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【赤い炎とカタリのこびと】#03 クリスマス・イブまでの24日間

※このお話は2023年の12月1日から12月25日まで、毎日更新されるお話のアドベントカレンダーです。スキを押すと、日替わりのお菓子が出ますよ!

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「サンタクロースの服が真っ黒らしい」
「真っ黒ってどういうこと?」
「黒いサンタだ」
「黒いサンタって?」
「そういえば去年……」

 サンタクロースの声に、工場のこびとたちがざわつきました。
「早く持ち場に戻れ!」
 工場長の大声が響いても、全く効果がありません。

「どうしましょう…」
校正のこびとがおろおろと下の工場の様子を眺めていると、こびとの長がポケットから小さな筒を取り出して、にゅうと長く伸ばしました。
「ばれたんなら仕方がないよ。急がなくちゃな。計画とは違ったが、これはこれで好都合だ」
 伸ばした筒の細い方に目を当てて、下の工場を覗き込みます。
「何見てるんです?」
 校正のこびとが聞きました。こびとの長が顔をあげます。
「こういう話を知ってるか? 『船が沈没しかかっているとき、慌てないひとりが、船を沈没させようとしている奴』」
「どういうことです?」
「今、下の工場で、こびとがひとり持ち場から抜け出した。追いかけよう」
 筒をひょい、と素早くたたんでポケットにしまい直すと、大急ぎで二人はおもちゃ工場に向かいました。

「あ。こびと長! サンタの声聞きました?」
「黒い服だって!」
「『ブラックサンタ』ってやつ?」
工場に入るなり、こびとたちが一斉にこびとの長を取り囲みました。
「お前は、先に」
こびとたちに笑顔を向けながら、こびとの長が校正のこびとに工場の奥を指します。校正のこびとは目立たないように、こっそりと工場のこびとたちの間をすり抜けて、工場の奥に進みました。縦横無尽に走るコンベアーに色とりどりのおもちゃの部品が並んでいます。華やかさに目を奪われた矢先に、ばたん、と扉の閉まる音がしました。

 注意深く見回すと、工場の隅にある小さな扉に下げてあるドアプレートが揺れていました。校正のこびとが大急ぎで駆け寄ります。「立ち入り禁止」。プレートに書かれた文字が一瞬見えました。入るなり甘い匂いが鼻をつきます。物置小屋のような小さな部屋にところ狭しとクッキーが並べてありました。どれも縦に長い長方形で、なんだかドアの形に似ていました。いや、それは本当にドアでした。というのも、クッキーの中の一つが実際に「開いて」、向こう側が見えていたのです。

 そこだ。と思った時には校正のこびとはもう中に飛び込んでいました。膝をつき、両手が冷たい床に触れました。
「誰?」
 すぐ近くで声がしました。
「そ、それはこっちのセリフです。あなたこそ誰ですか!」
 校正のこびとが震え声で言いました。
 あははは、と声の主が笑います。
「それもそうか」
 膝と両手をついた校正のこびとのすぐ脇を、声の主が笑いながら通り過ぎて、バタン、とクッキーの扉を閉めました。工場の部屋の明かりが途絶え、途端に中が真っ暗になりました。
「えい」
 鈍い、けれど、さっくりとした音がして、ボロボロと何かが崩れ落ちました。
「なななな何?」
校正のこびとの怯えた声に、あははは、また声の主が笑いました。シュッと摩擦音がして、声の主がマッチの明かりを持って姿を現しました。
「クッキーを、蹴っ飛ばしたの。壊れたらドア使えなくなるんだって」
「なんでそんなこと」
「私、追いかけられてたんでしょ?」
「追いかけてなんていません!」
「本当に?」
「いや、追いかけてましたけど」
「あなた、誰?」
「『校正のこびと』。副こびと長です!」
「そう」
声の主がしゃがんでマッチを隅にあったランプの中に入れました。
「わたしは、『カタリのこびと』。去年入った新人です」
にっこり笑って校正のこびとに右手を差し出しました。

 12月の始めの日のことでした。
 嘘の証明書に書かれた2023年のクリスマスイブまで、あと24日です。

「赤い炎とカタリのこびと」No.03

このおはなしは、12月の1日から25日まで毎日続く、おはなしのアドベントカレンダーです。

目次
01. ラスト・クリスマス・イブ
02. 大あわてのサンタクロース
03. クリスマス・イブまでの24日間