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几帳面な

几帳面な殺人者がおりました。
人を殺す度に事細かに日記を丁寧に書くのです。
彼はその仕事(報酬が発生するわけではありませんが、彼は仕事だと思っています)にはいつも同じナイフを使い、刺した時刻や、ナイフの角度、何センチ刺さったか、血の滴り方や、量まで、文字と精密な絵で、それを読めば全く同じに再現できるぐらいまで丁寧に書きこみます。
窓から入ってきた春一番がノートの上を過ぎると、文字が少しめくれました。浮いた箇所を爪でかりかりとこすります。すると、一文字づつ剥がれていき、空中に浮かぶとふわふわと漂って消えてしまいます。
殺人者が面白がってすべての文字を剥がしてしまうと、殺人者はどこにもおらず、春でもなく、夏でもなく、秋でもなく、冬でもありません。空っぽになった部屋には、優しい風と、恐ろしい絵が書かれたノートだけが残っていました。

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