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「患者さんのケアと診療の質を向上させる」ための病院版電子カルテ共同開発物語。 〜療養型病院と最後発のレセコン一体型電子カルテを開発するベンチャーの1年半にわたるプロジェクト〜

こんにちは。レセコン一体型クラウド電子カルテ「Henry」を開発している、ヘンリー 広報チームです。
(私たちについてはこちらのnoteをご覧ください)

私たちは、クリニックに加えて、中小病院向けの電子カルテの開発を進めています。病院版の電子カルテを開発するにあたって進めてきた、まちだ丘の上病院 との共同開発プロジェクトについて今回ご紹介します。

お話いただいたのは、理事長の藤井さんと院長の小森先生、事務長の高橋さんお三方です。
(トップの写真は、右から理事長の藤井さん、弊社代表の逆瀬川、院長の小森先生、事務長の高橋さん)

従来の病院向け電子カルテは中小病院に値段が見合わない

インタビューの内容に入る前に、業界的な事情を簡単に説明します。

まず、電子カルテは大きく分けて、外来と入院の機能があります。外来は、クリニックでも病院でも、大まかに「受付→診察→会計」という流れを管理するための機能です。主に医療事務員と医師が情報を入力します。入院は、同じ病気で入院していたとしても患者さんの体質や病気の進行具合によって行う処置が変わるため、患者さんごとに情報を管理していく必要があります。また、医療事務員と医師に加え、看護師や検査技師、薬剤師など病院の中で多くの関係者がカルテに情報を入力・共有する必要があるため、情報管理の複雑性が高くなります。

電子カルテの多くはまだオンプレミス型で、管理の人件費を含め年間数千万円のコストがかかるのが一般的です。これは、中小規模の病院が支払える金額ではなく、200床未満の病院でみると電子カルテの普及率は4割を満たしません。(*1) 一方で、医療のICT化を進めるため、2年に一度の診療報酬改定(日本は医療費の点数を2年ごとに見直すルールになっています)では、病院の規模に関わらずデータ提出が必須に変更されました。(*2) 「データ提出加算」といって、病院が「データ様式1」と呼ばれる指定のデータ様式で厚生労働省にデータを提出する必要があり、2018年までは200床未満の病院はデータ提出が不要でした。2020年から病院の規模に関わらずデータ提出が必須に変更となり、経過措置が設定されています。

中小病院からすれば、

  • 電子化を早急に進る必要があるものの、既存の電子カルテはコストが見合わない

  • 病院版の電子カルテは、病院内の業務フローついて理解していないと設計ができないため、複雑性が高く、新しいサービスがでることを期待できない

といった頭を抱えてしまうような状況なのです。

(*1) 厚生労働省 医療分野の情報化の推進についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
(*2) 厚生労働省保険局医療課 令和3年度 データ提出加算に係る説明資料 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000780333.pdf

紙カルテでは医療の質の向上に限界がある

理事長 藤井さん:
まちだ丘の上病院は、78床の療養型病院です。医師や看護師、薬剤師や技師など、100名ほどの専門職の方々が患者さんをケアしています。

専門職の方々は、シフト制で交代しながら患者さんをケアするため、情報共有がとても大切になります。医師なら医局、看護師ならナースステーションといった風に専門職ごとにそれぞれの持ち場があり、持ち場の中で必要な情報はまとまっていたものの、専門を超えた情報共有がきちんとできているとは言えない状況でした。患者さんの総合的な情報がなければ専門的な判断ができないことも多く、追加の確認を取るなどの二度手間が発生したり、スタッフの経験や感覚に依存してしまっている部分も多々あったと思います。医療の質を上げるためには、スタッフが欲しい情報を得たいときに得られる状態をつくることが必須だと考えていました。

事務長 高橋さん:
紙カルテでは、情報を集約・統合することができないこと、また、情報の視認性や検索性に欠けること、そして、新しいスタッフの多くが他の病院で電子カルテを触ってきている中で、医療の質とスタッフの働く環境をより良くするためにもIT化は急務でした。

既存の電子カルテを一通り調べたものの、当院の規模で電子カルテを導入するのは、四畳半に住んで高級車買うような感覚…しかも機能が多くて正直使いづらそうな印象が強い。どうしたものかと思っていたとき、「一緒に電子カルテを開発しませんか」といった内容のFAXが届きました。忘れもしない、2018年のクリスマスでした。

決め手は一緒に課題解決をしようとする姿勢

院長 小森先生:
「Henry」は、 iPhone を初めて見た時のような高い視認性や操作性を備えていました。加えて、クラウド型の電子カルテのため、維持費などのコストを抑えられ、既存のカルテと比べて費用が1/5程度で済みます。なにより、既にあるシステムを押し付けるのではなく、一緒に課題解決をするために何ができるか、といったコミュニケーションをヘンリー側と取れたことにとても好感を持ちました。

半年以上議論を重ね、一緒に電子カルテを開発するという両者にとって大きな決断をし、2019年8月から本格的にプロジェクトが動き出しました。

まだ完成していない電子カルテの導入プロジェクト

ゴールを定めるためにヘンリー社と一緒に整理した電子化のメリット

事務長 高橋さん:
まずは、現状の課題を洗い出す必要がありました。ヘンリーの代表の方が泊まり込みで業務のフローを体験・確認し、一つ一つ言語化していきました。言語化した課題をもとに、一緒に要件定義を行い、2ヶ月ほどかけてプロジェクトのゴールを定めました。

「患者さんのケアと診療の質を向上させる」

当たり前に聞こえるかもしれませんが、医療機関が求められる一番のこと。ここに立ち返り、電子カルテに求める体験や、必要となる機能の優先順位をつけていきました。

理事長 藤井さん:
まだ完成していない電子カルテの導入を進めることに、院内で戸惑いの声もありました。組織に新しいシステムを導入することは、業務を変えることにつながり、変化は一定の苦痛を生みます。やったことがないこと、よく知らないものへの不安もあったでしょう。大事なのは現場へのエンゲージメントをどう示すかだと思っています。

年末年始の休みに事務長が業務フローを全て書き出し、印刷したものをベースに現場のスタッフと議論を重ねていきました。ヘンリー側とはSlackでのコミュニケーションに加え、週一でオンラインベースに定例会を行い、小まめにやりとりすることでなるべく早く現場の声を反映できるように努めました。ある程度システムの形ができたら、少人数のチームを作り、テスト環境で電子カルテを体験してもらったり、定期的に説明会を実施しました。医師には1人ひとり説明していきました。

説明会の様子

どんなプロジェクトも「進める→課題が出る→対応する」の繰り返しです。いかに、一つ一つ丁寧にスピーディに対応していくか。テクノロジー要因の部分だけではなく、業務フローの整理や改善もヘンリー側と一緒に進められたことで、電子カルテ化を進めることができました。

今後への期待

院長 小森先生:
「Henry」は入力がしやすいため、診察と診察の間の短い時間でも十分な患者情報をカルテに入力することができます。カルテの情報量が増えたことで、患者さんの情報が時系列で追いやすくなりました。

「Henry」の特徴は、とにかく入力がしやすく、書き心地にこだわっていることだと思います。レセプト一体のクラウド型電子カルテとして他の中小病院でも普及し、多くの病院の業務効率化を促進することで、日本の医療の質を向上させていって欲しいです。