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ショートショート 無頼ママチャリ
中学校の頃、自転車を駐輪場の一番端に停めていた。海辺の、強い風の吹く学校だった。
「杉江先生、ごめんさい!」
帰りは、いの一番に駐輪場に走る。当時の私の自転車は母親のお下がりだった。いわゆるママチャリというやつだ。随分昔に買ったものらしく、車止めが一本足タイプのものだった。すぐに倒れてしまう。
駐輪場に着くといつも社会科の杉江先生が自転車を直していた。園芸部の顧問だ。端に停めたおかげで他の自転車への被害はないものの、結局倒れている。カゴがへこんでぼこぼこだった。
「まるで、無頼の者だな」手でカゴのへこみを直しながら杉江先生が笑う。「足が一本で、頼りどころがない」
二年生の時、新しい自転車を買ってもらった。足が二本のタイプものだ。滅多なことでは倒れなくなった。学校帰りにもちゃんと立っている。杉江先生に迷惑をかけることもなくなった。
「無頼の者」
なぜだろう。今でもあの笑顔を覚えている。頼りにしていたのだ。あの先生を。
ショートショート No.634
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「未来断捨離」。
裏お題は「無頼ママチャリ」です。