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薄暗い部屋で一人幻想

昨日は天気がよかったので自転車でスーパーへ買い物に行った。途中、お爺さんの運転する車が脱輪していた。気の毒だなと思ったが、見て見ぬふりしてそのまま通り過ぎた。ついでにたばこを買いにコンビニに寄ると、とある雑誌の表紙に絶倫という文字がたまたま目に入り、脱輪のお爺さんを思い出した。絶倫の文字に脱輪と言う言葉が浮かんできてしまった。
買い物を終え国道を漕いでいたら、信号待ちで「おじさん、伊良湖へ行くにはこの道でいいの?」とお爺さんに道を聞かれた。お爺さんからおじさんと言われた。

子供の頃、
降り続ける雨に、外に遊びにも行けず、することもなく退屈しきって、ひとり仰向けに寝そべる。
聞こえてくるのは雨の音と、柱時計の時を刻む音。
視線の先には天井に空いた節穴。
何も考えずただボーッと見つめる穴の向こうで、何かが動いたような気がしてきて凝視し始める。
節穴に対する意識が強くなるにつれて恐怖感が芽生える。
天井の裏には得体の知れない何かが蠢いている。
その何かがこちらを覗くかもしれない。
そしてその穴から抜け出てくるかもしれないという恐怖感に駆られる。
体は硬直し、視線も逸らすことができない。
額から、背中から、冷や汗が滲み、全身に寒気が走る。
視野はますます狭くなり、節穴しか見えていない。
突然ボーンと柱時計の時報が静寂を破り、その音に驚いた私は「うわぁっ!」と悲鳴と共に飛び上がる。
我に返り、雨の音と柱時計の時を刻む音だけが聞こえる薄暗い部屋を見回すと、至る所に闇が広がっている事に気付き再び恐怖が甦ってくる。
当時は電球のソケットにスイッチが付いていた時代。
子供の私には手が届かない高さ。
闇に支配されようとしている部屋の中にいるのが耐えられず、玄関先で雨止みを待ちながらヤツデの葉に付いたカタツムリをいじって遊んでいるうちに、妹をおぶった母がお使いから帰ってくるのだ。
電球の明かりのついた部屋の隅に闇が減っていることを確認し、お勝手場から聞こえてくる炊事の音に安心するのだ。

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