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団体バス渋滞を解決せよ-「奈良公園バスターミナル」の役割【連載交通⑦】

求ム、団体バスの交通処理システム。

 奈良県奈良市、「奈良の大仏」が安置される東大寺や春日大社、興福寺、奈良の鹿が生息する市内屈指の観光エリア「奈良公園」。

 乗用車での渋滞対策である「パークアンドライド」や、エリア内外の移動性を向上させる観光向け100円バス「ぐるっとバス」の取組については前回までの記事で紹介した通りです。

 しかし、これら取組は「個人」で行動する観光客に向けた取り組みです。奈良を訪れるのは個人行動だけではありません。「団体バス」で奈良公園を目指す観光客も相当数存在しています。

 この記事では「団体バス」が奈良公園に集中し発生した渋滞とその対策について紹介します。

なぜ、バスターミナルが必要なのか

 現在に続く取組が始まる2011年頃。団体バスの交通処理の中心は「大仏殿前駐車場」でした。県営の駐車場で東大寺大仏殿は目と鼻の先。興福寺や春日大社も徒歩圏内の立地です。

大仏殿前駐車場(2021年撮影の為2011年とは役割が異なる)

 この駐車場に目指す団体バスにより渋滞が発生していると当時の資料に記録があります。具体的には以下の3点となります。

  • 道路上での入庫待ちの為の渋滞

  • 入庫をあきらめたバスの路上での乗降

  • 入庫、出庫に伴う奈良公園内道路への影響

大仏殿前駐車場入り口の様子

 これらにより、大仏前駐車場入り口を先頭に奈良公園内道路へ過剰な負荷がかかり奈良公園内をはみ出し周辺の市街地まで渋滞が影響をしていたと当時の資料でその考えをうかがい知ることができます。

奈良公園バスターミナルの検討

 大仏前駐車場は奈良公園にアクセスできる道路から奈良公園内の道路に進入するため、上記のように公園内道路に不可がかかる状態となっていました。

 その為、奈良公園内道路への団体バス進入を減らし、奈良公園の外側で団体バスの交通処理を行うターミナルの設置が求められるようになります。この結果、現在の「奈良公園バスターミナル」が誕生することとなるのです。

 これが団体バスの交通処理視点から見る奈良公園バスターミナルの必要性となります。

大仏殿前駐車場とバスターミナルの位置関係(イメージ)

 尚、奈良公園バスタ―ミナルの建設された場所にはかつて自家用車を対象とする奈良公園の駐車場が存在していました。自家用車駐車場を閉鎖することによる自家用車流入抑止の意味もあると説明されています。

「ショットガン方式」での運用

 「奈良公園バスターミナル」の検討資料では「ショットガン方式」の文言は登場しませんが「奈良公園バスターミナル」を中心とする団体バス交通処理は「ショットガン方式」と呼ばれる交通処理の手法です。

 媒体によっては「振替駐車場方式」「ショットガンシステム」「ショットガン運用」と呼ばれる場合もあります。

 この方式は団体バスの目的地でその需要に対する駐車スペースを確保することが難しい場合などに、観光地などバスの目的地において乗降場を設置し乗客を降車。そこから離れた場所に設置される駐車場にバスを回送し駐機。乗車するタイミングで乗降場に移動する方法です。

ショットガン方式のイメージ

 国内の事例では「GINZA SIX」を乗降場とした東京銀座地区での取り組みや、沼図港での取り組みが挙げられます。また、駅の送迎を目的としたため類似例と言えますが京都駅でもこの方式が採用されています。

 県内でも「奈良公園バスターミナル」より先にも事例があり、同じく奈良公園で開催された「なら・シルクロード博」(1988年)や、「平城遷都1300年祭平城宮跡会場」(2010年)の大規模イベントでの事例があります。

団体バスの予約制導入へ

 新たな「バスターミナル」導入検討が議論される中、既存の施設「大仏前駐車場」と「高畑駐車場」に対して予約制度が導入されることになりました。

 これは、大仏前駐車場での渋滞を解消すべく入庫が集中する時間帯の需要を抑え「平準化」する為に導入されたものです。

 予約制度は2011年9月に運用が開始されました。2019年の「奈良公園バスターミナル」運営開始後も予約制度は継続され、乗降場と駐機する駐車場の利用に予約が必要となっています。

大仏殿前駐車場と高畑駐車場に予約制度を導入

奈良公園バスターミナルの規模検討

 予約制度を導入しても尚、需要の集中する時間帯や無予約車の流入により依然として処理能力が不足している状況が続いていました。

 「奈良公園バスターミナル」の規模検討の資料では最大で96台分の駐車スペースが必要であるとされ、大仏殿駐車場の26台、高畑駐車場の56台を合わせても不足する14台の駐機能力もバスターミナルに求められることになりました。

必要台数96台分の割り振り

 また、乗降スペースの能力については5台分のバースを設置することとなりました。

乗降場と駐機場の運用

ターミナル検討段階での計画

 「奈良公園バスターミナル」の検討段階では

  • 平時「奈良公園バスターミナル」で乗降→「高畑駐車場」で駐機

  • 繁忙時「奈良公園バスターミナル」と「大仏殿前駐車場」で乗降→「高畑駐車場」と「大仏殿駐車場」で駐機、不足の場合「奈良公園バスターミナル」でも駐機

とされていました。

検討段階の乗降場と駐機場の計画

2019年ターミナル開業当初の運用

2019年「奈良公園バスターミナル」の開業を迎えると

  • 「奈良公園バスターミナル」→乗降のみ(駐機はできない)

  • 「高畑駐車場」→乗降・駐機

  • 「大仏前駐車場」→特別予約と県内宿泊団体が利用OK

  • 「上三橋駐車場」→駐機のみ

として運用されることになりました。

ターミナル開業当初の運用

 「奈良公園バスターミナル」での駐機、「高畑駐車場」での乗降・駐機、「上三橋駐車場」の駐機は役割が重なる部分がありますが具体的にどのように割り振り、運用されていたかは資料が見つからずわかりませんでした。

 「大仏前駐車場」の特別予約とは、交通弱者とされる乗客がいる場合に利用できる予約を指すほか、この駐車場では県内で宿泊する団体の夜間駐機を含む利用ができることとなっています。

 「上三橋駐車場」は奈良県大和郡山市に設けられた駐車場で、運用全体も含めいずれにしてもターミナル検討段階では計画されていなかった事柄となります。

上三橋駐車場(2020年撮影)

 この運用では「高畑駐車場」56台+「上三橋駐車場」56台(筆者による推定)=112台となりターミナルの規模検討で必要とされていた駐機機能96台を超えることとなります。「奈良公園バスターミナル」では乗降機能のみに能力を集中、「大仏前駐車場」では計画当初に想定していなかった運用が可能となりました。

駐機場の台数内訳

 尚、感染症流行期になった2020年4月以降については「上三橋駐車場」の使用を取りやめ「高畑駐車場」にて駐機をしていました。

 「奈良公園バスターミナル」に用意された各区画は、「主に降車用」で6台分、「主に乗車用」で6台分、「予備」で4台分と建設前の検討段階より余裕を持って運用されています。その結果、下の写真のように当初の想定(乗降で5台)を上回る需要が発生した場合にも対応できるようになっています。

奈良公園バスターミナルでの団体バスの様子

平城宮跡を取り込んだ現在の運用

 2021年10月以降、奈良公園バスターミナルで乗降するバスの回送先駐機場として「奈良めぐり平城宮跡前駐車場」で運用されることになりました。

  • 「奈良公園バスターミナル」→乗降のみ(駐機はできない)

  • 「奈良めぐり平城宮跡前駐車場」→駐機

  • 「大仏前駐車場」→特別予約と県内宿泊団体

  • 「平城宮跡バスターミナル」→乗降のみ(駐機はできない)

  • 「高畑駐車場」→交通処理運用の範疇から外れる

  • 「上三橋駐車場」→廃止

2021年10月以降の運用

 「奈良めぐり平城宮跡前駐車場」は奈良公園から西に4キロ離れた場所にあり、世界遺産「平城宮跡」の目の前にある工場跡地に設置されたものです。この駐車場は乗用車130台、バス30台が駐車できる能力を持っています。

奈良めぐり平城宮跡前駐車場

 しかし、このバス30台では仮に「高畑駐車場」56台を合わせたとしても、駐機に求められる能力96台に及びません。これについて、筆者による観察の結果、「平城宮跡前駐車場」の乗用車駐車場部分にバス駐車場を拡大できる構造と思われるような様子なっており20台程度が+αで駐車できるようになっていると見受けられます。

バス駐車場が乗用車駐車場側にも拡大していると推察される要因とその様子(2021.11.4)
現在の駐機台数の割り振り(高畑は仮として)

 尚、「平城宮跡前駐車場」の運用開始と共に「平城宮跡」のバス乗降駐機の役割を果たしていた「平城宮跡歴史公園内」の交通ターミナルについても奈良公園団体バスの交通処理の運用に編入。(これまでは平城宮跡歴史公園管理者が管理していたが、管理組織も「奈良公園団体バス予約センター」に移管。)新たに「平城宮跡バスターミナル」の名前が付与され「奈良公園バスターミナル」を中心とした交通処理の取組と一括した利用予約が可能となりました。

 「高畑駐車場」については運用の範疇から外された状態となっていますが、感染症流行下において需要が大きくない為、現在においては「平城宮跡前駐車場」での駐機を基本として運用しているものと推察します。

 この記事では団体バスによる渋滞抑止策について、その概略をお伝えしました。これらによる効果や様々な意見については、またの機会とさせていただきます。

注釈

(注釈その1)「奈良県自動車駐車場及び奈良県自動車乗降場条例」では大宮通り南側の敷地及び遣唐使船側の敷地の両方をそれぞれ「奈良めぐり平城宮跡前駐車場」「平城宮跡バスターミナル」としていますが、この記事では大宮通り南側の敷地を「奈良めぐり平城宮跡前駐車場」、遣唐使船側の敷地を「平城宮跡バスターミナル」とします。

(注釈その2)「上三橋駐車場」の収容台数については奈良県公表資料では見つけることはできませんでしたが、GoogleEarthの航空写真より筆者推定にて計算しています。

参考文献

奈良中心市街地公共交通活性化協議会

「平成23年度の取り組み」https://www.pref.nara.jp/secure/60964/siryou42.pdf

「奈良中心市街地公共交通総合連携計画」(2011年~2013年有効分)https://www.pref.nara.jp/secure/40508/nararennkeikeikaku.pdf

「観光バスの予約制導入について」https://www.pref.nara.jp/secure/70274/siryou55-2.pdf

奈良公園地区整備検討委員会

「奈良公園周辺の交通対策について」https://www.pref.nara.jp/secure/94069/siryo3.pdf

「(仮)登大路ターミナルの整備について」https://www.pref.nara.jp/secure/144154/05siryou.pdf

「(仮称)登大路バスターミナルの整備について」
https://www.pref.nara.jp/secure/154097/shiryou06.pdf

その他のウェブサイトより

「奈良公園団体バス予約システム」より各資料https://ems12.webecs.biz/narapark_bt/

日本旅行業協会公式サイト掲載「「奈良公園バスターミナル」の営業開始について」https://www.jata-net.or.jp/membership/info-japan/pdf/190408_naraparkbusinfo.pdf

奈良県公式サイト「平城宮跡歴史公園に新駐車場「県営奈良めぐり平城宮跡前自動車駐車場」がオープンします!!」https://www.pref.nara.jp/item/254512.htm#itemid254512

Reiki-Base インターネット版「奈良県自動車駐車場及び奈良県自動車乗降場条例」https://www1.g-reiki.net/pref.nara/reiki_honbun/k401RG00000357.html

奈良まほろば館「2021年度奈良公園バスターミナルの予約開始日について」https://www.mahoroba-kan.jp/useful_details67.html

ショットガン方式事例紹介

「ショットガン方式による観光バス駐車場の改善 ~沼津港北物揚場の整備計画~」株式会社東海建設コンサルタント 茂木瑞穂 http://www.sz-cca.com/pdf/seminar/20190712-4.pdf

「東京・銀座6丁目に登場した「ショットガン」=観光先進国に向けて渋滞解消=」リコー経済社会研究所研究員 倉浪弘樹 https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/society/post_206.html

「ショットガン運用概要」タイム24(京都市の事例)https://times-info.net/reservation/service/KH/pdf/about_shotgun.pdf

「ショットガンシステムの概要」国土交通省 https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/09/091024/01.pdf

「なら・シルクロード博 公式記録」1989年 財団法人なら・シルクロード博協会(奈良県立図書情報館蔵)

「なら・シルクロード博警察活動記録」1989年 奈良県警察本部(奈良県立図書情報館蔵)

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一部画像は「いらすとや(https://www.irasutoya.com/)」様よりお借りして使用しています。

OpenStreetMap https://www.openstreetmap.org/

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