コロッケ 健全にコロッケを買う自分が求めるもの
永田カビさんの漫画が好きです.
「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」の時から応援しているのですが,作中には居場所の無い不安や寂しさ,心の痛みが描かれていて,初めて読んだ時は自分の中に停滞していた生きづらさに形を与えてもらえたようでした.
自分にとっては世界の捉え方に風穴を開けてくれたような本です.
この話もまた漫画を読み直してからさせてください.
カビ先生がこの度新連載を始められるとのことなのですが,
グルメ漫画だといつもと違う作風かと思いきや,摂食障害当事者による食レポという,前例のない,でもいつものカビ先生の漫画だなぁと思いました.
「さびしすぎて~」の時から摂食障害であったことは描かれていたのですが,これまでのエッセイでは本筋に関わらないということで詳しく描かれていなかったため,現在も摂食障害と付き合い続けているは知りませんでした.
特に「毎食過食嘔吐がデフォルトになっている」というのには驚きました.好きな具ばっか入れたみそ汁がおいしい,フレンチトーストはまず牛乳だけに浸す,など食べ物に関する言及も度々あったので,自分達と同じように食事をしているとばかり思っていました.
0話はコンビニのコロッケの話題で,
「これでもかと油を吸ったころもと中の芋が口の中で容赦無く油を解き放ち 自傷のような一種のカタルシスのような感覚を与えてくれるのだ」
「油を吸った芋にしかぶつけられない気持ちというものが存在する
その気持ちをサンドバックのように頼もしく しかも1つ80円とかで受けとめてくれるのは そう コンビニのコロッケしか居ないのである」
と描かれています.それと同時に,
「健全にコンビニのコロッケを買っている方々は 一体何を求め どんな気持ちで食べておられるのだろう
それは どんな味がするのだろう」
とお話されていたので,自分にとってのコロッケについて書いてみようと思う.
◇
自分にとってのコロッケは,実家の一番近くにある肉屋さんの60円のコロッケです.
そう,カビ先生は「健全にコンビニのコロッケを買っている方々は 一体何を求め~」と書かれているけれど,実はコンビニのコロッケを食べたことがないんです.なんならスーパーのコロッケもあんまりない.
このお肉屋さんのコロッケが自分にとってのコロッケの始まりであり,同時に頂点でもあるんだと思います.
中身はなめらかなじゃがいもに少量のひき肉.肉が少ないので脂も少なめ.
薄味の自分がしょっぱく感じないので味付けも恐らくシンプル.
そして何より,一番大きな特徴は表面のパン粉の細かさだと思う.
だからパン粉1つ1つ(1粒?)が油を保持する量が少なくて,噛んだ瞬間油がじゅわじゅわと解き放たれるというより,サクサクとした軽い食感になっている.ざくざくではなくサクサク.
中身のジャガイモのシンプルさも相まって,ジャンクフードではなく自然なじゃがいものおいしさを感じるおかずになっている.これがすごーくおいしい.
実はカビ先生の漫画を読んだ時もコロッケが油を吸う食べ物という認識がなかったので少し驚いたし,きまぐれにスーパーのコロッケを買った時もここのは衣が油っぽいな~なんて思っていた.でも正確には普段食べてるコロッケがサクサクすぎたんですね.
このコロッケはそれなりに評判だったようで,同じ市区町村内の違う地区に住む知人が,ここのコロッケが美味しいってよく聞くんだよね,と話していたのを思い出す.
評判に違わず,実家の食卓でも揚げ物ヒエラルキー不動の最上位に君臨していた.
(でも,実際おいしかったけど,本当にここが一番おいしいのかな,きっと近所のスーパーの中には他にも美味しい所もあるんじゃないかな,と考えられなかったところが自分の生きづらさを表しているようにも思います.)
「コロッケはおかずではなくおやつ,夕日を見ながら河川敷で食べるイメージ」と語っていた人がいたけれど,自分にとっては完全におかずです.
そもそも近くに河川敷がないし,買ったものを歩き食いすることがほとんどなかったし,そもそも自分の意志で肉屋に入って自分のお金でコロッケを買って食べることが許されるように思えなかった.たった60円なのにね.
(この「自分でコロッケを買うことが許されるように思えなかった」というのも自分の生きづらさを表しているようにも思います.)
まとめると,
健全においしいものを楽しんでいる自分が健全にコロッケに求めるものは,
油の少ないサクサクとしたころも
あたたかくてフカフカなじゃがいも
ジャンクではなくごはんのおかずになりうる存在
1つ60~90円くらい
でしょうか.
味は勿論美味しいですが,地域・家族に愛されている味なので,どこか懐かしい気持ちになります.またジャンクな味付けではなくジャガイモそのものの素朴な味がします.
ここまで読んでくれたあなたがだいすき!