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エッセイ 必殺クッキー

 必殺のクッキーが欲しい。
 そう常に考えています。投げると敵を一刀両断する、という物騒なものではなく、いつ作ってもほぼ失敗しない焼き菓子です。
 遠方に住んでいる親戚の子供や、職場の同僚、同僚の家のお子さんなどに送ったり、手土産を持っていったりするのに、自分で作ったお菓子を持っていこうという魂胆。

 「このお菓子はどこどこで紹介されてね…。」「買うのに並んで…。」「ランキングで1位に…。」
 土産のお菓子をいただくたびに繰り返されるこういう会話が、ちょっと、苦手なのです。聞くのも、話すのも。気を遣ってしまう。だったら自分で作って、ちょっと失敗しちゃって…みたいな話をしていた方が気が楽なんです。

 理想の必殺クッキーにはいくつか要件があります。

 まず、材料が高くないこと。特殊な材料がいると、作るのが大変だし、「これを作るのにあれを買いに行って…」みたいな話をしかねません。話したくないこと多すぎですね。ほんとに人とコミュニケーション取る気があるのでしょうか。

 次に、作るのがそれほど大変でないこと。見た目からも、そう大変そうじゃないのがベストですね。いかにも技術いりますよ、というのは敬遠したい。そう、そのことについて話したくないから。

 最後に、もちろん、おいしいこと。

 
 理想の必殺クッキーを求めて、機会があるたびにレシピを試しています。気に入ったのがあれば、繰り返し作ります。同じクッキーを作れば作るほど、うまくなる。多分。

 あと、本屋に寄るたびに「師匠」を物色します。要するに、本です。焼き菓子重視の本。たくさんの人のレシピがのっている本より、1人の著者による本の方が好きです。他の全ての本と同じように、レシピにも、著者の考え方が反映していると思います。それが習えたらいいと思う。

 現在、うちの本棚にあるお菓子の本は「ムラヨシマサユキのクッキー」1冊だけです。師匠は一回に一冊と決めています。本だらけになっちゃうから。買う時に、あるいは買った後で、現在の自分にとって有用な方を1冊だけ残します。

 あまり読まない方には馴染みがないかもしれませんが、焼き菓子の本には段階のようなものがあります。ターゲット層をわけている、というか。本格的にお菓子屋さんみたいなお菓子を作りたい読者向けのものと、お子さんのいる方や、まだお菓子作りに慣れていない方向けのもの(普通の料理本にもありますね)。私は断然、後者に属します。けれど前者の本の方が本のビジュアルが良いケースが多い。本好きとしては悩みどころです。

 お菓子に関しては、買ってレシピを試す前にどちらの層向けのものかわかる事柄があって、それは卵の分量です。
 材料の卵の量が1個単位なら、普通の人向け。グラム単位なら、本格的にやりたい人向け。だと思う、多分。

 「ムラヨシマサユキのクッキー」は、卵をグラム単位で要求してくる本です。「溶き卵2分の1(25g)」とか。残りの半分の卵をどうしろと? というか半分きれいに別れさせるほど溶ききれないのよ、卵。いつも白身がぬるっとどっちかにはみでちゃう。

 私の中の素人部分が全力抗議しながらも、この本を使っているのは、やっぱりレシピがおいしいからだと思います。あと、少し焼き菓子作りに慣れたから。

 初めた当初は意味の分からなかったレシピが、少し『読める』ようになってきたからだと思う。

 例えば、クッキーを作る際、バターの処理がクッキーによって違います。
 バターをゆるませて、砂糖とすりつぶしてクリーム状にしたり、卵と混ぜてマヨネーズ状にしたり、小麦粉とすりつぶしてパン粉状にしたり。
 だんだんわかってきたんですが、処理の仕方によって仕上がりの歯触りが違うんです。あるいはさらさら、あるいはほろほろ、あるいはさくさく。これはこう仕上げたいからこうする、という考え方が朧げながら理解できようになってきました。外国語を習う時に、最初は覚えた単語がばらばらで、道筋が真っ暗だったのが、ある日ほんの少し開けて、単語同士のつながりがわかるような、そんな感じ。

 ゴールデンウィーク中も、お菓子を焼いたりしていました。今回は、新しいレシピです。せっかくだからのせましょうか。どん。

左上に私の本体が写っていてお恥ずかしい。自己主張が強くてすいません。

 「チョコレート生地でマシュマロ包んで焼いたやつ」です。上のほうでがさがさしている四角いのは明治の板チョコレートを刻んだもの。チョコレート生地の食感はしっとり、ほろり。カントリーマアムみたいな歯触りがします。この歯触りと、バターの処理がきっちりつなげて考えられたら、きっともう一段階上手にクッキーが作れるようになるんだと思う。

 道のりは遠そうではありますが、いつか決めたい。必殺クッキー。

エッセイ 003

でてきた本
「ムラヨシマサユキのクッキー 作りたい、贈りたい71レシピ」
 ムラヨシマサユキ 著 西東社

 下の紹介リンクでは「ていねいな解説」となっていますが、前述の通り初心者向けの本ではありません。クッキーを初めて作りたい、ではなく、クッキーを何度も作りたい方向けのレシピ集です。
 著者によって同じ名前の料理でも仕上がりに違いがでるのが単独著者のレシピ本の面白いとろこだな、と思っています。ちゃんと甘くて、でも上品な仕上がりになるレシピです。好きな味です。


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