アバディーン大学図書館

4月13日。どうせすることもないしアバディーン大学の図書館に出向くことにした。改めて僕が今住んでいる寮はアバディーン大学生にとって絶好の立地だと感じた。寮の場所自体は人通りが少なく1人の時間を楽しめるのだが、車道を北に進みベッドフォールド通りに入ると巨大な駐車場を併設したマクドナルドや大型スーパーで買い物を楽しむこともできる融通のきいた街だ。

大学への一本道になると、周りを行き交うのは全員アバディーン大学の学生になっていった。土曜日の昼間から多くの学生が勉強をしに大学へ登校している。アバディーンの中心街、ユニオンストリートではビジネスマンや老人、移民がほとんどで、日頃から若者を見ることに慣れていなかった僕は、同い年の学生がこんなにも存在していることに感動を覚えた。

ああ、海外の規模の大きさを目の当たりにする感覚はヒースローぶりだろうか。それは図書館というよりは近未来の宇宙船というほうがうなづける。青々とした人工芝の上にどすんと建てられた水色ガラス張りの立方体。あまりにも立方体なものだから入り口なんていう概念は存在しないのではないだろうかと疑ってしまうほどだ。空と大地とガラスの図書館。

正面玄関にはテーマパークの出入り口にあるようなゲートがあった。スタッフがゲートの内側で事務的な対応に追われている。僕には聞かねばならないことがある。

「すみません。ここは部外者でも入ることはできるの?」
「ええ、ゲストでも登録さえすれば誰でも利用できるわ。この紙に必要事項を記入してくれる?」
「良かった。ありがとう」
「出る時はそっちのゲートから出ることね。こっちは入口専用だから」
受付の感じの良い女性はそう言ってあっさりと僕をこの図書館の中に招いてくれた。しかしよく考えると海外の大学図書館がここで勉強がしたいと思う部外者を跳ね除けるはずがない。

エレベーターに乗ると後ろから数人の学生が乗り込んできた。僕はデンマーク語についての本を探していた。しかしそれが何階に位置するのかは知らない。1人の学生が降りた適当な階で僕も続いて降りた。とにかく本があればどこでもいいのだ。


まず日本の大学と違うと思ったのがパソコンの多さだ。本とパソコンの数がほとんど同じなのではないかというくらいことあるごとに設置されている。フロアの中央は吹き抜けになっており、有名な美術館のようにエレベーターが交錯していた。

僕は比較的人が少ない席に腰を下ろした。多種多様な人種がこの建物で自習をしているのだ。
僕はとりあえずロンドンで買った小さなノートを開きデンマーク後の日記を書いた。机の空白を抑えるために語学学校の教科書も置いた。
正面に若い女性が座った。外国人の女性をこれほど至近距離で長時間眺めることができる場所はそうないだろう。僕は不自然に思われないように勉強に集中しているフリをし、定期的に正面の女性の顔を見た。女性も僕がここの生徒だと思っているだろう。

三つほど向こうの机で男女が話す声が聞こえた。ある男性が勉強している女性の横で立ち止まり声をかけたようだ。おそらく学部らサークルの友人なのだろう。これほど大きい建物で知り合いに会うのはそう簡単なことではない。
海外の男性はいとも簡単に自然な形で女性に話しかけることができる。僕は彼らの会話を聞き取ろうと必死に耳を済ませていた。彼らは周りの邪魔にならないように最低限の音量で会話をした。


2時間くらい経つともう飽きてしまい僕は図書館を出ることにした。短い時間ではあったが少しでもアバディーン大学の学生に混じることができて満足だった。出口のゲートを開けてもらい外に出るとまた自分がひとりぼっちの部外者に戻った感覚があった。