「トラウマ」に由来する症状と「内面の虚しさ」を区別しているところが、本書の大きな特徴です。
精神科医である著者が30年間で行ってきた研究と多くの実例。全580ページのうち後半(第5部)はすべて治療についての記述になっている。
巻末に収録された索引/原注が分厚い(80ページ)
第1部 トラウマの再発見
第3部 子供たちの心
解離———知っていながら知らずにいる
トラウマの治療において、治療者が患者のトラウマの詳細を知ることは重要ではなく、患者自身が自分の感じているものを感じ、知っていることを知るのに耐えられることが重要であるという話。
トラウマ歴をどう聴取するか
1985年、境界性パーソナリティ障害と、それに近い人格障害の研究を行ったグループで、彼らの子供時代についての質問がなされた(「子供のころ一緒にいて安全だと思える人はいましたか?」)
これまで、科学的研究でこのような項目が聴取されたことはなかった。
赤ん坊のころの養育者が不適格だった人は希望がないかというとそんなことはなく、ひどい環境から立ち直った人のエピソードもたくさん紹介されている。
(彼らの幼少期の話が出てくるので、読むのが辛い部分もあります)
母親のいない男性たち
母親と赤ん坊の関係性に注目した研究者には、上流階級イギリス人男性が多い。彼らはみな全寮制の学校で、幼い頃に家族と引き離されている。
「1984年」を書いたジョージ・オーウェルも全寮制の学校出身。作品内には、たとえば以下のような記述があります。
>権力は相手に苦痛と屈辱を与えることのうちにある。
(いわゆるブルシットジョブや、会社/地域で行われる無意味に見える活動も、無意味(苦痛)だからこそ意味があるのでは。パワハラやセクハラも、相手が嫌がっているからこその「権力」なのかもしれない)🐰💭
問題が解決策であるとき
肥満治療の現場で、流動食や胃の手術により体重を減らしても元に戻ってしまうケースが紹介されている。ある刑務所の看守は減量に成功したが、やはり巨漢に戻ってしまい「そのほうが安全だと感じることができる」と。
第4部 トラウマの痕跡
トラウマ性ストレスについて、患者自身がその存在に気がつくことで回復する場合もあるけれども、すべてのケースに共通するわけではない。
手術中に麻酔が切れた患者や、交通事故に遭った人は、「何が起きたか」を理解してもフラッシュバックは消えなかった。
第5部 回復へのさまざまな道
第5部はかなり長い(p332-580)
セラピー、投薬、認知行動療法などのメジャーな治療法以外に、以下の治療が紹介されている。
・ヨーガ、マインドフルネス
・セルフリーダーシップ(IFS=内的家族システム療法)
・EMDR
・ストラクチャー(内面を実際の人やモノで再現する)
・ニューロフィードバック
・リズムと演劇(を演じる)
EMDRについては、長くなったので別の記事にまとめました
https://note.com/hebiyama3/n/naaec3040a6f4
精神的ストレスと免疫機能
「安心感や快適さの増大は、免疫系の機能向上に反映されるのではないか?」という仮説をもとに、自己免疫疾患(関節リウマチ)の患者グループに心理学的な治療を試みたときの記述 ↓
第8章で紹介される患者(マリリン)も、紅斑性狼瘡という自己免疫疾患になる場面がある。
(以下は内容うまくまとめられなかったけど、個人的に気になった箇所のメモです。2016年に読んでからの再読)🐰💭
追記
COURRIERでのインタビュー記事(2024.08)