商業施設「ミナーラ」の「観光」について考える

 奈良県奈良市の市役所がある新市街にある複合商業施設「ミナーラ」について語っていきたいと思います。この商業施設は「観光型」を名乗っており、ミナーラと観光について個人的に考えた事を述べていきます。

 尚、この記事は「筆者の個人的な考え」をまとめた「感想に近い文章」です。施設運営者様の公式的な考えではありませんのでご了承ください。

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ミナーラの概要

 ミナーラは2018年に開業した複合商業施設で、食品スーパー「ロピア」やアミューズメント施設の「ラウンドワンスタジアム」を核とし、家具雑貨店の「ナフコナフコ TOW-ONE STYLE」、家電量販店の「エディオン」、アパレル小売の「しまむら」に加え、フードコートなどの飲食施設を設けています。

 地上1階から5階(一部6階)建ての建物で、モール型ではありませんが近くに来ると圧迫感もある大きな建物です。平面と立体がある巨大な駐車場を有し自家用車での来店がメインとなっていると考えられます。総合スーパー(GMS)のように見えますが、核テナントがビルの運営をしているものではなく、有名なブランドのテナントが面積を大きく取り入居しており「ロードサイド店舗をビルの中で立体的に揃えた」ような印象です。

ミナーラの建物

 「ミナーラ」は2018年に開業した商業施設ですが建物自体は1989年に開業した百貨店「奈良そごう」の開業にて建築された建物を継承したものです。

 「奈良そごう」は郊外型の百貨店として1989年に開業し、金色のお堂を設置(現在は撤去)するなど内装は豪華絢爛で知られていました。イッツアスモールワールドの時計や回転レストラン(上で述べた6階の部分)もありました。しかし「そごう」全体の不振の影響を受け、2000年に閉店となります。

 その後、同じセブンアンドアイ系列の「イトーヨーカドー」が2003年に出店。総合スーパー(GMS)として再出発をします。奈良中心市街地に最も近いGMSとして親しまれていましたが、末期にはレストラン街が閑散となるなどし、惜しまれつつも2017年に閉店することとなりました。

 そして2018年にこの建物を活用して「ミナーラ」がオープンすることとなります。

ミナーラの立地

 ミナーラは自家用車での来店がメインとなる商業施設です。自動車でのアクセスは大変便利な所にあり、奈良県内を東西南北に貫く幹線道路が交わる場所に立地していることが特徴の、アクセスが「しやすい」「わかりやすい」場所にあると言えます。

 周辺には観光資源が豊富にあることも特徴です。これについては後に詳しく記述します。

 最寄りの新大宮駅からは900mと少し離れている印象ではありますが道中には奈良市内最大の繁華街があり飲食店などが軒を連ねています。また新大宮駅を中心としたエリアはマンションなどの住宅街ではあるもののオフィスが多く立地し奈良市役所もあるなど日中人口も多いことが特徴です。

「観光型」に迫る① 金魚ミュージアム

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 「ミナーラ」の5階に、金魚をアーティスティックな手法で装飾した水槽で展示する「金魚ミュージアム」が入居しています。運営は全国で同様の施設を運営する企業で、2021年にリニューアルした事でも話題となりました。

 そもそも「金魚」は奈良県大和郡山市にて盛んに養殖が行われており主要な産業の名産として地元では認識されています。(金魚ミュージアムで飼育されている金魚が同市産であるという指摘ではない。)よって同施設は、奈良観光の一環のテーマである「和風」、そして旅先での「ご当地」との出会い、アーティスティックな展示を体験する「非日常」が同時に楽しめる施設となっています。

 この手の「都市的」な観光資源については奈良市内に関しては非常に乏しく、また近年話題になっているフォトジェニック=「映え」が撮影できる空間が用意されていることから奈良市内全体の観光資源としても貴重な存在と言えます。

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「観光型」に迫る② 開業当初の様子

 2018年の「ミナーラ」開業当初は「金魚ミュージアム」の隣に「忍者タウン」がありました。(コロナ禍にて休業し、一部が金魚ミュージアムの増床用地として活用されたため運営終了の扱いだと思われる。)施設内では忍者ショーや忍者の修行体験ができるコーナーなどがありました。そもそも「忍者」という存在はインバウンド観光客には非常に人気の存在であり「忍者タウン」はそれにあやかったと言えます。

 ミナーラ内にも家電量販店やドラッグストアなどインバウンド観光客に人気のテナントや大型バス駐車場の整備を行った(いずれも現存)ほか、和風の服装を体験できる店、簡易宿泊施設(いずれも現存せず)がテナントとして入居しており強くインバウンド観光客を意識していたといえるでしょう。

 4階テナントの立地では、忍者タウンの横が家電量販店であり、「忍者の横で家電を売る」というインバウンドの教科書を読んでいるかのような空間であった事は特筆すべきでしょう。開業直前に見たミナーラの広告を見て筆者は「凄いものができる」と感銘を受けたことは強く記憶に残っています。

 尚、その後のコロナ禍やミナーラの運営会社交替に起因するものなのか、上記でかっこ書きしましたが現存しないテナントがあります。

「観光型」に迫る③ 観光資源集積地の形成

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 ミナーラは店舗から徒歩圏内に複数の観光資源が存在しています。

 建物の目の前には特別史跡と特別名勝のダブル指定を受けている日本全国でみても数少ない例である「平城京三条二坊宮跡庭園」(上写真)が、徒歩数分には最大2000人収容可能な「奈良県コンベンションセンター」が、そして高架道を挟んだ反対側にはユネスコ世界文化遺産に指定されている特別史跡「平城宮跡」があります。それらはミナーラを中心に徒歩圏内に揃っており、観光資源集積地を形成しています。

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 「世界遺産平城宮跡の隣に金魚ミュージアムがある」という事実をバネにこれらの地域が一つの「観光エリア」として認識されるようになれば、周辺の観光資源との一体的、連続的な観光をする訪問者がより増えるようになると筆者は考えます。

 尚、平城宮跡については近年積極的な整備が行われており、2018年にはゲートウェイ機能を備えた「朱雀門ひろば」が開業しています。(下写真)

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「観光型」に迫る④ 周辺観光資源の胃袋を支える

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 上のの項目でも触れましたが周辺には観光資源が複数あります。特に最大2000人収容可能な奈良県コンベンションセンターの存在は特筆すべきです。

 奈良県コンベンションセンターは2020年に開業した施設で、イベントなどに活用可能な屋内空間や、屋外での屋根付きスペースがあるMICE施設です。この奈良県コンベンションセンターの敷地内にはコンビニのイートインスペースの他、施設内にあるイベント出店用の飲食施設しかなく、満足にその需要を満たすことができないと考えられます。同時期に整備され隣接するホテル内にも飲食施設がありますが超高級な価格設定がなされています。

 そこで、奈良県コンベンションセンターのイベント参加者の胃袋をささえる事ができるのが「ミナーラ」の存在だと筆者は考えます。施設同士は目と鼻の先、数分歩けばたどり着く立地で、昼休憩や参加前後の飲食を気軽に行えることができると考えられます。

「観光型」に迫る⑤ 観光ルート途上にある

ぐるっと路線図R3奈良交通対応

 「ミナーラ」は奈良観光の中心地で、奈良の大仏で親しまれている東大寺、春日大社、興福寺が立地する「奈良公園」一帯やそれに隣接しカフェや雑貨店がある古民家町「ならまち」からは徒歩圏内ではありません。しかしながら、その方面からは観光客向け100円路線バス「ぐるっとバス」が運行されミナーラの目の前にもバス停が設けられています。(上図(筆者作成。)最寄りは「宮跡庭園」バス停。)

 「ぐるっとバス 大宮通りルート」は奈良公園界隈の春日大社の敷地内から東大寺、興福寺、近鉄奈良駅(「ならまち」から徒歩圏内)を経由し、世界遺産「平城宮跡」と奈良県屈指の鉄道ターミナルである大和西大寺駅を結ぶものです。すなわち主要観光資源を結ぶルートの途中に立地していると言えます。

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 また、奈良公園界隈や周辺に点在する古寺や平城宮跡、奈良市街の西にある世界遺産群「西の京」はサイクリングで巡ることもでき、この地域ではシェアサイクルの導入も進められています。シェアサイクルのポートについては敷地内に設置されており、自転車による各方面からのアクセスも可能としています。

まとめ

 テナント構成を「ぱっと」見てみれば、「金魚ミュージアム」以外目立った観光客向けのテナントはありません。

 しかし、視点を変えれば「観光利用」も可能なはずです。観光の定義については以前の記事で触れましたが、観光とは「日常生活圏を離れて行う活動」ですので、「日常生活圏を離れている商業施設での購買活動」も立派な観光となります。

 例えば奈良に来たカップルが、午前中は奈良公園で社寺の参拝や自然を満喫し、お昼を食べにミナーラへ移動し、金魚ミュージアムで写真を撮った後にラウンドワンで遊び、ナフコで雑貨を買って帰る。立派な観光です。商業施設も観光資源として考えることができるのです。

 「ミナーラ」の存在が観光雑誌などの媒体などで紹介されることが拡大すればより観光資源としての存在感が増してゆくでしょう。

 最も、「金魚ミュージアム”だけ”立地が”ぽつん”とある」というイメージを持たれてしまってはいけないと考えます。ミナーラ内の店舗や周辺の観光資源と組み合わせる事で、より魅力的な観光が可能であると筆者は考えます。

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最後に、自分にできること

 私は奈良の観光情報サイト「平城ツーリズム.com」という個人サイトを趣味で運営しています。SEO的なキーワード分析っぽい真似事をして記事を起こす事もありますが、関連する記事にて「朱雀門からミナーラ周辺の一体的、連続的な観光の可能性」を蜂起する内容にすることです。

 ミナーラの誕生によって奈良観光における観光の選択肢が増えたと言えます。ミナーラに存在するあらゆる可能性は奈良観光の魅力アップに大きな可能性を秘めていると思います。それを奈良に訪れる方に知っていただきたいのです。


・ミナーラ https://www.mina-ra.com/

・地図(画像)OpenStreetMap © OpenStreetMap contributors (Open Database License CC BY-SA)

 

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