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ショートショート カフェ4分33秒【#毎週ショートショートnote】

 街の中央の開発地区の少し外れに、ジャズ喫茶『セロニアス』はある。手書き文字の看板を掲げた風格ある二階建ての建物は、新参者のビル達に囲まれて、少し窮屈そうだ。

 年月を重ねた飴色の木の扉を開けると、中は穴蔵のように薄暗い。ひきたてのコーヒーの香り。常連のお客さんが二、三人、ばらばらに席に座って思い思いの時間を過ごしている。

 店の隅に年代物のアップライトピアノが置いてある。蓋は毎朝マスターがあける。日焼けした楽譜をひとつ、譜面台におく。

 昔、友人がいた。音楽家を志していた。いくつかのコンクールで賞をとり、それから食っていけなくて会社に勤めた。夜に、マスターの店でピアノを弾く。それが彼の唯一の楽しみだった。

 交通事故だった。友人のお葬式に参列した次の日も、マスターはいつも通り店を開けた。ピアノの蓋をあけて楽譜をおいた。夜には蓋をしめて繰り返す。今じゃ常連たちはこの店の名前を譜面の名で呼ぶ。

『4分33秒』永遠の全休符。

ショートショート No.646

たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「カフェ4分33秒」です。

たらはさんもご紹介くださっていますが、「4分33秒」はこういう曲です。

(「最高音質」のフックが効いています)

先週のお題は「イライラする挨拶代わり」。小粋でポップなヒスイさんも書いています。

クラシック好きなヒスイさんが今回どうするか、楽しみです。(というプレッシャー)