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ショートショート 見たことがない【ショートショート100|No.98「見たことがない」|613文字】ヒスイさんといっしょ

I want a boyfriend.
(彼氏が欲しいです)
Perfect boy is nowhere.
(完璧な男の子なんていない)

「……ただの欲望じゃん。」
 前の席の明尋がノートを覗き込んできた。あわてて隠す。
「のぞくな! エロス!!」
「呼ぶな! その名を!!」
 明尋の『尋』を上から読むと「ヨ! エロ寸」だ。長いのでみんなエロスって呼んでる。陰で。
「それ、次のスピーチのやつ?」
「そう。次の英語の3分スピーチ。」
「…よく、直前に書くよな。」
「書けなかったんだから仕方がないでしょ!!」
「ほんとに完璧な男の子なんていない?」
「いないよ。少なくとも私は、見たことない。」
「目に見えるものだけが全てじゃないよ?」
「目に見えるものだけが全てよ!」

 明尋がちょっと口を尖らせた。それから私の目を指差して言った。
「心眼って知ってる?」
「何?」
「心の、目。目を閉じて、心で物事を見るんだ。ほら。」
 指を近づけてくる。仕方ない。目を閉じた。

「もういい?」
「まだ。」
「もういい?」
「見えた? なんか?」
「見えるかよ。」
「そう。もういいよ。」

 目を開けた。明尋はもう自分の席に戻って座っていた。背中を向けたまま言った。
「スペル、なおしといた。」
 ノートに目をおとした。”Perfect boy is nowhere.”のところに赤で二重線を引いて、上に書き直しがしてあった。

Perfect boy is now here.
(完璧な男の子はここにいる)


ショートショート No.333

NNさんの企画「100のシリーズ」に参加しています。
今回のお題はNo.44「見たことがない」。小粋でポップなヒスイさんと一緒です。
ヒスイさんの得意分野(私の苦手分野)の恋愛ものにくいこんでみましたがどうでしょう!このあたりまでが猫の全力であります。
ヒスイさんはこちら!

…60万円も他人に貸してはだめです。(猫は許しません)
とはいえ
ばーん!とぶつけてさっぱり前をむいていくのはよいですね!

前回のお題No.44「ゴゴゴゴゴ」
https://note.com/heita3rd/n/n890b6e1c5c81