LiDL,スーパーでの買い物

夜8時というのに空は薄っすらと青いままだった。太陽は完全に沈んでいるのだが、それが結果的に空を暗くするというわけではないのだ。信号や横断歩道はまるで意味をなしていないように見えた。車がほとんど通らないため歩行者はひょいと確認して車道を横切った。それに歩行者用信号の点灯時間が極端に短いのだ。赤の時から待っていた人でないとまず渡れない。

青い正方形の中に黄色い円というキャッチーなロゴで「LiDL 」と書かれたスーパーは夜遅くまでやっているようだった。入り口と出口が分けられており、日本のように同じドアから人が出たり入ったりすることはできない。店内に入ると黒い買い物カゴが並べられていた。取っ手の部分を腰のあたりまで持ち上げることができ、そのカゴ自体を床に這わせて買い物をするという斬新なアイデアだ。天井は高く、白を基調とした店内は工場のような印象だった。入り口から見て右は野菜やパン、パスタや果物、中央がスナックや飲料、奥が肉や魚の冷凍食品、左列は衛生商品やドッグフード、その左奥はピザやポテトの冷凍食品という作りだ。興味深いのが陳腐なパソコンやゲーム機、衣類やレジャー用品といったまずスーパーには売っていないだろうという商品の場所があったことだ。簡易のスマホなんかも置いてはいるが、ここでこんなガラクタを買う人が果たしているのかは疑問である。

僕がまず選んだのは「FRUIT&FIBRE 」というシリアルだ。僕は外国のシリアルに憧れを抱いていたのだ。日本でも朝にグラノーラを食べると幸せな1日を迎えることができる。外国では大量の、種類豊富なシリアルを安価で買い求めることができるため、スーパーに行くとまず買おうと思っていたのだ。次にバナナとスライスされた安いパン、フレンチドレッシング、冷凍の炒飯、牛乳と半ダースの水を買った。パスタとトマトソースもいつかは食べるだろうとカゴに入れた。

シャンプーとボディソープを買う必要がある。売る場に行くと日本でも見たことがあるニベアやパンテーンが意外にも多く置かれていた。パルマーずの安いシャンプーとココナッツの香りがするかなり大きなボディソープをカゴに入れた。

レジの作法が分からず自分の番が来るまでに前に並んでいる人の行動を研究した。どうやら商品をベルトコンベアに乗せ、全て乗せ終わると後ろの人にわかりやすいように「しきり」を置くらしい。僕は急いでシャンプーやらバナナやらを流れ行くベルトコンベアに放り出し新米と思われぬようなれたような手つきでそっとしきりを置いた。レジの仕事は日本よりも簡単で楽そうに見えた。キャッシャーの前に椅子があり座りながら運ばれてきた商品を投げるようにスキャンしては「たまり」に置いていくのだ。この「たまり」に来た商品はスキャン済みなので今度は急いでマイバッグに回収しなければならない。僕は支払いに少し手こずってしまい結果的に後ろの客の商品がたまりに来た時もまだ回収を終えることができなかった。


こうして僕の初めてとなる海外スーパーでの買い物は終わった。非常に興味深い文化である。外を出ると流石に夜の9時となると遅いか、あたりは暗くなっていた。しかし日本でいう真夜中の暗さではなく、薄っすらと白みを残した不完全な夜だ。

帰りは行きと違う道を行くことにしたが、随分遠回りになってしまった。腹は減っているが回り道をする余裕はあったのだ。さあ、今度は共有のキッチンに出向く。