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椅子問題

知り合いが以前、大手通信企業の子会社で部長をしていたのですが、ある時期から人事部に頻繁に面談を設定され、どうやらポジションを異動させられるような話になっていた時期がありました。本人からすると特に業務で何か問題があるわけもないのにやたら批判されて苦しい時期だったようです。(そもそも間接部門なので何か大きなミスがあるようなものでもない)当初は自分の何が悪いのか?的な観点でコミュニケーションの改善を模索していたようですが、何をしても状況が改善しないということで相談に乗る機会がありました。
 
本人の言うことを信じるならば、仕事で特に非があるわけではないということなので(そもそも5年くらいやっているし)視点を変えてこれは本社から人が来るための地ならしではないか?といったような話をしたところ、他部署でも起こっていたことやそれまでの一連のやり取りが急に理解可能なものになったようで、結局その人は2カ月くらいで転職を決めて今は全然別の会社で活躍しています。
 
停滞する会社組織においては、ポジション≒椅子の数は限られています。社員は1年で齢を喰うわけですが、トップラインが成長しない限りは実績や年齢に見合うふさわしい肩書やポジションはなかなか増えない。かといって転職などで新天地に行けるわけでもないしそもそも社内にも社外にも需要もない。そんな事情を踏まえるならば50代半ばのおっさんのゴールとしては子会社の部長なんかは丁度いい椅子なんじゃないかと思います。実際のところは何もわからない人間がポジションについても実務を支える右腕になる人がいないと機能はしないと思いますが、それはまた別の問題です。
 
私自身も外資系企業で日本企業の買収を検討しているときに、外人から「どうしてこんなにたくさんグループ子会社があるのだ?」という質問をされたことがあるのですが、同席していた営業部長が「LOSERのための会社だ」と冗談めかして言っていたのは覚えています。当時はそんなわけあるかよって思ったのですが、自分も当時の営業部長と同じくらいの年齢になってみると、なるほど大企業子会社というのは本体の出世競争に負けた人たちの天下り先としてあると思うようになりました。大企業子会社のマネジメントポジションというのはLOSERのための福利厚生だったらしい。たまに大企業の子会社は仕事のわりに待遇が良くて居心地がいいみたいな意見をSNSで見かけますが、その中で本当に評価されて出世をしてそれなりのポジションに着けるか?については類似の事例や会社の方針のようなものをよく確認したほうがいいかもしれません。
 
ずいぶんと無駄に見えることをするわけですが、大組織にはそんな政治やバランスを考えた人事異動なんかはいくらでもあると思います。世の流れで女性管理職に椅子を作らないといけないので当たり障りが無い法務や広報あたりに置いたりする。Windows2000などと揶揄される新規事業開発、〇〇企画、○○推進みたいな仕事です。本当にコアで重要なポジションは誰が見ても切れ者の剛腕な人間を配置するのですが、ミスが起きようもないような誰がやっても当たり障りが無いようなポジションでしょうか。なくなってもあまり困らない。
 
 
前置きが長くなりましたが、KD〇Iなんかが本業とどういうシナジーがあるのか解らない買収をしたりしますが、こういうのはなんのためなのか?誰のためなのか?というのは考察の余地はあるかもしれません。

秀吉の朝鮮出兵なんかも日本を統一してしまったので、家臣に分配する土地がなくなったがゆえに海外に出兵したという話を聞いたことはあります。他国を攻め滅ぼして領土を統合すること自体にも意味はあるのかもしれませんが、要は部下や身内の生活が今より良くなると思うからわざわざ命を懸けて戦うのです。外部に目が行っているうちはまだいいのですが、組織が停滞すると内紛で割れたり、別のリーダーを打ち立てて新組織を立ち上げたりするというのも歴史を振り返るとよくあること。そういう意味ではどうして江戸幕府はこれといった権力争いもないまま300年も持続できたのかには学べることはありそうです。
そういう文脈で考えるならば大企業の行うスタートアップやM&Aには、人口も減る日本国内市場で停滞しがちな組織を活性化するという意味合いの方が強いかもしれません。特にM&Aは買ってきた会社に統治名目で親会社から人を送り込むことで、優秀だけどもふさわしい仕事を本体には用意してあげられない人材には最後の晴れ舞台を用意することになりますので。

まあ、いくら何でも椅子(笑)のために何億円ものフィーが支払われるわけがないというご意見もありますが、そういう人は自走できる会社の椅子の価値が解っていない。買ってしまえば誰が座っても一定の成果を出せて、買収の過程でIT法務ファイナンスといった地味なコストセンターの専門家に活躍の場が提供できる、ひょっとしたら買収先に本体にいない逸材が居る可能性すらあるのですからやらない理由がありません。大企業にとっては数億円のフィーなんか大した意味はありません。



では、このような(不合理な?)プラクティスが今後も続くのか?というと、個人的には無理があろうかと思っています。

バブル期に大量採用されたボリュームゾーンがこれから退職していく中で、今度は椅子があっても運転できる人≒管理職が足りなくなる。特にピープルマネジメントについてはある程度のハードスキルやノウハウは存在しますが、ソフトスキルは労務管理上の様々な問題を実際に経験して悩むことで習得されていく類のもののように思います。 

本来はこのような事態は組織図に今いるひとの年齢を書きこんでみたら容易に想定できたことであり、10年単位でマネジメントできる人材の育成を進めていくべきだったと思いますが、実際に組織立ってできているケースは寡聞にして知りません。やっていた会社はあるのかもしれませんが、リーダーとして育成した市場価値の高い人材に転職させないで計画通りにうまくいく確率を考えるとかなり難しいのではないでしょうか。年金問題と同様に解っていても実際にその時になるまでなかなかアクションは取られないように見えます。
 
自分の場合は最初に部下らしきものを持ったのは29歳の時(Supervisorだったので管理はしても評価などの人事権はない)ですが、当時会った人材エージェントから29~31歳くらいが一番高く売れるみたいなことを言われたことは覚えています。まあ採用目線でポテンシャルを評価してポジションを上げたオファーが出しやすいという意味だったみたいですが。これでもかなり計画的に動いてかつうまくいった方の話なので、何も行動しないと普通に40歳で部下なし&何ができるわけでもない専門性も謎みたいな赤魔術師が誕生します。こうなるとリカバリーはかなり難しい。ちなみにMBAは27~29歳に初めて2年後の卒業するタイミングでマネージャーとして転職というのが当時のテンプレート的なキャリアアップだったと思いますが今では高い費用を払ってMBAを取る意味があるのかはよくわかりません。
 
私の知る限りではマネージャー以上というのはなりたいと思っていて準備してきた人しかなれませんし、またやらせるべきではないと思います。不適切な人の下に付くことになる部下が不幸になるので。
 
現職では前任者が定年退職してその後を引き継ぐ形で入っていますが、やはり組織全体の高齢化が進んでおり、部下の大半は自分より年齢が上なので10年もしたら全員定年になってしまいます。そうなるのがわかっているので、今から遅ればせながら人材育成や若返りを考えているのですが、どう考えてもこれから定年退職する部長やらリーダーに対して代わりになる人材の育成や供給が間に合わない。まあ対処療法的に嘱託社員やアウトソーシングやオフショアで置き換えつつ、コアになる人材だけは何とか育成していくようなイメージでしょうか。AIなんかも一つの選択肢になるのかもしれません。

まあ一つ言えるだろうことはプロ管理職的な日常業務を滞りなく廻しながら、組織の方向性を考えていくようなコンサルタント需要は今後は増えると思います。仮にリプレースを採用するにせよ、アウトソーシング等をするにせよ半年から1年程度の時間稼ぎをしながら現実的な解を見つけていく、そういう助っ人外人的な需要はあるんじゃないかと思っています。

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