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ポケットにカメラを忍ばせて #4

突然のフィナーレと砂漠の嵐


レース2日目の午後。

激しく転倒。

些細なミスから、ボクの体はバイクから放り出された。パウダーのように細かくフカフカした砂地は、地面に叩きつけられた身体が土の上を滑ることも許さず、その強烈な衝突エネルギーを逃すことなく、全てボクの左肩にぶつけてきた。

視界を遮るほどの砂煙の中に倒れたボクは、左肩にシリアスな怪我を負ったことをすぐに悟った。後方から来たライダーに手伝ってもらってバイクを引き起こす。左手に力が入らない。アドレナリンが出て肩が動くうちにバイクに乗ってしまえとばかりに、再びバイクに跨って移動を再開。時刻は17時。ゴールまで残す距離は230km程度だった。

だけど、まだまだ続く激しい凸凹道にボクの左肩はハンドルに手を添えることさえも厳しく、これまで80~100km程度のスピードが、一気に時速30km程度に落ちる。そして、このスピードですら、うめき声が出るほど辛い。

日没は夜9時過ぎだけど、どうやら明るいうちに帰れそうにはないと焦りが募る。(夜の平原は先が見えなくてホントに怖いんです!)

結局、偶然にも10kmほど先にあったチェックポイント(CP)のレーススタッフに事情を告げて、リタイアを宣言。この日の移動は予定よりも随分早く、ここで終了となった。

※CPとは、車両が無事に正式ルートを通過して、行方不明になっていないかなどを確認する場所です。今回650kmのルート上に2箇所あるCPの一つが転倒場所近くにあったのが超幸運でした

コロナ禍を経て2年もかけて準備したボクのレースは、たったの二日目にしてあっさりと終わってしまった。

自力でキャンプ地までの移動ができないため、レーススタッフからこの場所で救護車両の到着を待つことを言い渡される。どうやら今日中には帰れそうにないなぁと、漠然と思った。

さて、そんなボクがスタッフテントに座り込むその時を同じくして、先ほどから気になっていた巨大な雨雲がボクたちの目の前に近づいてきた。気温は一気に下がり、ビョウビョウと強い風が吹き始める。モンゴル人スタッフが簡易テントを撤収しろ!と叫ぶ。だが、それも間に合わず、このかくも広い草原からまるでピンポイントで狙ったかのように、ボクたちに強烈な雷や雹が襲いかかってきた。簡易テントが吹き飛び、ボクたちの逃げ込んだテントのポールが折れる。まったく、なんて日だ。

20分ほどだろうか。やがて雹は雨に変わり、その雨も止んだ。雷の音も遠ざかり、なんとか生きた心地を取り戻すことができた。(周囲に高いものが一切ない平原で唸る雷の怖さと言ったら!)

恐る恐るテントを出て周りを見渡すと、先ほどまでの光景とは打って変わり、周囲は泥濘の地に変わり果てていた。

今日はここまで散々な目にあったが、生きているだけでも幸運。そんなふうに思える1日だ。きっと忘れ難い日になるだろう。

遠くで誰かが、おおーと歓声をあげた。

振り返ると、再び太陽が顔を出している。すると、乾いた大地に降った雨はキラキラと光りながら急速に地面に吸い込まれ、キノコ雲のように巨大な雨雲が大きな虹を引きずりながら、さらに南に移動していくのだった。

潤いを得た大地に清々しい空気が振り注がれていく。
突如として、そこは清涼な草原になった。

怪我やリタイアの悔しさも忘れ、ボクはただ夢中でシャッターを押し続けた。


(続く) 

写真はインスタでもご覧いただけます。
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