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「愛を科学で測った男」 ― 異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実

そのころ彼は自分をこんなふうに描写している。
「内気で、ずいぶんロマンティックな人生観を持ち、青春から身を退いている。ともすればドアを開ける前に、ドアにごめんなさいと謝りかねない」

p45

 ハリー・ハーロウは、「子供には愛情が必要」という、今では常識となっている学説を科学的に証明した人物です。それまでの心理学界の人々は、子どもを抱くことに反対していました。

孤児院での赤子の死亡率が高く(1年以内に90%が死亡、など)感染症を防ぐために、大人たちから隔離されることが推奨された。1930年ごろまで、抱きしめたり優しくなだめたりすることが子どものためにならないというのが心理学界の考え方だった。

p51

しかし刑務所の受刑者が出産した施設では、管理が行き届いていないにも関わらず赤子の死亡率は低かったのです。受刑者が自分で子供の面倒を見る必要があり、彼女たちはみな「抱きしめたり優しくなだめたり」していました。
このことから、肌のふれあいの有無が赤子の生存率と関係しているのではと研究が進められ、それらが有効であることが証明されました。

オラウータンの知能

 オラウータンのジグスに、子ども用のブロックおもちゃがプレゼントされました。

ジグスはこれをとても気に入り、丸いブロックを丸い穴に入れることをすぐに覚えてしまった。丸いブロックが四角い穴に入ることも気付いた。四角いブロックを四角い穴に入れることも学んだ。だが、四角いブロックが丸い穴に入らないことが分かると、すっかり困ってしまった。彼はその問題に取り組んで、何時間も入れたり出したりしていた。

p110

彼はチャレンジを続けていましたが1年後に寿命で死んでしまいました。
ときどき、人間もオラウータンと大して違わないのではないかと思うことがあります。

人間関係

 ピラミッド型の図で有名な「5段階の欲求」を提唱したアブラハム・マズローは、ハリーの研究室の学生でした。

マズローは社会関係について博士論文を書いた。動物園で長い時間を費やして、新生児から年寄りまで、クモザルからヒヒまで、35匹の猿を観察し、支配行動と服従行動だと思われるすべての行動を記録した。
仕上がった論文は、まるで独裁者になるためのガイドブックのようだった。

p115

 スキナー箱はラットがバーを押すと餌が出てくる実験道具ですが、バトラー箱はバーを押すと窓が開いて外の景色が見えるもので、エサだけではなく、好奇心も、動物の行動の動機になっていることが発見されました。

多くの教授が自分の担当する学生のアイディアを横取りすることは有名だった。ところがなんと、ハリーはあらゆる発見にバトラーの名前をつけてまわったのである。

p150

1950年ごろには、コンラート・ローレンツとの交流もあったようです。

当時の実験について

イヌやネコはパブロフの実験の通り、ベルの音と電気ショックなどを関連づけて恐怖を与えることができるが、カエルは両者の間に連合は起こらない。

p107

動物研究者は通常、実験について穏便に伝えようとし、専門用語を使って回りくどく研究を説明する傾向がある。たとえば、実験動物が殺されたと書く代わりに、実験は「終了した」と書く。ときには「動物」という言葉自体をいっさい使わず、ただ「被験体」と呼ぶこともある。

ハリーは、そうやって誤解させて穏便な印象を与えることも、科学用語で自分の行為をごまかすこともいっさいしなかった。

p388

 彼の実験は残酷だと注目を集めたのですが、同じ時期の他の実験はもっと酷いものもたくさんありました。

↓ 1957年ごろの記録

・麻酔をかけずにラットを煮えたぎった湯の中に放り込み、ショックと苦痛による血液の変化を測定するという実験。
・筋萎縮の実験のために使われたネコ。組織が萎縮するまで3ヶ月以上も後ろ足を固定された。
・軍事研究では皮膚がパリパリになるまで犬に放射能を浴びせた。
・ライフルの銃弾の威力を測定するためにサルが使われた。頭を撃たれたり、腹部の鈍的外傷を研究するために腹を撃たれた。

↓ こちらの実験は個人的に面白かったのでメモしたものです(概略)

母ラットに対する実験。
子ラットを仕切りで隔離したとき、母ラットがどのように反応するか。
→ 飢えていようが、目の前に食べ物が置かれようが、まず子どもたちを安全なところへ集め、それから食事を始める。
→ 反射かどうか調べるために、卵巣を切除したり、視覚や嗅覚を奪うなどの実験を行ったが、どれも効果なく断固として子ネズミを保護しようとした。

ラットの赤ちゃんが母乳以外の液体にどう反応するか
飲む:牛乳、牛乳の希釈液、砂糖水
他に飲むものがなければ受け入れる:オレンジジュース、タラの肝油
常に拒絶(吐き出す):キニーネの苦味、薄い酸性溶液、食塩水

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