進路

なぜ漫画編集者になろうと思ったのか。

~少女漫画誌の編集長がフォロワーさんの質問に答えていく。③~

毎回読んでいただきありがとうございます。反応があるってとても嬉しいですね。


今回はこちらの質問についてお答えしてみます。
「この職業につこうと思った理由を教えてください」
「編集の仕事をしたいといつから意識してましたか? 子供の頃の夢とは違いますか?」


なぜ僕は漫画編集者になろうと思ったのか。

編集者になるにはどうしたらよいかという質問を沢山いただいたので、今回はそれに答える前のウォーミングアップのつもりで書いてみます。

大して参考になるようなことは書けませんが、あえてピックアップすると、三つのことがきっかけになっています。


まず一つめ。祖母の言葉。


子供の頃ものすごい活字中毒だったので、暇さえあれば新聞を読んで毎日夕刊が届くのも待ちわびたり、小学校の図書室の本をほぼ全部読んだり、挙げ句の果てには父親への誕生日プレゼントに図書券を渡して「お父さんももっと本読んだ方がいいよ」などと言ってしまうような子供でした(苦笑)。

うちは僕以外、一族みんな理系の家系なので、そんな僕はかなり異端児だったと思います。

毎日毎日時間があれば何か読んでるのを見て、家族みんなずっと気味悪く思ってたはずですが、なぜか祖母だけが僕の姿をニコニコと見守ってくれていました。


今でも覚えているのですが、その祖母がある日突然「あんたは新聞記者か出版社の人になるんだわ」と言ってくれたのです。

僕が子供の頃は新聞社とか出版社とかで働いてる人って、とってもかっこいいイメージだったんですよね。今、中に入ってしまっていると、どう見られているのか分かりませんが(笑)。

祖母がどういうつもりで言ったのかは聞かなかったけど、だから嬉しかったんです、きっと。

子供の頃に誰かに肯定された言葉ってどこかにずっと残るんでしょうね。 

そのあと長らく忘れていたのですが、いざ就職活動となって、「自己分析とか言われても自分が何に向いているのかなんて分からん」と思っていた時に、『あんたは新聞記者か出版社の人になるんだわ』という祖母の言葉がすっと蘇ってきたのでした。


二つめ。親友MKの存在。


小学校からの親友で、出会ってから35年くらい経った今でも仲のよいMKという男がいます。

すごい絵がうまくてセンスもよくて、ちょっとマセてて、色々と知らない文化を教えてくれた奴で、大人になってからはゲーム業界で活躍してます。

小学校高学年の時に、その彼と共に漫画家に強く憧れた時期がありました。それで自然と、漫画を描いてお互いに見せ合おうという約束になったんです。


人生で初めての漫画、ドキドキしながら描き始めて最初は楽しかった。でも、どうやっても描けなかったんです(苦笑)。

当時は超野球少年でもあったので、野球漫画を描こうとしたんですけど、何をどう描いてみても試合の序盤、2回の表くらいまでしか話が進まない。だから山場にたどり着かないし、話も終えられない。

だんだん描くのが嫌になって放り投げてしまいました。

今の自分ならすぐに、1打席や1球だけ切り取って描く短編でもいいし、試合前や試合後のことで話を描いてもいいんだよとアドバイスできますが、当時は諦める方が早かった(笑)。  


一緒に決めた締め切りが近づいてきても何も描けてないうちに、「出来た」と言って彼はちゃんと漫画を描いて持ってきました。

中身はガンダムのオリジナル番外編みたいな内容だったのですが、一目見て衝撃!!!

「ガンダムが動いてるーーっ!!!!!」

大げさではなく本当にそう感じられるくらい上手かったんです。メカの描写もリアルでめちゃめちゃカッコよかった。

漫画家になろうという気持ちはその一瞬で折れてしまいました(笑)。


だけど漫画が描ける才能って凄いという気持ちは、より一層大きく育ったんですよね。

当時の僕らを漫画家という職業に憧れさせたのは、NHKでドラマ化もされて大ヒットしていた藤子不二雄A先生の『まんが道』だったのですが。

漫画家になる気持ちが折れたあと読み返していて、編集者もカッコいいなと思ったのです。

自分に描く才能はなくても、誰かの才能を花開かせることはできる。

それが漫画編集者という職業を意識した最初だったと思います。


こう書いてみると、編集者目指した理由としてはベタ過ぎですね(笑)。


三つめはもう少し現実的なきっかけ。


高校の文化祭で演劇をやったのが楽しかったのもあって、大学では演劇のサークルに所属して芝居三昧な4年間を過ごしていました。

みんな結構プロに近いレベルでやっていたと思うし、僕もできればそのまま芝居の道へと進みたかったのですが、家が経済的に苦しかったので、何か仕事をしてお金を稼がなくてはなりませんでした。

そこで、芝居が続けられそうな会社。つまり東京にしかなくて毎日定時で帰れそうな会社に入ろうと思って就職活動を始めたのですが。。。

当たり前ですがそれでは会社に魅力を感じないんですよね。熱心に話を聞いてくれる採用担当の人にも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうし。


それで、本当に仕事にしたい仕事、芝居ができなくなってもやりたいと思える仕事を考えようと思い直しました。

改めて「本当にやりたい仕事ってなんだ」と考え始めた瞬間は途方に暮れていたのですが、次第に一つめ、二つめで書いたことが浮かんできて、本当に好きな出版社だけ受けることにしました。

結果、幸いなことに今の会社に合格をもらえて、入社後ありがたいことに作品を作る部署に配属されて、現在に至るという流れです。


前のエントリーに書いたように、最初は何を喋ればいいのかさえ分からなくなったこともあったし、日々何かしら思いがけぬ大変なことも起きたりしますが、それでも漫画編集者になれてとてもよかったと思っています。

今でも作品が生まれる場所にいることができて幸せです。



次回は「編集者になるのに必要なこと」について、僕なりに考えてお答えしてみたいと思います。


※こちらでお答えしていることは、すべて僕なりの個人的な一意見であり会社や編集部の公式見解ではありません。


※僕のnoteは無料です。サポートもなしです。サポートのお気持ちを持っていただけた場合は、かわりに「デザート」の漫画を読んでみてください!

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