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第九会議室『群青の余生 筒井透子作品集』

「私は元来、嫉妬深いのです」

『群青の余生』30p 

(文字数:約1800文字)



第九会議室さんと書籍情報

  文学フリマ大阪の出店者目録の中から、
  第九、に何か意味があるのかと、
  気になってピックアップしたものの、
  単純に活動場所の名称そのまんまだった。

  サークル全員分のアンソロジーが、
  最もオススメ商品だったようだけれども、
  手持ちの予算に対して、
  他にもどれだけ買う事になるか分からなかったので、
  店員として顔も合わせた方の個人作品集を購入。  

絵柄にもほっこり

  『群青の余生 筒井透子作品集』
    著者   筒井透子
    発行日  2023年9月
    A6版 147ページ

  中・短編が四作品。


嫉妬はこの場合において健全だ

  正直に申しましてワタクシ、嫉妬しております。

  小説とはかくあるべし。
  これでこそ読みやすく、
  読者からも好まれやすく、
  読後に爽やかな感動をもたらしてくれると、
  読者感覚では理解できるものを、
  なぜ私はそこにたどりつけない。

  人生と人間性がそもそも異なるからだ。
  やむなし。

  以下、四作品それぞれに感想。


『群青の余生』

  私だったら主要人物二人のうち、
  どちらかを中心に据えて、
  もう片方の思考は会話での把握か、
  推測にとどめるけれども、

  二人物のその時その場での、
  思考の流れを書き表したかったのでしょうから、
  特に構いませんな。

  多少歴史好きだったら知っている事件、
  の謎に迫った割にはそれほど、
  目新しいものは表れず……、
  しかし主題は実はそこにはありませんので、
  問題ありませんな。

  若干の表記ゆれがもったいない。
  (たとえば表情に使うほころぶ、は、
   常にひらがなの方が読みやすい。)

  滅多に感情を出さない人が怒る時や、
  沈黙に効果がある場合は、
  地の文の配置を工夫して間を感じさせたい。
  (たとえば41p珍しく大きな声を出した。
   はセリフの後が良いし、
   64pずっと黙っていたが、手を止めて……、
   はセリフの前が良い。)

  歴史上の人物を登場させる場合には、
  たとえ周囲の人間は創作であったとしても、
  そうした人物を思いつくために、
  参考にした文献は巻末に提示した方が、
  小説家としての信頼度が高まる。

  ええ。私は重箱の隅をつついていますが、
  重箱の隅くらいしかつつく所が無いわけです。


『饒舌な喪失』

  筆者の最も得意分野じゃないだろうか。
  少々変わった内容だけれど、
  すんなり読み進め切れる。

  私はおそらく作中の、
  「作家」のような感覚で生きているので、

  惜しむらくは女性であり、
  「作家」の男性的感覚は分からず、
  「作家」の父親の、父としてのありようも、
  正直どうかとは思うのだけども、

  こうしたものが「作家」を形作る事は疑いない。

  それだけに最後に明かされる主人公への評価は、
  たったひと言だけれども重みがあるだろう。

  強いて言うなら、
  「珈琲」を漢字表記で思考する女性には、
  コーヒーに明確な好みがあって欲しかった。
  特に好みが無ければ「コーヒー」表記で。


『世界の終わりとペンギンたち』

  これが初めて書いた小説だって言うんだよ……。

  コンテストの最終選考まで残った作品との事で、
  生まれ持っての才能の違いか?と、
  こちらが落胆させられるんだよ。

  同じコンテストに私も毎年投稿しているが、
  箸にも棒にもかからず仕舞いなんだよ。

  何がすごいかってまず破綻が無い。
  設定とかリアリティとかより以上に、
  登場人物それぞれの色合いに。

  「リコの彼」はまた違う人格なんだろう、
  と推測させ切れるまでに安定している。

  ここかな。私の作品に無いのはな。
  (勝手に自分と引き比べるな。)


『磁力の気配』

  最も短い。普通に面白い。
  あとがきで「ツッコミどころ満載」と、
  自己評価されてますけども、
  どこを指しての評価なのかさっぱり分からない。

 新海さんの気配がない時も、新海さんの気配はあった。

『磁力の気配』144p

  という、
  一見ワケの分からない文章から始まる、
  一連の段落の味わいときたら、

  有り得ない設定の中にも、
  その当事者であれば有り得るだろう、
  リアリティがたまらないよ。


  総じて、面白かったです。

  後はこの身の内に巣食う嫉妬を如何にしよう。

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