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礼儀正しく意地悪に。(『女の園の星』の好きなところ)

 こんにちは、返却期限です。

 先日、和山やま先生の『女の園の星』がテレビで紹介されているのを見ました。

 私が読んでいる感じと違うので、なるほど、そういう風に楽しむ層にもウケているんだなあ、と感じました。

 作品の説明は他の人がたくさんやっていると思うので、省きます。
 私がここに書きたいのは、個人的に「面白いなあ、巧みだなあ」と思ったところです。

(以下、ネタバレを含みます。)

 第4話(「4時間目」)で、主人公の星先生は、同僚の小林先生から居酒屋に誘われます。ここでまず確認しておきたいのは、星先生と小林先生は、互いにノーと言える対等な関係であり、星先生は今回までに幾度も小林先生の誘いを断ってきているということです。

 たまには、ということで飲みにつき合うことにした星先生。小林先生は車で星先生を送るのでアルコールは飲まないと言っており、実際最後まで飲みません。星先生もお酒は遠慮するのですが、注文の行き違いでトマトハイが来てしまいます。このとき、小林先生はすぐに店員さんを呼んで、元の注文のトマトジュースに変更してもらおうとします。決して「いいじゃないですか、一杯くらい」なんて飲ませようとはしません。けれども星先生は自らトマトハイを飲むことに決めます。

 酔っ払った星先生は、そのままトマトハイを飲み続け、よく笑い、喋り、食べ、そして、泣き上戸になっていきます。ニコニコと話を聞いていた小林先生、途中で黙ってしまう星先生に対し、「大丈夫ですか?気持ち悪い?」と体調を気遣う言葉をかけます。そしてひたすら謝りながら泣き出す星先生を笑顔で慰めながら「この星先生好きなんだよなぁ俺」と心の中で呟きます。吹き出しの横に「鬼」と作者のツッコミが書かれています。

 その後も小林先生は、星先生のためにお水を注文してあげて、(具体的な描写はありませんが)ちゃんと家まで送り届け、翌日も前日の失態を蒸し返して笑うようなことはしません。

 この一連の描写、すごくいいです。
 小林先生は星先生の泣いて謝る姿を見るのが好きなのですが、そのサディスティックな気持ちを満たすのに、一切ハラスメント行為がなされていない。
 礼儀正しく平和な世界と、嗜虐的で意地悪な欲望が、同時に肯定されている。
 しかも、二人が飲むくだり、ギャグマンガとして凄く面白い。そして画面は色っぽい。

 ハラスメント行為はやめましょう、という昨今の風潮に、自らの意地悪な気持ちを封じられたように感じて「つまらない」と思う人もいるようですね。
 でも、ハラスメントをやめたって、意地悪な気持ちを満たす方法はあるし(どうやるかは頭の使いどころです)、登場人物の強引さや破天荒さがなくったって、笑えて色気のある表現はできるわけです。
 上品に下心を満たす、とでも言いましょうか。この巧みさが、このマンガが今ウケている理由のひとつなのかなと思います。というかその点が好きなんです、私が。

 読み返してたらピザ食べたくなっちゃった。

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