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先祖の泣き声が聞こえる

 旧正御影供の御逮夜は、
 19時から始まるのだが、
 私は事情があって18時から参加したい、

 と言う希望を伝えて申し訳ないが、
 夕食の時間を17時半からに早めてもらった。
 (余談だがプログラマー系の人間には大抵、
  24時間表記を厳守する感覚が身に染み付いている。)

 宿坊の食事はもちろん精進料理である。

 肉や魚を一切使わない料理、
 というわけで、
 意外に思われるが(私も最初聞いた時は思ったが)、
 パスタや中華も可能だ。
 もちろんカレーも問題無い。


 今回のメニューも記録してある。
   夕ご飯:おひつにお茶碗3杯分
     ・タケノコのお吸い物
     ・ごま豆腐
     ・お漬物2種(しそ、沢庵)
     ・レンコンと枝豆の梅肉あえ
     ・煮物(高野豆腐、椎茸、タケノコ、里芋)
     ・がんもどき椀(味染み抜群)
     ・天ぷら(舞茸、ナス、ピーマン、不明だが旨い)
     ・キュウリと春雨の酢の物
     ・焼き物(豆腐、トマト、豆、椎茸、
          謎だけど旨い何か)
     (お茶は食後にお茶碗に注ぐ。)

 食べている間に御住職が、
 挨拶と、
 「どうぞお箸は止めずに食べながら」という前置きで、
 お話を聞かせて下さる。


 「この膳は振舞と書いて「ふれまい」と呼ぶ膳で、
  かつて高野山で修行する僧侶は、
  僧侶的な進級試験に合格した際の、
  一生に二回くらいしか味わう事の出来なかった料理ですが、

  現代感覚ではいかにも質素で、
  申し訳ありません」


 いえいえ御住職。
 仏教的な神通力をもってして、
 お見せ出来ますればどんなに良いか。

 先ほどから目には見えない私の先祖たちが、
 御住職に、
 給仕に来てくださる職員さんに、
 調理場と思われる方向に、
 泣きながら畳に額を擦り付けんばかりに、
 平伏しております。

 ーー ありがとうございます!
    ぉありがとうございますっ!
    この程度の田舎娘にこのようなっ、
    結構尽くしの御料理をっ!

 聞こえる。聞こえるんだ。私の耳には。
 三百年に渡って食糧には恵まれなかった先祖たちの、
 妬みもこもった喜びの泣き叫びが。

 ーー おのれはもっとゆっくりとぉ!
    五臓六腑に染み渡るようにぃ!
    味わいつつ噛み締めながら食わんかい!

 私とて可能な限りはそうしたいので、
 哀しみも感じながらではあるんだが、
 18時に間に合わせるのはもう諦めたとは言え、
 それでもなるべく数分程度の遅れで、
 大伽藍に向かいたいので。

 ーー 急ぎ気味に食べても30分以上はかかる、
    品数に量の食膳など、
    我々は、生前の一度たりとも、
    振舞われてなどいないからなぁ!(怨)

 本当だよ。涙が出そうだぜ。

 せめて食べ終えた食膳に、
 蛙のごとく深々と頭を下げて、
 食事場所を辞したのであった。
    注意:私は満足し倒したけれども、
       以前夫婦で別の宿坊に泊まった時の配偶者は、
       夜中に腹が減ってたまらなかったそうなので、

       体格の良い男性の場合は、
       おにぎり二つ三つくらい買っておいた方が良い。


 余談でありしかも、
 誰かに確かめたわけではない個人的な決断ですが、

   足しびれてご飯が味わえないくらいなら、
   無理に正座続けなくたっていいよ多分。

 足腰痛めてる人なら椅子出してもらえるし、
 子供は足伸びきってないし膝関節弱いし、
 お膳乗せた台なんて畳から約15cmの高さしかないから、
 正座だともも位置が上がる分食べにくいよ。

 僧侶はもちろん修行の身だから礼儀作法あるけれども、
 僧侶でなければ女性であってもアグラ座りで良いんじゃね?
 (横座りは腰を痛めるのであまり勧め切れない。)

ちなみに朝食も記録していました。
 朝ご飯:おひつにお茶碗3杯分
     ・豆腐とわかめの味噌汁
     ・お漬物2種(キュウリ、塩昆布、梅干し)
     ・海苔
     ・ほうれん草のおひたし
     ・キンピラゴボウ
     ・湯呑みでお茶

 私の食事場所の傍らには、
 今にも開きそうなピンク色のツボミと、
 紫の小さな花2輪が活けてありました。

 あら素敵。しかも宿泊客に花の色や種類合わせてある。


高野山の旅まとめ

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