見出し画像

「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」と「途上国の子ども達の笑顔が輝いていた」と話す人たち


ホシノさんは、以前参加した視覚障害に関する研修の話をしている。そのとき、晴眼者がアイマスクをつけて視覚障害を疑似体験したらしいのだが、ホシノさんはそれに対して疑問を呈していた。

アイマスクをすると、いったんは視覚障害者みたいになるじゃない?でも、その研修終わったあとアイマスクを外してみんなが言うんですよ、わあ、見える、見えるって。
見えるってやっぱすごい!みたいなこと。

それを見るとね、あなたはどこかのテレビゲームみたいなことをお遊びでやってんですか、って思いました。

川内 有緒「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」


この話を読みながら思い出したのは、途上国の貧困地区に訪問し「僕らより笑顔が輝いて、豊かだと思った」というエピソードだ。

アイマスクで体験するかのように、途上国を体験した「豊かさ」の話に違和感を覚えるのは、大学時代にフィリピン支援NGOを訪れた時に現地駐在スタッフの方が話した言葉があるからだ。

「笑顔は貧困のモノサシにはならないんだよ。日本人とか外国人が来るというのは非日常なんだ。楽しいから笑う。

でも、ゴミ山のコミュニティの中で、ささいな傷や病気で死んだり、教育を受けさせたくても受けされられなかったりする。彼らもそれが辛いと分かっているんだよ。

それに、それは日々の当たり前だ。日常があるから笑うことはできる。
でも、だからといって貧困がないわけじゃないんだよ」


フィリピン・マニラ市・トンド地区スモーキーマウンテンにて(2005年)

視覚障害者の気持ちになるためのアイマスクを付けることがどれほど愚かでバカらしいことか。

突き詰めてしまうと、僕はけんちゃん(注:白鳥さん)の頭の中に入り込めない。
感覚にも入り込めない。
ただ寄り添うだけなんですよ。
このことがどれだけ大事なことか。

視覚障害者の気持ちになれたと思い込む時点でアウトなんですよ!
そのアウトさが世界を覆い尽くしていく。

川内 有緒「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」

「俺は難民支援の仕事をずっとしてきて、難民の気持ちが分かったと思ってた。でもさ、自分が難民になった時に、何も分かってなかったって気づいたんだ」

と、スウェーデンで出逢ったシリア人が僕に教えてくれた。
シリアは元々、難民を受け入れていた国だった。
彼はシリアで難民支援の仕事をして、週末にヨルダンに旅行に行った。
当時は国内旅行に行くような感覚だ。

「危ないから、今は帰ってきたらダメよ」と母に言われて、彼は旅行バッグ一つで出掛けたヨルダンで「難民」になった。
「難民に労働ビザは出せない」と働けずに、エジプトから密航船でイタリアに行き、陸路でスウェーデンまで行ってから難民申請をした。

 

命の危険を冒してたどり着いたスウェーデンだ。だが、
「この国に感謝はしてる。けれど、シリアのシンプルな暮らしがなんて満たされていたか、って思うんだ。

毎朝起きるたびに『ひょっとしてただの悪夢だったのかも』と思うんだけど、家族のいるシリアの家のベッドではなく、狭い監獄のようなワンルームで目が覚める。

シリアに帰るか、シリアのパスポートでも行くことができるスーダンに行くか考えてる」
と心を吐露した。


ギリシャに向かう港があるトルコ・イズミールにて(2015年)


トルコでシリア難民支援の活動する日本のNGO駐在員の方も「俺達はね、シリア人の気持ちにはなれないんだよ」と話していた。

感情移入をした気分になって凹んでる間に活動を止めてしまうのではなく、途切れなくより良い活動をすることが「現場にいる俺たちの仕事だ」と。

「どうあがいたって、シリアの人たちの気持ちになるなんて不可能なんだよ」

僕らはほかの誰にもなれない。
ほかのひとの気持ちになんかなれないんですよ!
なれないのに、なろうと思ってる気持ちの浅はかさだけがうすーく滑ってる、そういう社会なんですよ、いまの社会は。
だから気持ち悪いの!

だから、俺たちは、むしろ進んで、いい加減に、わあああって言いたいんですよ。
この世界で、笑いたいんですよ。

(著者が白鳥さんと一緒に作品を見続けてきたのは)作品がよく見えるとか、発見があるとか、目が見えないひとの感覚や頭の中を想像したいからではなかった。
ただ一緒にいて、笑っていられればそれでよかった。

川内 有緒「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」

 

そう言えば、僕は「シリアの人たちの気持ちになって考えてください」と訴えたことはなかった。

そもそも「できない」ことでもあるのだけれど、「他の人の痛みを、代わりに報復しようとする」危険性を本能的に嗅ぎ取ったからかもしれない。テロ組織が、誰かの痛みに感情移入をさせることで、他国からテロリストとして中東に人を送り込んでいたのだから。

僕たちは「ほかのひとの気持ちになんかなれない」。
だから「ただ一緒にいて、笑って」いたいのだ。


「シリアをまた行きたい国にする」という団体のビジョンには、そんな想いを込もっているなぁ、と、「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」を読んでいるうちに感じました。



読んでいる方が「面白い!」と思ってもらえるような形で、私たち国際協力夫婦らしい形でサポートを使わせて頂きます。めぐりめぐって、きっと世界がHappyになるような形になるように!