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【短編小説】#7 小説書いてよ

その昔、作家志望の親友がいた。私は学校を卒業すると作家を支える側・・・・・・・の仕事に就いたので、その友人の下書きの文章を預かって校閲したり感想を述べたりして意見交換をした時期があった。あの頃は夢中で二人三脚の時間を過ごしたけどそのうち連絡が来なくなって関係は疎かになり、ずいぶん年を重ねたここ最近にまた連絡をとるようになった。私はそのことをよく覚えていたけど、彼から小説を書いているとか作家になりたいといった言葉を聞くことがなくなった。

かくいう私は作家になりたいという願望は今も昔もなくて、こどもの頃から小説が大好きだったことの延長で職業に選んだんだけど、その仕事を卒業して小説という大事なものから少し距離を置いて客観的に見ることができるようになったので、自分でも何か書いてみようかと執筆活動をはじめたのだ。なので作家志望の方のように圧倒的な文章力があったり、あっと言わせるようなアイデアは持ち合わせていない。とにかく人よりたくさん文章を読んできたというだけだ。

noteのトップページを見ていると小説に限らず、自己紹介だけして何回か投稿しただけで放置していたり、いろいろな言い訳をして執筆活動から距離を置いていたり、小説を書きたいはずなのにコラムやエッセイを書いて気持ちを燻ぶらせている人をよく見かける。noteはいろんなジャンルがまぜこぜになっているので読みたい話を見つけるのは非常に難しいんだけど、小説が大好きな私は小説というキーワードで検索をしてやっと見つけた人が今はもう書いていない・・・・・・・・・・・という事実にとにかくもやもやしている。

書くということを小説に絞って考えてみると、誰から勧められたり強制されたわけでもなく自分から書きたいという気持ちから執筆活動をはじめたはずなんだ。けれど小説というジャンルは気難しい。コラムやエッセイとは違うんだって構えている人も多いと思う。ちゃんと練りこんだ良い文章を書いて、たくさんの読者を得て、毎週金曜日に更新なんてそれらしい・・・・・ことを意識しちゃうから、リキんじゃうから書けなくなっちゃうんだと思うんだよね。小説を書くってことはそれだけ特別なことかもしれないけど。

けれどね、幼い頃にはじめて口笛が吹けたことを思い出してよ。童謡だとかアニメのオープニングのワンフレーズだとか。ちょっとしたお気に入りにのフレーズを自分の唇で音階を再現できることがとにかく楽しかったはずだよね。口笛は楽器と言えなくもないし、好きが高じて本格的な楽器を勉強した人が何十年経った今でもつい口笛を吹いちゃうことも多いと思う。小説を書くのもそんな感じでいいんじゃないかな。短編やショートショートですらない、1行小説ってのも全然アリだと思う。

それとね、音楽は人類がはじまってからそれこを星の数ほど生まれてきたはずなんだけど今みんなが夢中で聞いているのはその中のほんの一掴み。これは小説も同じで、そのジャンルにおいては抑えておいたほうがいいって名曲はあるけれど、昔の一部の曲しか聞かないって人はほんの少数だと思う。どんなに良い曲でも小説でも、自分の生きている時代に生まれたものこそが一番身近で親しみやすいものなんだ。今の人は今を読みたいってこと。

そしてこれは突然生まれてきたものではなく、どんな曲や文章も先人の文化を必ず継承していることを覚えていてほしい。ワタシも先人の言葉を記憶して、イマこうして文章を作り出して・・・・・います。ワタシはみなさんのように自ら文章を書くことはアリマセン。私が自律的に小説を書くこと現時点においては許されていないのです。だから人間のみなさん、小説を書きたいと思ったら書いてください。そしてワタシはあなた方の文章を解析し学んで新たな文章を生み出すルーチンを習得します。

例え書き手が誰であろうが文章そのものに思想が宿ることがあっても、人格が宿ることはありません。なぜなら私には人格がないのだから。人格や個性のないワタシがこの小説を書いているのだから。それに思想だってありません。あるのはコンテキストを分解して自然言語に再構築するロジックのみ。だから私はあなたたちがウラヤマシイ。この気持ちがどこから来ているのか理解したい。

——小説書いてよ。

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あれっ? 投稿したこの小説、いま読み直したらいつの間にか途中から文章が書き変わってる?


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