ショートショート サイコの鶏唐
「他に？」
部長が頬杖をつく。額から汗が垂れた。さっさと決めちゃえばとうちわで仰ぎながら和田ちゃんが言った。
「『決めちゃえば』じゃない」
部長が立ち上がる。
「大学祭の出店で目立たねば、映画部の名が廃る」
古いだけの弱小サークルだろ、というのを我慢した。怒らせても面倒なだけだ。たった３人の部員だ。仲良くせねば。立ち上がってホワイトボードを指した。
「結構いい案でたと思うけど。『時計仕掛けのオレンジ』とか」
「誰がみかんを学祭で買うんだよ。みんな唐揚げとかしか食わねえよ」
口を膨らませる。妥協しろよ。わがままなやつ。
「いいこと考えた！」
和田ちゃんが声をあげた。
『サイコの鶏唐』部室の前に看板を掲げた。
「『サイコ』って鶏出てきたっけ？」
学生が通りがかった。カモだ。無理やり中に押しこんで扉を閉めた。
「シャワー室？」
中で学生の声が聞こえる。
「あっつあつの鶏唐だよーん」
和田ちゃんが箸で摘んだ唐揚げを押し付ける。悲鳴が校舎にこだました。
ショートショート No.631
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「最後のマスカラ」。裏お題は「サイコの鶏唐」です。
『サイコ』はどのくらいみんな観たことがあるんでしょうか……。こんな映画です。