ショートショート　チャリンチャリン太郎

「そんなことしてるとチャリンチャリン太郎がでるよ」小さい頃祖母によく言われた。それが何かまではわからない。ただ恐ろしげだった。

　妖怪の類だろうか。カッパの川太郎とか。母に聞いてみる。
「神社のお賽銭箱にいたずらすると出るのよ」
　なるほど。お賽銭。それで『チャリンチャリン』。咎める口調だったのもよくわかる。

　神社に行ってみる。いたずらか。軽く蹴ってみる。出ない。まあ、出ないか。賽銭箱に指を突っ込んでみる。
　きゅ。
　中で何かが指を掴んだ。嘘だろ。抜けない。

　チャリンチャリン。

　自転車がベルをならしてとまった。
「チャリンチャリン太郎が来ましたよ」
　巡回中のお巡りさんだ。笑顔で続ける。
「大人は悪戯やめて下さいね」
「お巡りさんが？」
　震えながら言うと、中の何かが指を離した。
「そう。自転車チャリンチャリン太郎」
「じゃあ、今のは？」
「今の？」

「そんなことしてるとチャリンチャリン太郎がでるぞ」
　私も孫ができたら言おう。絶対に。

ショートショート　No.412

たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「チャリンチャリン」「太郎」です。