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なぜ関係人口なのか?〜関係人口の登場と過去の政策〜

2014年に地方創生担当相が設置されて以来、「地方創生」という言葉が盛り上がりを見せています。そして、地方創生の手段として「関係人口」へ注目が集まっていますが、ここに関係人口の興味深さがあります。

「なぜ関係人口なのか?」を分析したいと思います。

本文の要約

「関係人口」という言葉によって地域間での「人の奪い合い」から「人のシェア」に発想を転換させ、地域への想いの強い関係人口となる人々には「地域づくりの質の向上」が期待できます。2018年に「関係人口」という言葉が広く普及しますが、それ以前にも関係人口とは言わずに、実質的には関係人口を創出・拡大する政策が行われていました。そのため、関係人口とは古くて新しい言葉と言えます。

はじめに〜関係人口とは?〜

総務省『関係人口』ポータルサイトでは下記のように述べられています。

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。

また、同サイトでは下記の図で関係人口の概念を説明しています。

関係人口_関係人口ポータルサイト

この図から、「1回限りの来訪」と「移住・定住」の中間領域が幅広に関係人口とされ、多種多様な関わり方があることが分かります。

また、その地域に来訪したことはないが興味関心があるため、リモートで地域づくりに関わるような人物も関係人口になり得ると思われます。

具体的には、岩手県遠恋複業課の取り組みがあり、「都市部で働きながら副業としてリモートで過疎地域の地域課題を解決するビジネスマン・ウーマン」などを想定することができます。

このような人物は「地域との関わりへの想い」が強く、地域の活性化の良い触媒になるはずです。

「なぜ関係人口という発想なのか?」

語弊を恐れずにいえば、「人のシェア」と「地域づくりの質の向上」がその回答になると思います。(下図は内閣府『令和2年版高齢社会白書』より)

高齢化の推移と将来推計_内閣府高齢社会白書

日本の総人口減少傾向がこのまま続く中で、人口(定住者)にこだわり続ければ、各地域の定住者の奪い合いが生じます。これでは各地域が対立してしまい、定住者争奪戦に負ける自治体が生まれます。

そのような世界を避けるために発想を転換して生み出されたのが関係人口だと思われます。

地域Aに住む人Xさんが地域Bの関係人口になれば、地域Aと地域Bの双方にとってプラスになります。(逆に、地域Bに住むYさんが地域Aの関係人口になることもあり得ます)

Xさん・Yさんのように地域間で人をシェアすることで、両地域が対立ではなく、協調関係を築く余地が生まれます。

また、平均的に見れば、関係人口となった人の「地域との関わりへの想い」は定住者のそれよりも強いはずです。これは、わざわざ定住地域を飛び越えて、異なる地域と関係を持つためです。

そのため、地域づくりの場面でも、関係人口となった人は総じて積極的で、定住者の場合は積極的〜消極的まで様々、という状況だと思います。この意味で、関係人口によって「地域づくりの質の向上」が期待できます。

関係人口の歴史〜節目の2018年〜

さて、関係人口の発想は古くて新しいと思われます。
総務省HPを見ると、関係人口創出・拡大事業は2018年度より始まっています。(2018年度は関係人口創出事業のみ)ここ数年で流行ってきた言葉ということには間違いがないでしょう。

2021/02/25時点で、日経テレコンにて、「日経各紙」(日本経済新聞朝刊・夕刊、日経産業新聞、日経MJなどが該当します)に限定し、「関係人口」と検索すると、2018年1月を境に記事のヒット数が大きく異なることが分かります。

日経テレコンとは、日経各紙などにて指定した単語が利用されているかを調べることができるサービスです。自分の通う大学が契約しており利用可能でした。

2017年まで:4件の記事がヒット。
記事での関係人口という言葉の利用のされ方は、

1987年10月「炭鉱関係人口」
1988年2月「法曹関係人口」
1994年12月「若者・大学関係人口の増大」
2015年5月「定住にも結びつく『関係人口』を増やしていきたい」

という形です。

「炭鉱関係人口」とは、炭鉱業界に関係する住民の数、
「法曹関係人口」とは、弁護士・裁判官・検察官といった法曹関係者の人数、
「若者・大学関係人口の増大」とは、大学の立地によって地域の若者や大学関係者の人口が増大する、

という意味でそれぞれ利用されていました。

よって、いわゆる「関係人口」という言葉が最初に登場したのは、2015年5月ということになります。(記事はこちら

2018年〜2021/02/25:122件の記事がヒット。
(2018年:16件・2019年:42件・2020年57件で年々増加傾向)

この期間で最初の記事はこちらですが、『地域と多様に関わる「関係人口」を増やす』と利用されており、いわゆる「関係人口」を指す文脈で利用されています。

この期間の全ての記事を確認したわけではありませんが、「移住」「ふるさと納税」という単語と合わせて用いられているので、いわゆる「関係人口」を指しており、普及していることが分かります。

関係人口の歴史〜2018年以前〜

関係人口という言葉の誕生以前にも、非定住者で地域に関わる人物はいるはずで、言葉によって彼らの呼び名が決まっただけに過ぎません。

それでは、2018年以前には、どのような関係人口創出・拡大の政策が行われていたのでしょうか?

ここでは、2つの政策を取り上げたいと思います。

(1)ふるさと納税(寄付金控除)

第一に、ふるさと納税(寄付金控除)です。
平成19年10月「ふるさと納税研究会報告書」p6から引用


平成5年度税制改正において、地方団体に対する寄付金が個人住民税における所得控除の対象に追加され、平成6年度以降適用されている。

これが、ふるさと納税の原型となる仕組みです。
要は、〇〇市に寄付をすればその分住民税は払わなくてよいということです。平成5年は1993年ですから随分と昔から仕組み自体が設けられていたことになります。


そして、総務省の作成した資料によれば、2007年5月に当時の菅総務相が「ふるさと納税」を提唱し、同年10月に「ふるさと納税研究会報告書」が作成され、2008年度税制改正によって「ふるさと納税」を導入することが決まりました。


1993年度(平成5年度)税制改正と2008年度税制改正の違いは正直なところネット上の文献だけでは調べてもよく分かりません(おそらく、根本的な仕組みは同じです)。

しかし、2008年度税制改正によって多くの人がふるさと納税をしやすくなり、「ほとんど使わない」制度から「使っても良いかも」と思える制度になったということは確かです。そして、それ以降も使いやすくなるような制度変更がなされています。

(2)特別市民制度

第二に、特別市民制度です。
特別市民制度は、主にA市に住む市民以外の人をA市の特別市民に位置付けるという制度です。

自治体毎の取り組みのため、「特別市民」ではない独自の呼び方をする場合、有料・無料の場合があり、メリットも様々です。

なお、どれだけの特別市民が今現在いるのかを公開している自治体は私の調べた限りではありませんでした。(どれだけ上手くいっているのか気になります。)

元祖となった自治体は不明ですが、日経テレコンにて「特別市民」と検索すると、

1989/09/11 日本経済新聞 朝刊 28ページ「兵庫県・熊本県・新潟県・福井県・三重県・北海道・香川県(北風南風)」の記事内にあった「両津市特別市民制度」

1998/10/20 日本経済新聞 地方経済面 広島 23ページ「全国から特別市民、島根・浜田市が募集開始」という記事、

がヒットするのでこれらの制度が元祖だと思われます。

なお、「両津市特別市民制度」は他に情報がありませんでしたが、浜田市の特別市民制度は浜田市の広報誌に取り上げられていたので制度としては実在していたようです。しかし、インターネットで検索した限り、現在その制度が残っているのか不明です。

現在も存在する特別市民制度の中で、最も古いと推定されるのは、「あやべ特別市民制度」だと思われます。

京都府綾部市が1999年7月より開始し、年会費1万円を支払うことで年3回綾部市の特産品がもらえる他、ニュースレターが届くようです。

なお、詳細な特別市民の人数は分かりませんが、『驚きの地方創生 「限界集落が超☆元気になった理由」 京都・あやべ発、全国に広がる「水源の里」という考え方』(著者:蒲田正樹)P50には、「あやべ特別市民制度」について以下の記述がありました。

特別市民は2000人強登録されています

他にも、

2008年10月開始(参照:山梨市「ふるさと市民」登録要綱 附則)の山梨県山梨市の「ふるさと市民」

2017年6月開始(参照:こちら)の「小諸ふるさと市民」

岩手県遠野市の「で・くらす遠野市民制度」

茨城県常磐市の「常総ふるさと市民」

が挙げられ、各地域に広がっていると言えます。

この2つの政策を取り上げたのは、ふるさと納税は国、特別市民制度は地方自治体が主体であり、お互いに役割を分担して、地域活性化に取り組んでいたためです。

今後も国と地方自治体の役割分担の上で、関係人口創出・拡大に成功していくことが望まれます。

最後に

地域を変えるのは「ヨソ者、バカ者、若者」と言われます。

関係人口となる人々は、定住者ではない点でその地域にとって「ヨソ者」です。
また、関係人口となっている地域で「バカ」をやっても、現在住む場所に帰ることができます。
そして、もし若者であれば、行動する体力がより豊富にあるでしょう。

そのように考えると、関係人口には、地域を変えるような底力があるのではないでしょうか。

<引用資料・参考資料>

(本文中にもハイパーリンクはあります)
総務省『関係人口』ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html 
岩手県遠恋複業 
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/chiiki/1030148/index.html 
内閣府『令和2年版高齢社会白書』
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
総務省HP
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kankeijinkou.html
日経テレコン
https://telecom.nikkei.co.jp 
日本経済新聞「コウノトリ、豊かさ象徴 兵庫県豊岡市長 中貝宗治氏(60)(関西の羅針盤)」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASHD10H0A_R20C15A5962M00/ 
日本経済新聞「「ドラフト会議」に全国版 地域活性化へ 「関係人口」増やす」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO25748570W8A110C1LXC000/ 
平成19年10月「ふるさと納税研究会報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/furusato_tax/pdf/houkokusyo.pdf
総務省「ふるさと納税の導入に関する経緯等」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000448758.pdf 
浜田市広報誌平成31年3月「宇津市政における主な出来事」
平成10年10月 はまだ特別市民制度が発足
https://www.city.hamada.shimane.jp/kouhou/H3103.pdf 
1998/10/20 日本経済新聞 地方経済面 広島 23ページ「全国から特別市民、島根・浜田市が募集開始――イベント情報など提供。」(リンクはなし。)
1989/09/11 日本経済新聞 朝刊 28ページ「兵庫県・熊本県・新潟県・福井県・三重県・北海道・香川県(北風南風)」中の「両津市特別市民制度」」(リンクはなし。)
あやべ特別市民制度
https://www.ayabefan.com/あやべ特別市民制度とは/ 
『驚きの地方創生 「限界集落が超☆元気になった理由」 京都・あやべ発、全国に広がる「水源の里」という考え方』蒲田正樹(リンクはなし)
山梨市「ふるさと市民」登録要綱 附則
https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/reiki_int/reiki_honbun/r189RG00000818.html
山梨県山梨市の「ふるさと市民」 
https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/citizen/docs/privilege.html 
日本経済新聞2017/5/23「小諸を外から応援して 市、公募で証明書発行」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO16707200S7A520C1L31000/ 
小諸ふるさと市民
https://www.city.komoro.lg.jp/official/kanko_sangyo/kanko/4464.html 
で・くらす遠野市民制度
https://dekurasu-tono.jp/fan-club/citizen-system  
常総ふるさと市民登録制度
http://www.city.joso.lg.jp/shigai/furusato/touroku.html 



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