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やっぱり 中上健次だね

「やっぱり 中上健次だね」
新宮市の丹鶴ホールで開催された黒田征太郎さんと中上紀さんのトークイベントに行く。

このイベントのことは、偶然知った。
先月アサエちゃんと西村伊作記念館に行ったとき、そこに置いていたチラシで知った。新宮には滅多に行かない。西村伊作記念館も目掛けて行ったわけではなく、お茶をしたあとぶらぶらと、そういやこの辺歩いたことないねえ、へえ面白い、とただ歩いていたら、何だあの建物は!西村伊作記念館ちゃう?とふたりでキャンとなって入ったのだった(入った後はトキメキまくりだった、この日のこともそのうち書いておきたい)。

荒尾成文堂の入り口に貼られていたチラシ

チラシを見て、行きたい、けど仕事やし無理かなと思いながら、行きたーい!とだけツイートしたら、まさかの中上紀さんご本人が(ほんとうにご本人?)、「ぜひぜひいらしてください」とコメントをくださる。なんてこった。恐れ多すぎる、ははあ、行かせていただきますと頭を下げた。

新宮市は隣の市とはいえ文化も町のにおいも違う。和歌山の比較的大きな市の中でも異質な感じがする。大きなジャスコが和歌山で最初にできたは新宮。

外はむわんと蒸し暑い。

荒尾成文堂

荒尾成文堂に寄る。薄暗く空気がこもっていて棚はガランとしている。何の違和感もなく中上健次コーナーを楽しんでいたら、店員さんが、ものが少なくてすみませんと申し訳なさそうに話しかけてきた。立ち退きで間もなく移転するとのこと。中上健次コーナーのコーナー、棚と棚と間にできた部屋の角に熊野大学か何かの資料や、関連記事のコピーなど、だいたいA4サイズの紙が積まれている。ごちゃっと50センチくらいの高さ。くれんかな。よほど聞こうお思ったがやめた、くれそうやけど。

中上健次コーナー

背表紙がすっかり色褪せた「すばる」2017年1月号と「TRIPPER」最新号(友人が書いた書評が載っている)を買う。3月に5店舗回ってもどこにもなかった「TRIPPER」がここにあった。さすが新宮。


文芸誌の品揃え和歌山一

会場に着くとすでに人であふれていた。スタッフも多い。最前列の真ん中がぽっかり空いている。遠慮なく座らせていただきます。黒田さんが描いた金屏風がなんともゆかいで、ゆかいなのになんか泣きそう、もう胸いっぱい。

隣りの隣りの席に座っていた新宮市教育長の挨拶の後、中上紀さん、黒田さんの順に登場。黒田さん、「こんにちは!これ、一升瓶、こっちは絵の具入ってますねん、ほんまでっせ。」と黒い袋を見せながら席に着く。 

話は、紀さんがツイートしていた「新宮に来てから起きた二つの不思議なこと」の話から始まり、黒田さんにバトンタッチ。

東京駅を出てから書き始めたノートを「見せましょかあ」とにやにやA5くらいのノートをでんっと開き「中上!」と叫ぶ。ページをめくり「中上!」、まためくり「中上!」。そこに書かれていたのはページいっぱいの大きさの『中上』。掴みはオッケイ、お話が上手い!

黒田さんの中上さんとのエピソードはどれも面白く、黒田さんの中上さんへの愛が端々に溢れていて、ふたりのこと、ふたりの周りの人たちのことがどんどん好きになっていく。都はるみさんとの話が出たのがうれしかった。「はるみちゃん」の話は本に載ってる対談の中で一番好き。

黒田さんが中上さんの優しさについて語る。

自然への優しさ、光に、風に感謝、水に対する尊敬。そうした優しさは彼が一生懸命生きているから、ひょいと出てきたものなのだと。
「中上の原稿は、小さくて可愛い丸い文字がぎっしり詰まっている。私にはそれが絵に見えた。空間が浮かび上がる。その空間を色で埋めて絵にしたい。」

それは、中上さんからいろいろ教わり、絵、もしくは絵のようなもので返してきたという黒田さんが、ずっとしたいと思っていたこと。中上さんが生きているうちには叶わなかったこと。

そして突然始まった。

音楽がかかる。新井英一さんの「リキに捧ぐ」。黒田さんが、沖縄の米兵からもらったという缶の銃弾入れに入れたクレヨンを握る。紀さんが眼鏡をかけ、紙を両手で持ち、黒田さんを横目で見る。黒田さんが原稿をゴゴゴゴとクレヨンで塗りつぶし始め、紀さんが
「電話。」
と『電話』という短編小説の朗読を始めた。それは父親と電話している話だった。もうこんなんあかんてあかんて、こらえきれず泣いた。黒田さんがゴゴゴゴと描く音は力強く音楽みたいだ。紀さんがハワイのくすんだ青い壁紙の部屋で、中上さんが雨の日の暗い新宿の小さなアパートで電話をしている姿が見える。『電話』が終わる前に黒田さんが絵を描きあげる。中上さんの原稿用紙に見えたものは可愛らしい鳥だった。描き終えた黒田さんは、

「絵は一人で描くもんじゃないんです。」と言った。
「殺し合いをやめて、歌のがなり合い、絵の具のかけあいをすればいいんです。」

トークショーが終わってもふたりはまだそこにいて、記者らしき人や顔見知りのファンのような人に囲まれている。
わたしもあわよくば(?)サインをしてもらおうと思い、左腕にぶら下げた手提げの中の『牛王』を手提げに入れたまんま右手で掴みしばらくうろうろしたが勇気と時間がなくやめた。

会場を出るとわたしのすぐ後に出た男性ふたり組のひとりが、「イメージとちがったなあ。」「イメージちがったわ、顔は似てたけど。」と言っていた。

サインをもらわなかった『牛王』ファミマ前




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