シリーズ ケアと読書 本田由紀著『教育は何を評価してきたのか』後編
生きづらさは何故感じるのか。それはどこから来るのか。社会とも関係があるのか。
ここでは、対話コミュニティ「helpwell」の運営に携わる私こだまっちが、ケア、対話、福祉、教育といった要素と社会を繋ぐ本について感想を書いていきます。本記事は後編で、中編は以下のリンクからお読みください。
シリーズ ケアと読書 本田由紀著『教育は何を評価してきたのか』中編|helpwell [公式] (note.com)
本記事では、本田由紀著『教育は何を評価してきたのか』の中から、「日本の学生は能力が高いのに生きづらく、経済社会も活性化しない」状況を変えるべく、本田氏の対案に触れた後、私自身の本書への課題感や関連資料の紹介をしていきます。
(1)息苦しい社会への対案(教育制度を中心に)
中編まで、本田氏の教育を中心とした制度、言説、そしてそこから生まれる「生きづらさ」の歴史と現状を紹介してきました。本田氏は最後に、自身が推奨する「水平的多様化」の考えを元に、対案を提示します。それは以下の内容です。
①高校の多様化
・高校のカリキュラムを地域や社会の産業構造、現状に合わせる。
・各高校共通の科目を確保する一方、高校の特色ごとの専門科目も幅広くで
きるよう配慮する。
・入試科目も専門領域に即して具体化する。
②大学の多様化
・高校での専門を尊重して選抜する。
・大学間での単位互換ができるようにする。(国内外の大学との連携を深く
することで、大学名では無く、より学んだ分野、内容が重視されるように
する)
③就職の改革
・就職活動は必要な専門性、分野、スキルと学校で学んできたことの合致で
採用する。(ジョブ型への移行)
④教育全般
・学年を廃止し、流動化、多元化する。
・校則は最低限のものに留める。
・部活の強制を無しにして、部活を地域と密接化する。
以上の①~④は、政治や教育の場での意思決定能力があればすぐにできそうなものも、より具体化、試行錯誤が必要なものもありますが、生徒各々の個性に合わせた生き方や力の発揮を尊重でき、更に社会や産業の発展にも結び付いていくような案に感じます。
(2)本書から感じた課題
最後に、本書に対して感じた課題を以下に並べてみます。
・「ブラック校則」の成り立ちを詳しく記述してほしかった。(90年代から
の歴史修正主義運動や道徳の教科化と直接関わるところはあるのか等)
・「戦前化」とすら言えそうな教育の画一化と、個性重視の方針が並行して
進められた結果、どのような矛盾や葛藤が生じたか、具体的な記述が欲し
かった。
(私の推測としては、
①経済環境や家庭環境が良く、一定以上の学力水準がある子供だけは個
性を伸ばしやすい
②画一性のもと視野が狭まったが、狭い範囲の中では色々な個性があり、
一見個性重視に見える
③「批判すること」「より良い価値を追求すること」が避けられ、あらゆ
るものを無理に個性として「尊重」するようになった
以上のように考えます)
(3)関連書籍及び映像
①日本社会のしくみ | 現代新書 | 講談社 (gendai.media)
本田氏の書籍でも触れられていた本で、分かるようで分かりにくい日本の
雇用制度について詳しく論じています。「能力」に縛られた社会でありな
がら、「能力」についての確固たる社会的合意が無いということが分かり
ます。
②崩壊するアメリカの公教育 - 岩波書店 (iwanami.co.jp)
市場化による能力主義と政府の強権化に覆われた米国の教育の現状につい
て論じています。日本の現状とも共通点を見出せるかもしれません。
③映画「教育と愛国」公式WEBサイト (mbs.jp)
1990年代以降の、「新しい歴史教科書を作る会」設立から教科書への政府
の介入までを描くドキュメンタリーです。本田氏の書籍に出てくる画一化
の一側面とも言えそうです。
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