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半島を出よ

北朝鮮の反乱軍が日本の離島に上陸してくる小説。

「恥にまみれた顔」に関する記述を探して再読していたが、それ以外の部分でも面白い箇所があったので記事にまとめてみた。

上巻

p224
重光という政治家の顔には恥のようなものが浮き出ていた。ヤマダの父親は首を吊って自殺したが、その父親も自殺前によくそういう顔になった。死にたくなるほど自分を恥じていて、それを隠そうとしているのだが、恥の量が多すぎて顔の表面ににじみ出てくるのだ。

p360
誰かが提案して、決定権と責任の所在が曖昧なまま、すでに意味を失っている計画が実行に移される。これまで横川は、まさかそんなことがと楽観していて何度も裏切られた。政治家や官僚がどれほど無知で無能でもさすがにそこまで愚かではないだろうと思っていると、裏切られるのだ。

下巻

p205
女医や女性薬剤師は共通した独特の雰囲気がある。一般的に女子の医薬部の学生や研修医は男子より息抜きが下手でがむしゃらに勉強する。そのせいで、青春を犠牲にして猛烈に勉強したという痕跡が顔に残ってしまうのだ。

p335
結局世の親というのは、わが子の頬の柔らかさに救われ、支えられ、助けられて子育てを続けるような気がする。どんなに疲れていても、職場の人間関係で神経が参っていても、寝ている里沙子や健太の頬にそっと触ると気持ちが安定した。いや、気持ちや精神が安定するということの意味を初めて知ったのだ。

気持ちや精神が安定するというのは、自分が外部の世界のどこかにぴったりと収まっている感覚だった。

p344
何かを選ぶというのは同時に別の何かを捨てることだが、それがわかっていない人間が大勢いる。

コミュニケーションの作法

p49
酒は親しい雰囲気の中で飲まれることが多いが、親しい雰囲気というのは危険に充ちている。

その場に蔓延した親しみに敬意を払わなければいけないし、同調することも必要だ。同調を示さないと罰を受ける。親しさが蔓延する場所では、単に一人でじっと考えごとをしているだけで、どうしたんだ? つまらないのか、と責められて、そのあとあいつは暗いやつだと攻撃の対象になる。酒を飲む場所では、誰かが冗談を言ったときはそれがどんなにつまらなくても笑わなければいけない。

作者が伝えようとしている事柄とは別の読み方になるが、
飲み会などの「親しい雰囲気」のとき、どのように振る舞うべきなのかという説明書としても受け取ることができる。

彼らはそこで、メンバー全員がお互い同じルールで動いていることを確認し合っているのである。

 また、一般的な「協調性」「みんなで仲良くしましょう」などの目標は、なんとなく曖昧で分かりにくいものだが、「相手のメンツを潰すと恨まれて面倒だから、そうならないように注意する」であれば、明快で理解しやすい。

p134
小川は、部下の意見にチョ・スリョンが同意を示したことでメンツがつぶれたと感じたのだろう、唇を噛み、眉間に皺を寄せていた。修復したほうがいいとチョ・スリョンは思った。メンツをつぶされた人間は恨みを持つ。恨みは陰謀や反抗の芽になる。

p152
共和国では軍に限らず職場や学校や家庭でも、今の細田佐起子のように立場が下位にある者が、指示や命令を拒むことはない。(中略)
イヤですと言ったら、軍籍や党籍を剥奪され、家族ともども収容施設のある辺境地域に送られる。それ以外のやりとりはない。

下位の者が命令や指示を拒んだ時点で関係性はなくなる。

不条理についての説明

物事から意味がはぎ取られてしまう感覚について、分かりやすく説明されている。サルトルの「嘔吐」も登場していた

p266
小学校二年生になったある日、シノハラは幼稚園のころに作ったレゴの作品を手に取ってみて、不安にとらわれた。それらの作品は、ロケットやショベルカーやロボットに似せて作られていたが、それらをロケットやショベルカーやロボットだと認識するためには、約束事のようなものが必要だった。(中略)

それが急にシノハラの中で壊れて消えてしまった。レゴで作られたロケットやショベルカーやロボットを眺めても、突起と穴のあるプラスチックの小さい箱しか目に入らなくなった。

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