを切って走った場合、ナンバープレートを外して走ったときと同じ様に道路運送車両法違反になってしまう可能性が高いです。
 さらにややこしいのがここで取り締まられる場合に適用される法律は道路運送車両法である点です。車両法では原付き二種の区分なので、原付は条件守れば自転車と切り替えられるんじゃないの?という原付という区分に対して寛容だった車両法に裏切られる状態になってしまいます。
 白のパターンは車両法の原付に当たるため自転車への切り替えは有効である。またはどちらの通達にも当てはまっていない。つまりグレーゾーンで自転車として走り回っていた2005年6月以前の状態のままである場合です。
 そのため、問題は以下の2つにまとめられます。

原付二種か小型限定普通二輪のどっちなのか。また小型限定普通二輪だとして、これは先の通達の2つまたはどちらか1つに当てはまるのか。

現実的な問題

 2つ目の通達を見直してみると”原動機(電動機)の力及びペダルを用いた人の力を用いて運転する構造”を「EVモード」、自転車運転を「人力モード」と定義していることから分かるように、そもそもこのルールは電動バイク用に決められたものでエンジンモペッドの存在を考えていないように感じます。
 電動バイクの原付区分50ccに対応しているのは0.6kWで、共に60km/h走行の能力はありますが現在モビチェンができる唯一の原付GFR-02は0.25kWで区分的にかなり余裕があります。
 自転車としてペダルでも漕げるという性質上重すぎる車体はペダル付きのメリットを活かせないし、エンジン(モーター)走行中に漕ぐにしても原付二種区分のバイクではオーバースペックで速度はエンジンの力で飽和していて燃費の向上くらいしか意味がないように思います。
 では軽い車体で125ccのエンジンか0.6kWのモーターを載せられたとして、その自転車のような貧弱な車体で60km出して自動車と一緒に走るのは恐ろしいので原付が30kmで同じ道路を走るのも怖いですが、2つを比べると30kmのほうがまだマシに聞こえるので小型限定普通二輪は不可だと言われても残念ではありますが納得はいきます。

自作「モビチェン」は可能か

 ナンバープレートを隠し、その法律違反に対する安全装置は技術的には可能です。電気制御を入れても入れなくても作れるものだと思います。
 しかし前項では無視した「交通局交通企画課まで報告されたい。」という条件通りに報告したところで作った装置が認められなければいくら条件を守ろうと自転車に切り替えることはできません。
 報告のタイミングで原付二種も認められるかどうかが判明すると思いますが、個人的にグレーゾーンを攻めた安全性も信頼性もない個人のDIYを認めてくれる可能性は低いと思います。
 企業や研究機関の活動としてモビチェンの対抗馬を交通局交通企画課と相談しながら開発していく他の道は無さそうです。

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