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【短編小説】#13 片付けの本質

片付けとか断捨離®とかのお話を書いている人をよく見かける。

断捨離®という言葉は仏教が由来と思っている方も多いと思うけど、単語そのものは(非常に強力な権利で)商標登録されている言葉なので断捨離をテーマにエッセイなどを書いてしまった人はいますぐ記事の内容を確認して、特に無断使用で有料記事に設定している人は商標権について調べてみましょう。私はまったく興味がないのでここでは触れません。それでは本題。

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片付けの本質はものが見えるように、という記事が多いこと。確かに私もそう思っていた時期があったけど、よくよく考えてみるとそんなことを意識しながら片づけていたことはただの一度もなかったことにある日気付いた。例えば文房具。私はすぐにどこに置いたか忘れてしまうので文房具はココって決めてケースにしまうようにしてきた。

けどこれ、片付けではなくて整理整頓なんだよね。調べてみると整理=仕分けと定義されるようなので、そうであるならこの場合は文房具を元の位置に戻すだけで取捨選択してるわけではないので整頓ってことになるわけ。けど言葉として使う場合、整理整頓しなさいとか整頓しなさいでは固いので、片付けって言葉が使われるようになったんじゃないかなって気がしている。工場などでは整理整頓って張り紙をよく見かけるからね。

食べ終えたお菓子の袋が転がっているような掃除が必要な部屋で散らかったものを片付けるということは、取捨選択をする行動なので整理。そして整理が終わったものを使いやすく仕分けして所定の位置に戻すことが整頓ってことなんですね。繰り返しになるけど、この場合の作業は片付けではなく整理整頓。なので片付けの本質とか極意とかを語っている人たちは、おそらくは整理整頓のことを指しているんじゃないかな。

なのでまあ言いたいことは伝わっているし、その内容についてはおおむね同意ではあります。私も言葉としては片づけるって使うし。いっぽうでその片付けとは捨てたり整理すること、と断言しちゃっている方もいるけど本当にそうなのかなあと私は思う。整理整頓のシノニムが片付けであるとはどうしても受け入れられないのだ。

「いったん話を整理しましょう」って言葉はあるけど、「いったん話を片付けましょう」って言葉は聞いたことがない。
アニメやドラマなどで敵を「片付けておしまい」ってセリフがあるけど、敵を「整理しておしまい」ってセリフも聞いたことがない。

ほうら、整理整頓と片づけは違う言葉なのだ。

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ここまで書いて私は急に怖気づいてしまった。気を取り直して話を続けよう。

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私はこどもの頃から整理整頓を特に苦に感じたことはなく、そもそも整理整頓をしているという感覚はかなり薄かった。似たような作業に掃除があるけど、私は掃除がかなり苦手。苦手というか重要視していないというか。頑張って掃除を終えてもすぐに汚れるからどこまで頑張ればいいのかわかんないんだよね。境目とか区切りがわからない。

いっぽうの整理整頓は明確に作業の終わりが訪れる。私はそのことを幼い頃から理解しているから考えずとも片付けてしまおうという気持ちになるのだ。整理整頓とはまた今度使うことを意識して生活を継続させるための行動だけど、それはあくまで作業自体を指すもの。そのいっぽうで片付けとは自分自身の心を整理することでもあるという思想もあるみたいだけど、私にはまったくといっていいほどピンとこない。片づけることで気持ちを整理することがどうしてシンクロするんだろう。たぶん私はみなさんと同じ常識を共有していない。

私が幼いころからうっすらと感じていて、当時はその正体がまったくわからなかった概念はこんな感じ。片付けとは目標を設定して何かしらの節目を終わらせるための儀式なんじゃないかな。こどもで例えるとわかりやすいと思うんだけど、おもちゃを片付け終えても楽しかった遊びの時間は布団に入っても残り続けてしまうから、今日はもう遊ぶのはおしまいにしたんだよと気持ちも一緒に区切りをつける。それこそが片付けという儀式だと思う理由だ。だから片づけが終わったら、なんとも思っていなくともわざとらしくきちんと言葉に出すことはとっても大事。

「片付けておしまい」

うん、しっくりきた。片付けとはたぶんそういうことだ。


※著者より
話の性質上、エッセイとして真に受けて読まれてしまう可能性があるのでこの話は特別に注意書きをします。タイトルにも【短編小説】と冠をしてあるように、この話はあくまで詭弁や小説らしい要素を含んだ短編小説です。

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気づくとまた誰かが私の後ろから覗いている。片付けのことに言及してしまったばかりに、私は後ろの誰かに片付けられてしまうんじゃないかと肝を冷やした。

私の意識にかかわらず、あいかわらずこの世界は大きな仕掛けで動いているのだ。

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