誰かと一緒にものを作るのはとてつもなく大変でとてつもなく楽しい。
~少女漫画誌の編集長がフォロワーさんの質問に答えていく。⑤~
こうやって質問に答えていると、必然的に自分の編集者としての底の浅さがバレバレになってる気がしますね(苦笑)。ですが、聞かれたことには基本何でも答えるのが僕のポリシー。なので続けます!
今回お答えする質問は前回に続いてこちら。
「編集者になるために必要なことなど教えていただきたいです」
「将来漫画や本の編集の仕事に携わりたくて勉強中なのですが具体的にどういうことができれば夢に近づけますでしょうか」
「編集者になるのに必要なことって?」についての「やっててよかったこと編」です。
僕の場合はですが、芝居をやっててよかったということに尽きます。
なぜ芝居をやっててよかったのか。
①他の誰かと一緒にものを作る大変さも楽しさも味わうことができたから。
一番はこれです。
芝居に限らず、映画もドラマも雑誌も、というかエンタメ系の職業に限らずどんなことでもそうでしょうけど、なかなか1人だけで何かを作り上げることは出来ません。
たとえば芝居の場合、公演を行うためには役者と演出、脚本だけでなく、舞台監督、照明、音響、音効、舞台美術、衣装、ヘアメイク、小道具、制作、宣伝、などなど様々なパートのスタッフが必要になります。
いざ公演をやるとなった場合、そういう同じ公演に関わる人みんなが「最高の舞台を作り上げる」ことを思って参加するのですが、実際にやってみて、最後まで全員が同じく「最高の舞台」を目指すのはとても難しいということを思い知りました。
まず、参加する人みんなそれぞれに、この「最高の舞台」に対する考え方や思いや温度が違っているからです。同じ「最高の舞台」観を共有するのには、何度も議論したりケンカしたり、とてつもないエネルギーが要ります。
そしてみんな人間ですから、どんなに完璧を期していても、怪我をする人や体調を崩す人が出たり、様々な事情で最後まで参加できなくなる人も出たりします。
それだけではなく、学生のやることですから予算が足りなくなったり、単位が足りなくなったり、人間関係が色々色々あったり、次第に時間も体力も尽きてきたり。
最後まで理想通りできたことはありませんでした。
でも、現実には最初から最後まで理想通りいくことなどほとんどないと知ることができたのはとても大きなことでした。
それでも毎回最後までベストは目指し続けてましたから、最終的にはうまくいって沢山のお客さんから拍手をもらえたり、評判がよかったり、打ち上げが盛り上がったりすることもあり。
結果、みんなで何かを達成できた喜びを感じる瞬間は何ものにも代えがたかったし、また次一緒にやろうと企画を考える時は最高に楽しかったです。
漫画家さんや編集者によってやり方や考え方はみんな違うと思いますが、僕の場合は、芝居をやっていたことで誰かと一緒にものを作る時の大変さを実感として知っていることと、それでも一緒にエネルギーを出し切りあって作る楽しさがあるのを知っていることは、大いに役立っています。
②自分ではない人間のことを考えまくったから。
芝居やっててよかったことその2。
あまり公の場で言うのは小っ恥ずかしいけど、主に役者をやっていました。人前で何かするのは苦手だったのですが、それ以上に直接お客さんの反応を感じられることがとても刺激的だったからです。
残念ながら才能はなくて「感覚的に役を演じる」なんてことはまったく出来ず、舞台の上でどう動いていいかもなかなか分からない大根役者でした。演出をやった先輩、同期、後輩たちがよく出演させてくれたものだと思います(苦笑)。
感覚的に演じることができなかった僕は、毎回その役がどんな人間なのか徹底的に考えなくてはなりません。
ひたすら想像してはその役の心情をメモし、想像できなければ似たような状況を味わってみたり、取材したり勉強したり。そうしないと演技ができない、とにかくまあ不器用な役者だったのです。
当時は悔しかったり情けなかったり、あるいはただただ必死だったのですが、今思うと非常にいい訓練をさせてもらっていました。
大変な思いをした役作りの経験のおかげで、漫画のキャラクターたちの行動原理をどう整理するかなど、少しは漫画家さんの役に立つことが考えられているのかもしれないと思います。
もう一つ大きかったのは、自分の役のことだけ考えていてもダメだと知ったことです。他の役者は他の役者で色んなことを考えて演じてきます。他の役者の考えを受けて、どうお互いを活かし合うか。そういう発想を得られたのも大きかったです。
③やたら沢山のバイトをするはめになったから。
芝居をやってる人あるあるですが、相当理解のあるバイト先でないかぎり、長く同じところでバイトを続ける事ができません。公演のたびにそれなりの期間休まないといけないからです。
僕は最初は稽古のあと深夜バイトして、ほとんど寝ないで学校行って稽古行ってまた深夜バイトに〜を繰り返してましたが、さすがに体力が続かず、すぐに短期でバイト先を代え続ける道を選びました。
たぶん、学生時代の間に20種類以上の仕事をしたと思います。
当然、長く一つのバイトを続けた人が獲得できるようなもの(人間関係の深さとかスキルとか)は手に入れられませんでしたが、代わりに沢山の職場とそこで働いてる人たちを見る事ができたのは貴重な経験であり、いい財産になりました。
世の中には色々な人がいて、みんな色々な事情を抱えていることを知れたからです。
それとは別の観点でもう一つ。
漫画を実際に描くのは漫画家さんです。
自分が詳しいだけでは意味がなく、実際に描く漫画家さんがイメージできないと漫画になりませんので、ほとんどの場合、何を描くか決めたら一緒に取材したり調べたりします。逆に漫画家さんが知ってて、こちらが知らない分野を描いてもらう場合は、必死で勉強します。
つまり実際に作品を作るとなって改めて調べたり勉強したりすることの方が遥かに多いのです。
なので意外なことでしたが、すごく詳しい分野があるのと同じかそれ以上、全然知らないことがあまりない=広く浅くだけど色々知ってる、というのも重宝されるのです。
ですから、色々なことを経験しておくと何かと役に立つと思います。
④おまけ
これは人から言われて気づいたことなのですが、僕の担当した作品はどれも少女漫画の中では登場人物が多いそうです。無意識ですが、同じ舞台の上に同時に沢山の登場人物が出てくる芝居が好きな影響があるのかもしれません。
ちょっと個人的な話ばかりになってしまいましたが、編集者になる前に「やっててよかったこと」編でした。
次回は、もう一つ関連の質問にお答えしてみます。
※結構答えるのが難しい質問が続きますので、ぜひぜひ感想教えてください。皆様の感想だけが、書いていく時のヒントになります。どうぞよろしくお願いします。(こちらでもツイッターでもどちらでも結構です!)
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