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実は14年の歴史「ぐるっとバス」の創意工夫【連載交通④】

実験を重ねた14年。

 JRや近鉄の奈良駅、大和西大寺駅と言った奈良の街の玄関口と、奈良公園、平城宮跡を結ぶ「ぐるっとバス」。観光客を乗せる「観光周遊100円バス」の性格を持つと共に、市役所や商業施設前を通る為か地域住民の利用もあり根付きつつある交通機関の一つではないでしょうか。

 3つあるルートのうちの1つのルートが毎日運行を開始したのが2019年であり、まだまだ「新しい乗り物」という印象もありますが、その歴史をたどると14年前、2008年までさかのぼることができます。

 この記事では「ぐるっとバス」の概要やその役割、歴史について解説します。

 尚、「ぐるっとバス」の前身の一つ「奈良観光周遊バス」についても記述していますが、この記事では「奈良観光周遊バス」時代も含め単に「ぐるっとバス」と表記した場合は「ぐるっとバス」「奈良観光周遊バス」の全てを指すものとさせていただきます。

「ぐるっとバス」の概要

 2022年2月現在の「ぐるっとバス」の路線図は以下の通りです。

ぐるっとバスの路線図(筆者作成)

ぐるっとバスは3つのルートで運行されています。

  • 「大宮通りルート」=大和西大寺駅と平城宮跡と奈良公園を結ぶ

  • 「奈良公園ルート」=JR/近鉄奈良駅と奈良公園とならまちを結ぶ

  • 「若草山麓ルート」=奈良公園内を周遊する

 運賃は全ルート100円で、これはこの地域の一般的な路線バスの半額以下となります。また、この地域の路線バス事業者が発行する一日乗車券の利用も可能となっています。

 運行日は「大宮通りルート」がほぼ毎日運行。他の2ルートはほぼ土日祝と繁忙期の平日に運行されます。(マラソン大会、行事開催日、年末年始は運休)

 実施主体は地域の交通事業者や行政によって組織される「奈良中心市街地公共交通活性化協議会」で、運行(運転手、車体など)は民間のバス事業者「奈良交通株式会社」(2021年度)に委託されています。

ぐるっとバスの夜明け

社会実験がはじまる2008~2009年

 「ぐるっとバス」が始めて奈良の地を走ったのは2008年秋の繁忙期です。(奈良交通株式会社による「世界遺産ぐるっとバス」は今の「ぐるっとバス」の系譜とは全く異なります。)

 奈良公園を訪れる自家用車の渋滞対策として「パークアンドライド」を実施。それと関連して奈良公園の魅力向上策として公園内の回遊性を高める為、奈良公園内を周遊する臨時バスが企画されます。

 この「パークアンドライド」シャトルバスと奈良公園内周遊バスが今日における「ぐるっとバス」の原形となります。当時は秋の繁忙期のみの運行でした。

 この頃におけるパークアンドライドシャトルバスは奈良公園と平城宮跡間を結ぶ周遊バスの役割はありませんが、ならまちを経由するなどのルートで走行し、そのルートも社会実験の評価の一つとされていました。尚、このルートが後年のぐるっとバスに酷似したルートとなります。

2008年の「奈良公園ぐるっとバス」(赤色)と「シャトルバス」(青色)


平城遷都1300年祭におけるシャトルバス輸送

 2010年、平城宮跡をメイン会場に「平城遷都1300年祭」が開催されます。平城宮跡への博覧会観客輸送を目的に、JR奈良駅、大和西大寺駅からシャトルバスが運行されました。

平城遷都1300年祭のシャトルバス

 ※これ以外にも、遺構展示館→大和西大寺駅、エントランス広場→近鉄奈良駅の帰路専用ルートも存在。

2011,2012年から見る役割とターミナル

 「平城遷都1300年祭」閉幕翌年の2011年より平城宮跡の観光資源としての価値は向上し、平城宮跡を奈良公園に次ぐ第二の主要観光地かのように扱いそして、平城遷都1300年祭のシャトルバスを彷彿とさせるルートで臨時バスが企画されるようになります。

 「近鉄奈良駅」「JR奈良駅」「大和西大寺駅」の鉄道駅と、平城宮跡、西ノ京、奈良公園と奈良公園内を周遊するルートが企画されました。

 下はルート数が多かった2012年の秋の路線図です。

2012年秋季の路線図

 この2011年と2012年は実験的な要素が強く、2013年より徐々に現在の姿に整えられていきます。

ターミナル機能

 ぐるっとバスは複数のルートで運行されていますが、その乗り継ぎに利用できるよう主要観光地となる奈良公園と平城宮跡にそれぞれターミナル機能が付与されました。

 奈良公園側は長らく奈良県庁前の噴水広場を利用してきましたが、「奈良公園バスターミナル」開業による「大仏前駐車場」の団体バス処理能力縮小に伴い、2019年からは「大仏前駐車場」をターミナルとして活用しています。

 平城宮跡側は平城遷都1300年祭平城宮跡会場で仮設された「エントランス広場」の造成地を閉幕後にレイアウトを変えて転用。しかしながら平城宮跡周辺でのルート再編に伴い、現在は平城宮跡側にぐるっとバスとしてターミナルと呼べる場所は必要ありません。(公園の交通ターミナルは後に正式なものが建設され、ぐるっとバスの停留所が設けられています。)

 社会実験が黎明期であった2011年~1013年春季では「パークアンドライド」の取組も実施され県庁前、平城宮跡のターミナルにはぐるっとバスのみならずパークアンドライドシャトルバスも発着し、一大交通結節点の様相でした。

県庁前のターミナル(奥の建物が奈良県庁)


ぐるっとバスの役割

 2011年~2012年春まで「ぐるっとバス」は「奈良公園ぐるっとバス」のみでした。その他のルートは「奈良観光周遊バス」と呼ばれており別の取組として実施されていました。(一部除く)

 両者共に「わかりやすい交通機関の導入」という点については一致していますが、「奈良公園ぐるっとバス」は広大な奈良公園内の回遊性や移動性を高めるため運行を開始。平城宮跡や西ノ京を結ぶ「奈良観光周遊バス」は奈良公園と離れた観光地への周遊を促すことを目的に運行されているものです。

 これが後に「ぐるっとバス」に統一されたり、統一される前に消滅したりする訳ですが名称と役割をリンクさせるのは2011年~2013年春までの出来事です。詳しくは次の項目で。

各ルートの変遷

大和西大寺駅と西ノ京と平城宮跡を結ぶルート

 大和西大寺駅と平城宮跡を結ぶルートは「平城遷都1300年祭」のシャトルバスとして登場しました。ぐるっとバスの親戚となる「奈良観光周遊バス」として西ノ京と平城宮跡を結ぶルートが登場したのは2011年秋。大和西大寺駅とを結ぶルートの延伸として登場しましたが後に分離されています。(2012年秋の路線図の通り。)

 その後、西ノ京ルートは利用者数が伸び悩み運行を取りやめ、大和西大寺駅ルートも平城宮跡で開催されるイベントのシャトルバスと化しているとのことでイベント主催者によるシャトルバス運行に転換されています。

 2020年秋、翌年2021年に控えた大和西大寺駅南口ターミナルの完成を前に大和西大寺駅に大宮通りルートを延伸させ効果を検証。2021年に大宮通りルートの延伸として再び乗り入れを開始しています。

試行錯誤の大宮通りルート

 2011年に登場した当時は奈良公園と平城宮跡をJR/近鉄奈良駅を経由する観光地間連絡と鉄道駅からのアクセスを兼ねた単純なルート(2012年の図の青線の通り)でしたが、程なく平城宮跡北西側の法華寺・海龍王寺、大極殿、そしてならまちを経由する文字通り「ぐるっと」観光地と鉄道駅を周遊するルートとなりました。

ぐるっとバス平城宮跡・ならまちルート

 登場当初は「奈良観光周遊バス奈良公園―平城宮跡ルート」として、大極殿やならまちを経由するようになってからは「ぐるっとバス平城宮跡ルート」や「ぐるっとバス平城宮跡・ならまちルート」などと呼称されていました。

 2019年、奈良公園バスターミナル開業に伴いルート見直しが行われます。その前年の秋に実施された同様のルートの実験結果も踏まえ、平城宮跡と奈良公園を直行し奈良公園側を春日大社まで延伸するルート改変を行います。この時から「ぐるっとバス大宮通りルート」と呼ばれるようなります。

ぐるっとバス大宮通りルート(直行時代)

 2020年、大和西大寺駅南口ターミナル供用開始に伴い延伸がされ現在のルートが完成します。

ぐるっとバス大宮通りルート(西大寺延伸後)


役割が増えたり分割される奈良公園ルート/若草山麓ルート

 奈良公園ルートが登場したのは2008年で「奈良公園ぐるっとバス」と呼ばれていました。当初は奈良県庁を拠点に奈良公園各地を周回するルートでした。

奈良公園内を周遊するだけのルート

 2013年、平城宮跡方面のルートが「ぐるっとバス」になったと同時に、奈良公園側も「ぐるっとバス奈良公園ルート」に改称。さらに近鉄奈良駅、JR奈良駅に延伸し鉄道駅から奈良公園中心部へとダイレクトにアクセスできる役割が付け加えられます。その後、2014年からはならまちを経由するルートに改められました。

駅まで延伸
ならまちを経由

 2019年、奈良公園バスターミナル開業に伴うルート改変の際、若草山麓、春日大社本殿方面を「若草山麓ルート」として分離。公園内を周遊する役割を譲り、「奈良公園ルート」は駅と奈良公園、ならまちを結ぶ役割に特化することとなります。

現在の奈良公園ルートと若草山麓ルート

運行日の拡大

 現在、大宮通りルートはほぼ毎日運行。他の2ルートはほぼ通年土日祝運行となっています。

 ぐるっとバスが登場した直後は春と秋の観光シーズンのみの運行に限られていました。その後、2013年夏からほぼ通年土日祝の運行を開始。平城宮跡方面のアクセスが格段に向上しました。

 そして、2019年、奈良公園バスターミナル開業に伴うルート改変時より、大宮通りルートがほぼ毎日運行を開始しています。

参考文献

こちらのページに記載しております。
https://note.com/heijo_tourism/n/n97ee63e406fe


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