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ホストとホステス本来の意味

 実は今週月曜からの話は、
 この話題に繋げるためのものだった。

(文字数:約2200文字)



偏光、ホステスになる

  お義父様の一周忌に際して、
  配偶者から言い渡された。

  「ゆきこさん、
   あなたは今日は、ホステスです」

  九州は過疎地域出身で、
  軽度だが深刻な統合失調症である私は、
  大変に驚いた。

  「ホステス、とは?」
  「本来の、歓待役という意味での、ホステスです。
   我が家の主人として御住職のお接待をお願いします。
   他の事を考える必要はありません」

  「ええええええ!」
  意味は理解できたが感覚が追いつかない。
  歓待役、はともかく主人?
  主人、とな?

  「嫁として台所で立ち働きつつ、
   あなたのお母様に妹さん一家にも、
   気を配り礼儀を尽くさなければならないものと」
  「それは母に妹に叔母さん達がやってくれます!」

  「家長から順に席次や食事を出す順番にも気を配り、
   もちろん新参者の嫁が完璧にこなせるわけがないから、
   御住職の前でも叱責されなければならないものと!」
  「お客様の気分を悪くさせてどうする!」

  「お客様は今日一日しか関わらない人ですから、
   人生を無難に過ごすためにはまず家の中での力関係が!」
  「ごめん。貴方の実家の感覚、
   ちょっと俺らには考えられへん!」

  実際のところ冷静に考えてみたら、
  PL教徒がメインで仏教には関わりが薄い一家の中で、
  御住職が教師を務める御詠歌教室にも通ってきた私は、
  今や長く檀家である分敬意が根強い叔母さん達よりも、
  御住職と気安く話せちゃう♪

  「正直に言って僕の家族も叔母さん達もその方が有難い。
   御住職にとっても貴方がそばにいる方が気楽でしょう」
  それでもって確かにお母様からも叔母さん達からも、
  怒られるどころか笑顔でお礼言われたし。

近畿の商売気

  お客様が何より大事、

  という感覚が配偶者一族には当たり前のものだとしても、
  私には実に新鮮で胸を打たれたわけだ。

  しかも重要事項として更に申し渡された。
  「お客様が居心地良くある事が重要なので、
   気を遣っている事にすら気付かせてはならないんです。
   つまり、堂々としていなさい」

  配偶者は割と日頃から言ってくるのだが、
  PL教団で集会があった際に、
  いつもの手順を間違えた教会長がいたが、
  堂々としてさえいれば誰も間違いには気付かず、
  粛々と集会は進むものだと、

  周りの人々を不安がらせないためには、
  威厳も確かに役に立つのだと。

  「もちろん、嘘はダメですけどね」
  「嘘だと認識してしまえば嘘をついた自覚に負けるからな」
  「その通り。嘘ではない程度にハッタリを効かせるんです」

  ハッタリだったら割と得意、というか、
  プログラマーだった頃は
  プロジェクトが組まれる度に面接があるので、
  正直一般的に求められる能力はそれほど高くなかったから、
  得意な点を強調して主張してきたので、

  これを今後に応用すれば、
  「最先端、かつ売れる小説が書けます!
   などとは決して口にしてはならないが、

   刺さる人には突き刺さって生涯抜けない話が書けます!
   とは言えるわけだな」
  「それが言えると思える方が正直すごいと思いますよ(汗」

  「ところでじゃあ『いつまでもお客様気分でいるな!』
   みたいな説教どう思う?」
  「何それ。聞いた事もあれへんし今聞いても意味分かれへん」

九州の安住

  九州、全域とは思わないが私の故郷では、
  それぞれの家の家長こそが何より大事であった。

  家長が威厳を保っていれば、
  家族はなめられずに済む。
  しかし初めからなめられている家長の家に生まれついた者は、
  集落を出ない限り生涯見下され続ける、
  という恐ろしさも存在する。

  檀家となっている寺の御住職であっても、
  同じ集落内に居住する以上は「お客様」ではなかった。

  「お客様」ははるばる遠くからいらっしゃる、
  一生に一度でも迎え入れるか分からない、
  しかしいらしたならば集落を挙げて歓待し、
  滞在中の妻まで差し出すべき存在だ。

  見下された家、
  に娘がいて尚且つ容色が良ければ、
  それに当てられる場合もある。

  子が出来ればむしろ浮かばれるのだ。
  あまりにも稀な旅人は集落にとって神も同然であり、
  「神の子」を宿したとして大事にされる。

  人前でも嫁を叱ってみせるのも、
  「うちは嫁をしっかり躾けてますよ」アピールであり、
  子を産み台所を任せたならば、
  家内で権勢を振るう者として、

  ……保証されているからであれば良かったのだが。

  長年を同一集団内だけで申し送る内に形骸化し、
  単純に嫁を疲弊させるだけになってしまい、
  結果過疎化の一途をたどってしまっている気がする。

  「お客様」や「歓待役」といった、
  語句一つですら意味合いは、
  土地によって習慣によって大きく異なるものだ。
  外来語になれば尚更ニュアンスは異なる。

  つまり全国区に通用する小説を書く事は、
  地方出身者にとってかなりの難儀だ。
  しかしそれは冷静に考えてみると、
  小説家として必須の能力だろうか?

  津島修司くん(太宰治本名)は堂々と、
  シジミの肉を食ったって良かったのではないか?
  だってそれまでは普通に食していたのだもの。

以上
ここまでを読んで下さり有難うございます。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!