4歳の頃、将来はヒグラシになりたいと思っていた話。<後編>
2023年1月18日(水)
前編はこちら
https://note.com/hekate_/n/n275ec91998f9
ヒグラシが鳴き始めると、書斎から水遊びを見守っていた祖父が
プールからあがるように声をかける。
プールから出た直後、水によって失われていた肉体の重さと体温が
世界と私の境界線をぼんやりと浮かび上がらせる。
バスタオルで濡れた体を拭くと、それは明確になり
服を着る頃には世界の中に存在する個として輪郭が完全に意識できるようになる。
客間に戻り、祖母からアイスキャンディーを受け取る。
実家では視聴を禁止されていたテレビを見ながらアイスキャンディーをかじる。
しばらくすると、私を堅苦しい家に連れて帰るために母か使用人が迎えにくる。
帰りたくない気持ちが爆発した私は、客間の柱にしがみつきヒグラシの真似をして迎えに来た人を困らせた。
そのような夏を祖父が亡くなるまで繰り返しすごしていたからか
ある夏の日の帰り道、母に将来の夢について聞かれた際に答えた言葉は
「将来はヒグラシになって、おじい様とおばあ様の家の木に住みたいです。」であった。
今でもこの話は、親族間の笑い話として語られている。
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