見出し画像

お掃除おばちゃんゴム長靴

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 Pixivで公開してきた小説以外の文章を、
 noteに移して行きます。

(文字数:約1700文字)


 13対10の法則、

 と勝手に名付けて自らを慰めている現象がある。

 例えば掃除1回に付き、
 取り除けるクモの巣の数を10とした場合、
 大抵目に付かない所のクモの巣3は取り逃している。

 「困るんですよ。お玄関でしょう?
  言ってしまえばこのアパートの顔じゃありませんか。
  お顔にクモの巣なんて、
  貼り付けながら歩いてらっしゃる方います?
  あなた見た事ございます?」

 その3つのうち1つがアパート内でも格別に、
 うるさがたの奥さんに見付かってしまうと、
 まぁえらいこと面倒くさい。

 こっちだって何もサボっているわけではなく、
 光の当たり加減によっては、
 見えへんような時もあるっちゅうねん。

 なんて腹の内をそのまま出すわけにもいかないので、

 「ええ。すみません。
  そうですよねぇ玄関ですからねぇ。
  今からちょっと行ってすぐ取りますんで」
 「まぁ次の時でよろしいのに。ご苦労様。
  そう言えばあなたお二階の奥様、分かります?
  私あの方得意じゃなくって」

 要は苦情にかこつけておしゃべりをしたいわけだ。
 (それにしてもこの奥さんの喋り方は妙にクセがあって、
  面白いから脳内の箱にストックしておこう)
 などと思いながら頷きつつも、

 次の時でええってなぁ。クモは毎晩巣を張るねんで。

 とも内心でぼやいている。

 正直今日取り逃したものか、
 取った後に張られたものか、
 なんて見分けも付かない。

 時給をもらえる正式な掃除時間は正味な話、
 一棟あたり一時間なもんで、
 初めから追い付くはずもない。

 それに敵はクモとクモの巣だけではない。
 ガ、アリ、ムカデ、イモムシ、
 カナブン、ジバチ、カメムシ、バッタ、
 恐怖の大王ゴキブリ。

 さすがにお掃除装備程度では対応不可能、
 撤去を頼んだスズメバチ。

 あと名前も分からん調べたくもない、
 何か様々にあちこちおる虫。
 赤くてちっちゃい奴だったり、
 じみじみのたうってる黒いのだったり。

 こちらとて無益な殺生は避けたいので、
 よっぽど見ただけで気色が悪くない限りは、
 逃がす事も視野に入れて検討するが、

 ゴキブリは……!

 殺さねばならないとされており、
 奥さんがたも平気で「取って」と頼んでくる。
 私とて見ただけで硬直し叫び出しそうになるんだが、
 掃除仲間のおばちゃんもう一人にばかり、
 駆虫させてもおられんので、

 誰もいなきゃあやれるんだが、
 誰かがいたら絶対イヤってのは、
 わりかしこの世の真理だな。

 そうしたら先日は逃がしてあげようと、
 ホウキでさっと払うつもりでいた羽虫さんを、
 ゴキブリの強さでぶつけてしまって、
 即座に絶命させてしまった。

 ごめんなさい。
 しかもああなんて悪い角度で当たってしまったの。
 床にびっしゃげて己の罪を見せ付けられているようよ。

 しかしながら晩秋から秋にかけて、
 虫界で何よりも気が滅入るのは、
 クモたまごだ。

 これも見付け次第取らなければならないと、
 されているのだが正直に言って、
 中に親らしき黒い生き物が入っていたり、

 天井の隅にへばりついてそう簡単には取れないんだが、
 懸命にこそげ落とすうちに、
 潰れた中身が薄赤く広がって、
 大変に心が痛む。

 「クモは祟るよ」
 なんて聞かされたりもしている世代なもんで、
 しっかりと背筋も凍る。

 うー、
 と胸苦しく感じながらひょい、
 と目を上げた先に、

 また別のクモたまごを見つけると、

 み、見なかった事に……、
 となってしまう。

 サボっているわけではないぞっ。
 別の階を掃除しているおばちゃん仲間と、
 大体の足並みを揃えなくちゃいけないからなっ。

 あと単純にキャパオーバーだ今日はもう、ひい、ふう……、
 10個ほどのクモたまごを処理したから、
 これ以上はもう神経がイヤ。

 サボっているつもりはないが、

 世の中のあちこちで、
 こうしたキャパオーバーはたくさんあって、
 その蓄積であちこちにガタが来るんだなとは思った。

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!